第20話
今日は、本選3回戦が進んでいる。
エスのチームは、4年SSクラスのチーム『第六天魔王子の暇つぶし最強一人旅3人ver.』と試合をしているが、やはり高学年のチームは連携が堂に入っているな。
エスのチームはエスとラルクが中心でロットくんは連携にまだ不安があり、それは相手も分かっているはずだ。ただ、逆にあからさまに狙うとロットくんを囮にする作戦に引っかかる可能性もあるので、そこそこ慎重に立ち回っている感じが分かる。
とはいえ、あまり慎重になりすぎるとエスが突っ込むぞ、ほら。
「相手のチームもチーム名以外は結構な猛者だろうが、見る限りでは大丈夫そうだな。」と呟く俺。
その横で「おかしなチーム名しかいないのかこの学園は…」と呟くヴァル。
全くだ「お主もじゃぞ」「分かってないね」煩い食らえロシアンなストマッククロー「ぎゃー」。
ちなみに『三角関係』は無事に『鳶に油揚げ』とチーム名を変えたようだ。お前ら泣いていいぞ。
そんな思いを胸に今後の学園生活での課題を百八つ位挙げて一瞬で全部脳内解決していると、アイリーンが「ねえレイン、あれ。」と言ってエスの居る会場とは反対側の会場を指差す。指差す。指すと紛らわしいな。指指す、で統一したらどうだろう。読み方は指が2つ並んでいるから『まかんこうさっぽうっす』で。
「で、何だ?」
「あれ、何かおかしくない?」
「ん?」
奥の会場では、5年のチーム同士が試合をしているようだが、既に片方のチームが1人脱落している。つまり不利な状況というわけだな。ただ、何故か有利なはずの側が、攻撃を躊躇している。
「何じゃあ奴ら」「嫌な感じだね」というヴァルシャルの呟き。
それに被せるような「変ね…」というアイリーンの呟き。
そしてその雰囲気を敏感に察知し、とりあえずの勢いで何か言わなきゃという俺の「あいつ等、とんでもないものに手を出しやがって…どうなるか分かってんのか…」と雰囲気に任せたそれっぽい呟き。
一斉に「此奴本当に分かっているのか?」という目線を俺に向ける3人。
べ、別に分かっていないわけじゃないんだからねっ!という思いを胸に、痛いほどの視線を極限まで無視して試合に目を向けると、有利だったはずのチームは、一瞬で2人が脱落していた。
「別に変な能力を持っているわけでもなさそうじゃが…。」とヴァル。
「レインはどう思う?」というアイリーンの問いに、俺は答えた方が良いのだろうか。それとも、はぐらかした方がいいのだろうか。それともはぐれたはぐりんをはぐした方が良いのだろうか。迷う。迷ったときはこれ。1000面体サイコロ「1000以外は素直に答えよーっと」1000よし「多分お腹が空いていたのだろう。アイリーンの大好物である冷やし生温野菜サラダでも持っていったらどうか」「知っているなら答えて。」「はーい。」
ということで、相手の状況を一瞬で察知した俺。
ヴァルシャルとアイリーンの3人に「残った2人は意識がない。どうやら裏で操っている誰かがいるのだろう。薬かスキルか。相手のチームも、状況をどこまで詳しく把握したかは分からないが異常を感じたのだろう。だから逃げた。正確には逃げながら誰に報告するべきとか話し合いをしていたな。」と告げた。
「最初に脱落した1人は?」
「あれは3人チームにするためにクラスから適当に勧誘したんだろうな。試合が始まったら好きにしろ、とか何とか言っていたんだろう。」
「ふむ…。」
「目的が分からないわね…。」
多少の不安を見せる3人。それでも「人が一方的に操られている」状況を急に告げられても動じないのは素直に凄いと言える。
「今までは気付かれなかったのじゃろうか。」
「恐らく気付かれる前に試合を終わらせていたんだろう。」
「だとすると、やはり目的が気になります。」
「そうだな。」
目的か…演習会自体は規模は大きいものの毎年開催されているし、状況的に見ても演習会そのものにちょっかいを出すのが目的という感じがしない。
「もしかして、誰か特定の相手を狙ったりしているのかしら。」
「その可能性は大いにあるな。お~いにある。」
「本当に『大いにある』って思ってる?『お~い』って言いたいだけじゃないでしょうね。」
おさつどきっ。べ、べっつにそんなの関係ないし~、ベッツの膝蹴りベッツニ~。
だが特定の誰かを狙うというのは、古今東西よくある事象でもある。
「まあ、普通に考えれば、王子2人がいるエスのチームを狙っているんだろうな。」
「妥当な推理じゃな。」
「ただ『誰が』『何のために』がはっきりしない。」
「捕まえて吐かせればいいんじゃない?」
「本人の意識を無理やり抑えつけたまま、試合で圧倒するほどの身体操作を施す強者だ。操っている本人を捕まえられるならまだしも、試合に出た2人を捕まえても尻尾切りで終わると思うぞ。」
「同感ね。」
ちなみに先ほどの試合で負けたチーム『明るい自然』のリーダーに後で話を聞いたが、違和感を感じて最終的には自ら試合を降りるような形でチームメンバーの安全を優先したそうだ。
そして違和感自体の正体は良く分からなかった、とのことだが、良く分からない違和感に敏感に反応して試合を降りている時点で、相応の熟練度と経験を積んでいるのだろう。いいチームだ。
「で、どうするの?」
「放置しておくのは、些か不安じゃが?」
そうだなあ。
「エスなら心配ないだろうから、様子見だな。」
エスに絶対の信頼を寄せている俺からすれば、当然の対応だ。
ただ、今回に関しては他の面々から不安の声が漏れてきた。
大丈夫かなあ。
早めに動いた方が良さそうじゃが。
エスターリアさんを信頼するのは分かるけど…。
「全く問題ない。」
と、大きく口を開けて笑い飛ばすのが癖の他人が先ほどまで座っていた升席を眺めながら、感想を述べる俺。大丈夫大丈夫、いざとなったら自分もフォローするし。
だが少なくとも今回は、俺は、少々相手を見縊っていたようだ。




