第13話
演習会の予選が近づいたある日、ラルクに声をかけられた。
「レイン。ちょっといいか。」
「ん、どうしたロットくんのお兄さん的な方。」
「何だそれは。この間まで普通に名前呼びだったろう?」
「最近、エスが『ロットさんは技術の吸収が速くて、かつ努力家なので連携のしがいがありますね』とか何とか言ってロットくんの話題がラルクよりも多めだから、だな。」
「つまりフォレスト家ではロットの方が話題になっている、ということか。」
「俺が『シャル相手に11人に分身して回避の練習だ!と言いつつ各分身体の使い魔を含めて35身攻撃を仕掛けたら、かわせるかこんなもん!とキレてたんだよ〜』と言ったら、何故かロットくんの回避体術と視線誘導の話になっていたり、何かと話題になっているのだ。」
「ふむ。」
うーん、何となくだが、ラルクが心の中でニヤニヤしている気がする。
「まあ、エスターリアは純粋なチーム仲間への助言と指導の枠を出ていまい。」
うーん、何となくだが、ラルクが心の中で『それでも関係が深まるのは何より』とか考えている気がする。
むむ。
このままラルクのじゅ…じゅっつ…じゅっつゅーにハマるのも癪だから何とかせねばじっちゅう、じゅっつう…。あまり親しくし過ぎるのもお父さんは許しませんよ、と後でエスに言っておこう今決めたじゃあお母さんは許すのか?永遠の謎だ。あと、じゅっちゅう。術中。よし。では気を改めて。
「貴様のじゅっつーにはハマらんのだ!わははは!」
「まあ、笑ってごまかすのは構わんが、別に始めから期待していた訳ではないぞ。」
何だかラルクに情けをかけられた気がする!なんて奴だ次は覚えてろ!といって覚えていたぞ!とか何とか覚えていることを前提に話が進む展開を見たことが無いな。「行けたら行く」からの本当に来たのかよ!みたいな。
「実際のところ、本当にそこまでの他意は無くてだな、学園にいる間は別に命の危険があるわけでもないし時間も比較的自由に使えるわけで、今のうちに色々な経験を積むのは悪いことでは無いと思っているんだ。」
「確かにそういう面はあるな。俺も先日ヴァル相手に『大丈夫大丈夫死にそうだと思ってからが訓練』と言い張って100人に分身した俺と100人組手をやったら『殺す気か!』と怒られたが、実際のところ本気で殺そうとは思ってなかったからな。まあ、別に竜だし大丈夫だろと適当に1兆℃の火の玉とかぶつけてみたら危うく前科が付くところでちょっとビックリしたが。」
「それはお前が悪いぞ。」
まあ、エスも今はそこまで交友関係が広い訳でもないし、純粋に人との繋がりを広げる、要は人脈的なものを作るという観点寒天全店心太で見ればロットくんとの付き合いもあり寄りのありだ。あと寒天屋が全店心太屋になったら寒天相場が急騰しそうだ今の内に先物やっておこう。寒天の先物?寒天の先は寒天?
「それから、先日レインの両親と少し話をしたよ。」
「それはつまり俺達と入れ替わりで卒園した兄貴の話だな了解痛快大殺界。」
「物わかりが良すぎて速すぎるので少々面食らうが、そうだな。新卒だが文官武官どちらでもこなせる万能かつ有能ということで、王宮内でも是非うちで従事させたいという声も多い。」
まあ、俺の兄貴だ、友情・努力・勝利には事欠かないだろう。しかも接近戦OK、中長距離戦OK、それでもって書類仕事も作法も執務態度も完璧というインド人もびっくりの超絶万能選手だ。デカスロンとかボクシングと将棋の異種混合戦とかやればとんでもない記録を残しそうだ。
「俺の生活が比較的自由になっているのも、有能な兄貴のおかげというところもあるだろう。兄弟のありがたみが実感できるというのは良いな。今の世の中、兄妹に拉致られたり殺められたり性転換させられたり人間をやめさせられたりとかが多い現状、キチンを目を配ってくれるのは有能まるで神様。イリスも頑張れ。」
【自分結構頑張っていると思うんですけど…】
そうだねー頑張っているねー。うんうんえらいえらい【全くもって心ここに無い発言!】えらいえらい。
「それで兄貴は何処に行くのか決まったのか?」
「いくつか候補はあるんだけどね、まだ正式には決まっていないんだ。」
家族が認められるのは良いことだと思うが、普通は卒園と同時に決まってもおかしくない。何かトラブルがあったか…?もしかして大いなる陰謀が左折するときに『陰』と『謀』の内輪差に巻き込まれてぺしゃんこになったのでオリガミ国目指して逃亡したりしたとか?十分あり得るな。
「単に配属を希望していた部署を見学したりしていただけだよ。いっぱいあったからね。時間がかかってしまった。」
「そうか。俺の兄貴つまり超・兄貴の能力なら陸海空光海風海大空大地何処でも大丈夫だろうが、良い巡りあいになることを祈念して献杯。」
「しっかり決めさせてもらうよ。」
そういえば兄貴の名前ってなんだっけ?まいいか、そのうち思い出す時が動き出すだろう。
「ところでエスターリアは夫にするなら年上年下とか聞いていたりしないか?」
「聞いたことはない。何故なら5歳児にする質問ではないだろうという配慮。」
「君から正論が返ってくるのは違和感があるが、確かにそうだな。世の中の大部分が年上だしな。」