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第16話

スニュートスニア魔導学園には、9つの履修コースがある。

そのうちの一つ、主に肉体の強化を扱うコース『seis』では、強化に係る効率性、強靭性、持続性、そして後遺症等の影響を排除するための医学的知見などを重視して学ぶ。


「タリア先生。」

「ウェスター先生。今日はもう終わりですか?」

「ええ。」


seisコースを担当する多くの先生の中でも、タリアは十二分な医学の知見と、肉体強化を主とするseisコースを履修する意義を深く理解し、様々な研究を進めつつ生徒の指導に熱心でもあり、生徒のみならず先生たちからの信望も厚い。


そして何より、知性を感じさせつつ穏やかで愛くるしい顔立ち、波を打つように輝くシルバーブロンドの髪、母性を感じる豊かな胸、常に柔らかい笑みを浮かべて穏やかに言葉を紡ぐ様は、男女問わずその魅力に引き寄せられてしまう。


seisコースに在籍する生徒なら一度はお世話になる回復の専門家、生徒の指導方法に悩む先生方の貴重な相談相手、圧倒的な知識量と包み込むような優しさを纏った学園屈指の才色兼備、そして王国が誇る7人の大魔導士の一人である『抱療のタリア』である。



実はウェスターは、もう少し残って仕事を進めようと思っていた。

だが【タリア先生と一緒に帰れるかも】と少々期待をしつつ、自分は帰りますがタリア先生も一緒に帰りませんか、と偶然とはいえ鉢合わせたこの機会を最大限活用するつもりだった。


だが、残念ながら上手くはいかなかったようだ。

「私はもう少しだけ残りますので」

と言われた瞬間、しまった、と思ったが後の祭り、ここでしつこく付き纏うのは逆効果だと瞬時に判断したウェスターは、次はもっと上手く誘ってみせる、と決意を新たにその場を去った。



そんなウェスターの後ろ姿を見ながら、タリアは軽くため息をつく。



タリアは少し前から、悩みがあった。


自分はこの学園の理念が好きだ。

先生方も生徒も皆、魔導の高みを目指して一心不乱に励んでいる。

自分も頑張っているとは思うが、この世界の平和と幸せに少しでも貢献できるよう、もっと、もっと自分が授かった能力を極限まで高めていきたい。


そんな思いとは裏腹に、最近自分は注目され過ぎている。


大魔導士に選出される前から感じていた視線。

それは明らかに、自分の容姿に対するものだ。


少しだけ幼さを残しつつ、整い過ぎた顔立ちはまるで天使のようだ。

清潔感のある上着を内側から押し上げる豊かな胸は母性と欲を感じて止まない。

細いながらも鍛えられた、しなやかな手足は美しいの一言。

美少女と美女の境目、蜃気楼のような美麗さを体現しているのは奇跡だ。



ありがとう皆さん。

でも、別に『いらない』んです。


自分は、自分の知識と知恵と魔導で、自分を愛してくれた大切な家族と、大切な家族がいる人たち、これから大切な家族が出来るであろう未来の人たちを、少しでも幸せにしたいだけなのだ。


麗しい見た目がいらないなんて、贅沢な悩みだ。

見た目に悩む人だって多いのだろう。


ごめんなさい。


でも。


でも。


自分がいくら控えめに過ごしても、先ほどのようになってしまう。


ウェスター先生はとても真面目な人だ。だからこそ、自分の存在が誰かの行動を狂わせてしまうことには耐えられない。

彼には彼の仕事があるのに。

自分と会わなければ、きっと今日も遅くまで仕事に没頭し、生徒に、学園に貢献してくれていたはず。



タリアの悩みは他の人には理解されないかもしれない。


だからこそ、タリアは一人悩む。



いや、正確に言おう。

悩んでいた。

過去形だ。


今はただ、自分の悩みなんてちっぽけだった。

贅沢な悩みだった。


そうとしか思えなくなっている。



無言なのに、雄弁に、彼はこう言っていた。




先生、格好悪いっすね。

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