3:虹色のウィンドウ
そしてもう、みんなで思いっきり笑いながら、森を進んでいくことにする。
少し奥まって陰が増え、湿った空気が多くなってきた場所で、アリカはスキルコールをする。
「『食材鑑定 パブリック!』」
レイジとタケルにも見えるように、アリカはスキルコールをすると、大体半径10メートルくらいの位置に、ウィンドウがポコポコ出てきた。
赤色・青色・緑色・黄色など色とりどりのウィンドウが視界に現れる。
「なになに、食用キノコ 収穫最適時期:今」
タケルが自分の近くに出た緑色のウィンドウを見て、書いてある文字を読む。
「こちらは、赤いウィンドウ化。毒キノコと書いてあるな……ハンター『薬師』が扱えば毒薬を作れるらしい」
赤いウィンドウの文字を読むレイジ。
「タケル、キノコ収穫するカゴと軍手出して! 緑色のウィンドウのあるやつ収穫して行って」
「はいはい、『ストレージオープン』。ほらよ。にきゅんも」
「おう」
「サンキュー」
アリカは目を輝かせて、食べられるキノコ類を採っていく。
楽しそうなアリカを見て、レイジは彼女に気づかれないよう顔を綻ばせながら、キノコを採っていく。
「ほう、青いウィンドウはまだ収穫時期前、黄色は虫食い・カビなどか……」
「色で教えてくれるので、すごく便利ですよー」
ウィンドウの色の意味を理解しながら、手際よく見たこともない色をしたキノコを採っていく。
アリカはこうやって食材を集めているんだと、またひとつ彼女のことを知ることができて、レイジの心が弾む。
夢中になって採取していたら、安全を示す緑色のウィンドウはもうなくなっていた。
カゴがいっぱいになったらタケルに預けてスキルで収納してもらい、またカゴをもらってと採取していたので、沢山採れた。
「日も高くなるから、そろそろ昼か……」
「いったん森を出て、お昼にしましょうか」
鬱蒼とした森でも太陽の位置はわかったので、時間を把握するレイジ。
アリカからの提案にみんな頷いて森を出た。
じめっとした空気から解き放たれて、爽やかな風が吹く。
そしてタケルに収納してもらっていた、レジャーシートやお弁当を出して昼ご飯だ。
朝も昼もアリカのご飯を食べられる事に、レイジは内心ウキウキしつつも、彼の表情筋の仕事は乏しいから、アリカには伝わっていなかった。
「どんな調理ができるか楽しみだなぁ」
アリカは家に帰ってから、キノコに食材鑑定をかけるのが楽しみで仕方ない様子。
「ってか、さっき『食材鑑定』でキノコ探していたけど、なんで違う効果発動してんの?」
「スキルウィンドウによると、幅広く使えるスキルらしいよ」
アリカは何もない虚空を指でなぞっている。おそらくウィンドウを表示して眺めているようだ。
ハンターの能力自体が不思議なものだし、アリカは深く考えることをしていない。
「そういや、魚に鑑定使っていたけど、人間にも使えるの?」
タケルは好奇心から聞いてみたが、アリカは顔を顰める。
「いやだよ、人間に向かって食材鑑定って言うの……」
ダンジョンボスは魚なのでなんとなく使う抵抗がないものの、人間は心理的な負担になるから唱えたくない。アリカはそう告げると、親友認定されてるのに食材ってコールをダンジョンボスにはするんだな、とタケルは呆れの気持ちを持ってしまう。
そして、昼ご飯を食べ終わり、キノコ狩りを再開させる。
収穫ウィンドウと、人手が増えたおかげでたくさん採れたため、アリカは人海戦術パワーは凄いんだなぁとしみじみ思う。
「ア、アリカ! ちょっと来てくれ!」
レイジの声が少し離れたところから聞こえてきた。
アリカは慌てて声がした方へ駆け足で寄っていく。タケルも声を聞いてそちらへ向かう。
「どうしました、レイジさん!」
「これを……」
後ろからしたアリカの声に顔を少し振り向けて、姿を確認したのち、しゃがんでいた身体を少し横にずらし、アリカに見えるようにした。
「え、ウィンドウが虹色?!」
食材鑑定で採取可能不可能を色で表しているはずのウィンドウ。採取可能と書いてあるが虹色のウィンドウは初めてみたのでアリカも首を傾げしまう。
「個別の食材鑑定でもしてみますか。『食材鑑定 パブリック』」
虹色ウィンドウのキノコへスキルをかけてみる。
◆◇――――――――――
縺オ縺九?縺のキノコ
ギョの好物
人間にとってはゴムみたいな食感と、アスファルトみたいな味。
おすすめはできない。
――――――――――◇◆
「お前用かーーーーーい!!!!」
その場に対象がいないけれど、アリカは大きな声でツッコミを入れた。
前に卵を掘ったときは、虹色のウィンドウじゃなかったのに。とぶつぶつ文句を言いながらも、アリカはそのキノコを採った。
「この虹色ウィンドウのキノコあげたら、進化したりして」
ゲーム感覚で口走り、タケルは笑う。
前に文字化けの名前をした卵を与えても、ダンジョンボスは美味しく頂いただけだった。
今回の虹色ウィンドウという特別感のありそうなものに、別効果があったりするのではと期待が沸いてしまう。
「鑑定で魚の進化アイテムって書いてないから大丈夫だよ、きっと」
引き攣って笑いながらアリカは言葉を返すも、内心そうだったら嫌だなと思ってしまう。
「まぁ、便利な地図や加護をもらえたのだし、好物ならダンジョンボスに土産として持って行ってもいいと俺は思ったが……」
間違いなくダンジョンボスはこちらに好意的である。その気持ちに応えたいと思ってしまうレイジ。アリカも同じ気持ちらしく、頷きを返す。
タケルにキノコを預け、再びキノコ狩りを行ない、たっぷり採取した。虹色ウィンドウキノコはさらに2つ見つかった。
森を後にして、魚のいる場所へ向かう。湖が視界に入る。少しして、水面が揺れてダンジョンボスが顔を出しキョロキョロ辺りを見回し、アリカたちの姿を捉えて、嬉しそうに跳ねた。
「うわ、すっごい水飛沫じゃん!」
まだ視界の遠くにいながら、湖が暴れている。
ダンジョンボスの巨体が繰り出す水飛沫は、近くにいたら間違いなく、水にさらわれる量が跳ね出ている。
しかし、アリカたちが湖の付近に来ると、跳ねるのをやめて、ヘリに寄って待ちの姿勢に入った。
「ただいまー、たくさんキノコ取れたよ」
アリカの声掛けにダンジョンボスはにっこり笑って頷く。
タケルがストレージから虹色ウィンドウだったキノコを3つ取り出して、アリカに渡す。
「!!!!!」
キノコを見たダンジョンボスは、カッと目を見開く。やはり反応したな、とアリカはニヤリと笑う。
「魚〜、お土産、いる?」
キノコを左右に振ってにっこり笑って訊ねると、ダンジョンボスはぶんぶん頭を振って頷きジェスチャーをする。
アリカは彼に向かってゆるくキノコを放った。
ボスが上を向いて口を開けると、その口に吸い込まれるようにキノコが入る。咀嚼と嚥下と思われる動作の後、ダンジョンボスの顔は恍惚に塗れたように、うっとりとしたものになる。
「はい、2個目」
「!!!!!!」
まさかのおかわりに、ダンジョンボスは驚いて後退りしてしまった。
よくよく見ると、アリカの右手と左手に1個ずつキノコが見えて、全部くれるのかと驚いてザバザバ震え出す。
「すごく有用なパッシブスキルをありがとう。ささやかながら、礼だと思って受け取って欲しい」
レイジの言葉に、ダンジョンボスは頷いて遠慮がちに口を開けると、アリカから手渡されたキノコをレイジが受け取りその口へ運んであげる。
美味しい好物をもらえて、ダンジョンボスはウキウキ顔をしながら、胸ビレを前側へ合わせてぺこりと1回頭を下げ、3人へありがとうのジェスチャーをする。
「それじゃ、またねー」
アリカたちは、ダンジョンの出入り口に向かって帰っていく。
ダンジョンボスはその姿を見送りながら手を振り、彼女たちがゲートの向こう側に消えてからも、しばらくゲートを眺めていた。