表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

第8話

ある日の昼休み。


シャルは珍しく一人で過ごした。


「平和だなあ…。」


物心ついた時には、ヴァル姉と二人で封印を守っていた。

何故なのか。


大変なことになるから、らしい。


そりゃあもう、頑張った。ものすごく。

ヴァル姉も頑張っていた。


でも、やはり根本的な疑問は晴れなかった。



何故『自分たち』なのか。



ひたすら魔力を封印に流し込むだけの日々。

食事も睡眠も交代制、途切れることなく、代わる代わる。


目的も意義も分からず、本能だけで過ごすような、淡々とした、でも全力を求められる日々。

姉が一緒にいてくれる、辛くない、大変じゃない、と思った。

思いたかった。



でも、やっぱりそうじゃなかった。



それなのに、ある日突然その日々が終わる。



突然の大爆発と大噴火。


皇竜2体でも封印の維持が限界の、まさに邪の竜の王、この世に混沌をもたらす災いの権化であった無竜キラスが、今じゃ『あの人怖い…助けて…』とか言いながら本気の引きこもり一直線だ。


「本当だったらお礼を言って首を垂れて、一生尽くします、くらいの出来事なんだろうけどなあ。」


何というか、そういう尽くす存在を侍らすイメージが、あいつには全く湧かない。

そもそもまだ6歳という時点で何もかもおかしい。


「…シャル、こんな所でどうしたんじゃ?」


どうやらヴァル姉が近くに来ても分からないくらい、思考が深かったらしい。

「んと、急な出来事が多くて、ね。」

「そうじゃな。ついこの間まで、あんな状態じゃったからな。」

「ヴァル姉は、どう思う?」


あの男に、どう接したらいいのだろう。

ヴァル姉はどう思っているのだろう。


「そうじゃなあ…。」

「うん。」

「礼を、言うべきなんじゃろうな。」

「うん…。」


まあ、実際そうだよね。

終わりの見えない日々を、ほぼ完全な形で終わらせてくれた人。ありがちな物語のように、惚れて尽くしてもおかしくない。


「じゃがなあ…あれ、じゃぞ?」

「だよね。うん。僕もそう。」


我が道。自分本位。ウルトラマイペース。

周囲の視線も軋轢も、何それ美味しいの?だけで済ませてしまいそうな、どの角度から見てもヤバい存在。


「でもね、実際やっていることはとても凄くて、出来事だけならとても格好いいんだ。」

「そうじゃな。」

「これから先どうしよう、って思ってたんだけど、結論は出ないね。」

「まあ、『万年ニート姉妹』じゃからな。目的、手段、未来と次世代、直ぐに結論も出まいよ。」

「あはは、そうだね。」

「幸運なことに時間だけはあるんじゃからな。二人でゆっくり考えようかの。」

「うん。」


ヴァル姉と二人で、こんなに穏やかな時間が過ごせるだけでも、あいつにはとても感謝している。

それに封印を吹き飛ばした時も、姉さんは巻き込まれかねないと言っていたけど、実際には自分たちに被害が無いように完璧にコントロールされていたことは分かっている。

凄まじい技術の極致。


それに、あいつキラスに一体何をしたんだ?



「まあ、ゆっくり考えるかあ。」


今はまだ、照れもあってそこまで親しげには出来ないけど。

ヴァル姉と二人であいつの両手を抱える日が来るのだろうか。


「それならそれで楽しそう。」


幸運なことに時間だけはある。

近い将来、僕たちがどういう過ごし方をしているのか。


そんなことを考えることが出来る喜びに、もう少しだけ浸っておこうかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ