第14話
演習会の予選が始まった。
以上。報告終わり。
では流石に味気ないな。もう少々説明を追加しよう。
学園全体で約8,000人の生徒がいると言いつつ、演習会は実年齢の差を埋めがたいルールなので、実際に勝ち上がるのは在籍4~5年目の高度魔術履修クラスの面々がほとんどだ。基礎履修や応用履修クラスである1~3年目の生徒では、魔導的な実力はさておき基礎となる身体能力に違いが大きいからな。
ちなみに野郎特効SSSSAチーム本陣の我が『フルグラレイン』と、エスが率いる別動隊『エスと二人王子びんびん物語』は問題なく勝ち上がっている。ま、当然断然徒然だな。
「少なくとも俺のチームは俺が直々に訓練しているからな。連携も完璧だ。」
「兄さまとの訓練はとても勉強になりますから、お二方も良い経験となっているのではないでしょうか。」
と、一緒に予選各会場を回っているエスがにこやかに答える。ちなみに二人とも学園支給の学生服だが、やたらとキラキラしたこの服は、あまり好きではない。何故かというとキラキラ過ぎて目が、目がぁ…な遊びが出来てしまう故に遊びに没頭して気が付いたら次の日の昼食タイムになっていることがままあるからだ。何という罪深い服。世の中は罪と遊びとキラキラに満ち溢れている。
それからエスとの組手も先日から何度かやってみたが、限定された身体強化・身体操作という技術の範疇にも拘らず、体捌きと影光流歩法、それから視線と殺気と第八感によるフェイントが以前よりも格段に研ぎ澄まされている。これは隠れて鍛えていたな。そうだろうそうに違いない憎めない奴だ!「兄さまに教わった技術に対しては真摯に向き合っていますので」憎めない奴だ!
「アレを『良い経験』で済まそうとするエスターリアが急に恐ろしく見えてきた。」
「ううむ『死を実感するまでは準備運動』などと豪語する存在がまさかもう一人おるとは…。」
後ろで不穏な会話を繰り広げているヴァルシャル姉妹も同行しているが、何やら疲れているようだ。
健康第一で頼むぞ。何ならもう一訓練どうだろうか「元凶が何を言うか」「鬼かお前」ははは、まだ元気そうだな!
さて、予選も大分進んできたが、やはり堅実な連携を組んでいるチームが順調に勝ち上がっている印象だな。
「兄さま、あのチームはどうですか?」
「ん?ああ、そうだな。基本的な三角陣で前衛が円歩法を中心に回避、後衛は前衛の状況を見て押し引きを常に判断、三角陣を維持しながら、か。一見無難に見えるが、実は悪手だな。」
「前衛の負荷が大きすぎますか?」
「そうだな。ルール的にどうしても持久戦が多くなるからな、実践なら有効な手の一つだが、今回は負荷を3人に分散させないと厳しいだろう。」
「兄さまのチームも、シャルさんに負荷が集中していますが、大丈夫ですか?」
「そうだな。だから普通のチームなら破綻する可能性が高いが、幸いにして首を落としても一瞬で生えてくるくらいのタフさを持つ竜「生えてくるわけがあるか馬鹿者!」だ、1ヶ月くらい寝ないで回避し続けても問題ないくらいの気力と体力を醸成させるつもりだ「何度でも言うが相手の状況をよく見ろ!これが大丈夫に見えるのか!?ああ?」何も問題は無い。
そもそも俺が手を出し過ぎてしまうと、敵味方の目印布と上着と下着と倫理と羞恥心をまとめて吹き飛ばしてしまう可能性もあるからな。二人には頑張ってもらおう。
「参考ですが、兄さまの立ち位置はどういう?」
「ふふふ。決まっている。エス対策に全力だ。」
「光栄です兄さま。胸を借りますね。」
というかエス対策が出来ないチームは勝てないだろうからな。当然だ。
そのまま4人でしばらくウロウロしていると、歓声が上がっている予選会場があった。
「何やら盛り上がっているが、何だろうな?」
「行ってみますか?」
「そうだな。行ってみよう。」
この演習会は、そこまで勝ち負けを追求する感じではない。なので大きな歓声が上がるというのは比較的珍しいのだ。
そして、その会場に着いたとき、シャルが「レイン、あれ」と指をさす。
「どういう事?」
「いや、正直分からん。」
そこには、陽の光を浴びてキラキラと輝く髭を大事そうに撫でつけている学園長が、拳を高々と上げて決めポーズを取っていた。