第10話
さて、今日は食堂にやってきました。
「食堂とは一体どういう所なんでしょうか、今から楽しみです!」
「兄さま、お話もいいですが、先ず並んでしまいましょう。」
はい。
ということで今日も食堂でランチミッションの始まりだ!なお勝利条件は日替わりA定食の取得だが、失敗すると遊星からの物体X定食になるから要注意だ!
「しかし相変わらず広いな。」
「そうですね。」
全校生徒約8000人+先生方の胃袋を支える超重要施設だからな。もしここが襲撃されたら学園の総力を結集して不審者をボコボコボコのボコにするだろう。いや、消し炭か?それとも良純か?
「しかもこの規模で売り切れメニューとかを見たことがないのは、スタッフ超有能くん。」
「もしかすると思考を読まれていたりするかもしれませんね。」
と言いつつクスクスと笑うエス。まてよ、それもあり得るな。調べてみよう。汝の正体見たり!厨房魔人ハラへリンガーストラトス!ふむふむなるほど。
「全然そんなことはなかった。単に天候や時間帯や外気温と室温の差や過去数年間のメニュー別消費量や不快指数やカップル成立度や下水処理施設の細菌繁殖データを基にした体調分析などから予測して調理していただけだった。」
「凄いです。思考を読んだ、と言われた方がよっぽど納得です。」
「全くだ。まっ・たく・かん・たん・だ。いや難しいな。」
とんでもない才能や能力をもつ存在というのは、案外身近にいるもんだ。すぐ隣にもいるしな。
あと遠巻きにこっちの会話を聞いている奴ら、「エスターリア嬢なら全てを詳らかにされても本望」とか「私の全てを読み取って下さい」とか呟くのやめろ。地獄に落として蛆虫にするぞ。
さて、無事に本日の日替わりA定食「竜の尻尾定食」をゲットした俺。ジューシーな肉を塩と香辛料だけというシンプルな味付けで味わう逸品だ。
もちろん何かの肉を例えているだけなんだろうが…まさか本物じゃあるまいな?本物だったら…迷わず成仏してくらさい。
「兄さま、何処に座りましょう?」
「そうだな、えーっと。」
ということで座る所を探していると、何やら手招きしている輩がいた。
当然選択肢は一つ。別の場所に行こう。と思ったが想像以上の圧を感じた俺は、素直に招かれることにした。
「うおーい渋々来たぞラルクそして真面目にふまじめロットくん。」
「相変わらずだけど君はそのくらいで丁度いいね。」
「ラルク王子、お招きありがとうございます。」
「名前で構わないよ。僕もエスターリアと呼ばせてもらおう。」
「それでは、以後そのようにいたします。」
む、ラルクめ、これは名前呼びからのエス狙いだな俺には分かるぜ。貴様のような奴にエスはやらん!と五寸釘をごっすんごっすんと指しておこう。ちなみに誰ならいいのかって?
んーーー、保留で。
「ラルクはいつもこの食堂を使っていたのか?」
「ん?そりゃあ学生だからね。普通に使わせてもらっているよ。メニューも豊富で味も良い。」
「そうだな。俺もこの食堂が無ければ入学と同時に全スキル・全CG開放して全単位を秒で取得して真・新高速四足歩行・改でさっさと退場して七つの海で光るクジラでも探していたところだ。」
「そうなったら私も一緒に行きますね。」
「入学したばかりのエスには申し訳ないが、こればかりは柚子レモン…もとい譲れない思いなのだ今決めた。よし早速最終チェックポイントである紐育に行くぞ!あ、行かないか。」
さて、一瞬で冷静になった俺。
ラルクの隣で真面目に教科書を読んでいるロットくんに目を向ける。
「ラルク、ロットくん超真面目。」
「ああ、俺なんかよりもずっと努力家だ。兄弟姉妹の中でも、努力を続ける才能は際立っている。」
「それは本当に凄いと思います。」
こんな会話が横でされていても、ロットくんの集中が切れない。そういえば何の教科書なのだろうか覗いてみるかえーと…収量増加効率改善…特に地下茎への作用を重視する研究と開発の最新動向…。
「兄さま、少しロットさんとお話してもいいですか?」
「ん?別に俺に断らんでも大丈夫だぞ。」
「はい、ロットさん、何か分かり辛い所がありましたか?」
どうやらエスは何か思うところがあるようだ。悩んでいるのかもしれないと思って話しかけてみたのだろう。
すると、ずっと下を向いていたロットくんが顔を上げて「特定の作物に作用させる工夫がとても勉強になると思っているのですが、具体的な魔導陣の作用順と結線の繋がり順が分かりにくくて…それでちょっと悩んでいました。」と、長いセリフを吐いた。何と普通に喋れるじゃないかロットくん。てっきりラルク横専門人間だと思っていたが少々失礼だったようだ。すまんなロットくん今度からは親しみと尊敬を込めて直列4気筒DOHCSSSロットくんと呼ぶことにしよう。
「なるほど。それでは、例えばこの第三象限区の二重双方向結線をそれぞれ単方向に分解してみたらどうでしょう。少し分かりやすくなりませんか?」
「えっと…あ、凄いです。急に見えました。」
「この話だけで見えるようになるのは、普段の努力の証だと思いますよ。これからも頑張ってください。」
ニコッっと穏やかな笑みを浮かべて、ロットくんを優しい目で見つめるエス。
その様子を見たロットくんが、軽く口を開けて少し呆けたような表情を浮かべる。
みるみる顔が赤くなるロットくん。
あ、これはもしかして。
「レイン、まだ5歳だよな?」
「うむ。魔性どころか傾国どころか全宇宙手籠めの5歳だ。」
「これは、手遅れだ。」
「何、貴様エスが既に手遅れだと?!今すぐ全治全開させないと究極剣電撃稲妻強烈雷鳴旋風回転十文字斬りでまっ、まっ、まっ、ぷたつにしてやるからそこで俯きながら空を見上げて瞑想しながらよく見ておけ!」
「そう言いつつも、レインも同感だろ?」
「まあな。」
これは手遅れ、俺も同感だ。