第19話
さて、今日から始まった本選1回戦で、エスのチームは5年SSSクラスのチーム『三角関係』と試合をしている。ちなみに本選は8回戦まであるらしいが、予選で絞った割にはチームが多すぎないか?予選で絞ったというのは嘘なのか?と思ったら、久々に顔を見たアイリーンが「本選出場チームに早くに当たったチームは敗者復活の権利があるらしいわ。変則的なダブルエリミネーションになってるみたいね。」と懇切親切鬼切丁寧に説明してくれた。流石アイリーン使い勝手がいいぞ。
じゃあ予選って何のためにやったんですか、あなたの自己満足なんですか、とか言うのはまあこの際置いておくとして、流石に本選出場なだけあって猛者が多い。エスなら実力的には全く問題ないだろうが油断は大敵禁物呪物樽廻船だ。
それと『三角関係』のメンバー、始まる前からすんごい鬼気迫る表情で試合に臨んでいるが、まさかと思うがチーム内の恋愛バランスを試合の結果に委ねているわけではあるまいな。
それだとエスに「試合に賭ける程度の思いなら綺麗さっぱり忘れた方が皆さんのためです」とか言って断罪原罪超ハッピースーパーハッピーにノリノリな鬼畜スキルをお見舞いされちゃうZO☆
一方、我が『マジカルレイン』「急にチーム名変えるなよ」は、予選で敗退扱いとなった。
より正確に言えば、seisチームとの試合は無効試合となり、双方が勝ち上がりを拒否したことで敗退した形だ。
エスは残念がっていたが、これから幾らでも機会はあるさ、と慰めておいた。なお「それから兄さま、あまり結婚相手を増やすような行為は控えてくれると嬉しいです。どうせ放っておいても増えるんでしょうけど。」とか何とか言っていた気がするが、右耳のミニ右耳から入って左耳に抜けるように脳が指示していたのでちょっと何を言っているのか良く分からなかった。
「なあレイン、やっぱりエスターリアのチームが優勝すると思うのか?」
「ん?どうしたシャル。腹痛か?胃痛か?一気通貫か?」
「何でだよ。いや、エスターリアの実力は見れば分かるんだけどさ。ほら、この学園って生徒がものすごく多いし、「まだ見ぬ強豪が我らの行く手を阻むこともあり得ると?」そういう可能性もありそうだなってな。」
ふむ。まあ、俺もそういう可能性を考えなかったわけではない。
今も『三角関係』メンバーは、前衛2後衛1のスタイルを基本としつつ、エスの動きに合わせて柔軟に陣形を組み替えている。この演習会ルールにおける熟練度は相当のものを感じるし、実際このような高度な連携を見せてくれるチームは、他にもいるだろう。
ただ、拗れた恋愛関係を試合に持ち込むのは止めろ、と思うのは俺だけではあるまい。そもそもチーム名を何とかしろ。いっそ『ずっと友達でいましょう』とかに変えてしまえ。
ちなみに今は、我が『RS-232Cレイン』「だからコロコロチーム名を変えるのをやめんか」のメンバーとアイリーンの4人で本選会場に来ている。
「本選会場はこのあたりから一望できるからの、レインみたいにヤバい奴がいれば、直ぐにわかるじゃろ。」
「俺みたいに超絶チートニートハートビートヒートレートホートピア不連続面な奴が他にいるかもって?」
「いやすまん、もっと正確に言おう。お主よりもまともな性格でヤバい実力の奴じゃ。」
何だと。俺よりもまともな性格ということは、それはほぼ俺じゃないか。何故なら俺よりもまともな性格な人物は一人しか知らないからだ。
【もしかして私ですか?】
そう、イリス………ではありま、せん!
答えは俺。俺を凌駕するのは俺だけ。俺が唯一にして至上。空・前・絶・後のこの俺が…
「重ねて言うが、お主よりもまともな性格の他人で、ヤバい実力の奴じゃ。」
「そうだね。」
さて、一瞬で冷静になった俺。
何となくヴァルに梅干しの刑をしつつ、更に何となくシャルに指四の字固めをかけておく。
「「いたいいたいいたい!あうぅ…!!」」
こめかみを押さえて蹲るヴァルと、右手を押さえてゴロゴロ転がるシャルを横目で見ながら、本選会場を眺めると、エスは勝ったようだ。
「よくぞ生き残った我が精鋭たちよ。」
「ありがとうございます。結構ギリギリでしたよ?」
そうだな、ロットくんが布を取られる瞬間とエスが相手の前衛から布を取るのがほぼ同時だったからな。少しでも遅れていたら危なかっただろう。
「それでも勝ったことは誇っていいぞ。」
「次はもっと上手く連携したいですね。」
「そこは王子ズに期待しよう。」
少し離れた所では、ラルクがロットくんにアレはこう、コレはこう、と反省会のような指導をしていた。相変わらずロットくんは真面目だ。次はもっと上手くやれるのではないだろうか。
その様子を見ていた俺に気付いたのか、ロットくんの顔がこちらを向いた。
何やらジーッと見られているな。これはもしかして…恋の予感?羊羹?溶岩?俺は、その、ちょっとこう…できれば同性よりは異性のほうが良いかなとか…いやあの…。
「何考えてんだレイン。」
「またいらん事でも考えとるんじゃろう。」
外野がうるさいので再び刑を執行すると、ロットくんがプイッっと顔をそむけた。
なるほど。これはつまり、あれだな、えーと…「ちなみに兄さま、以前ラルクやロットさんには『兄さまは私がこの世で最も信頼を寄せている方です。何処までも一緒です。』と伝えています。」おお、答え合わせをするまでもなく、向こうから答えが飛んできた。
要はロットくんの脳内ではエスターリア姫を惑わす悪い魔法使いレインめ、僕と勝負しろ!僕が勝ったら姫を開放しろ!ちなみにもう少し僕が強くなるまで待ってもらえませんか?あ、別に大丈夫と?えっと、そこまで待たせはしないと思います、はい、ということだな。そうに違いない。仮に違っていてもクレームは受け付けませんのであしからず、足柄全図、足からズッ。おそまつ。
それと後ろでニヤニヤしているラルク、お前が元凶だぞ。ちゃんと弟をコントロールしろリモコンでも使え少し歪な形のリモコンだがまだまだ使えるぞ。
「それにしても兄さま、タリア先生との事は、試合する前から思いついていたんですか?」
「ん?ああ、そうだな。何だか生き辛そうにしていたというのもあるが、タイミングも丁度良いと思ってな。」
「つまり、私たちの実力をお披露目する機会、ということですね。」
「そうだな。エスが以前言っていたとおりお披露目は必要だと思ったが、折角だから『本質的なところではまだまだ幼い子供』という印象を周りに与えておく方が、後々得っぽいだろう?」
「そうですね。ただ、隠しきれていない気がします。」
「かなり上手くやったと思ったんだがなあ。」
「少なくとも私には、動かせると思うのが馬鹿らしくなるほどの超重量を手足にぶら下げて普通に戦っている様子がはっきり見えました。」
「まあ見えるのはエスくらいだろうが…気を付けよう。」
「はい。」
次回の更新は14日(月)予定です。