第0話
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果てしなく広がる常闇。
まるで音が出せぬかのように広がる静寂。
見渡す限り、光はない。
音もない。世界が、凍りついたように静まり返っている。
沈黙と闇が、全てを支配している。
突如、静寂の呪縛から解き放たれ響き渡る笑い声。
声の主は、周りの静けさなど気にしないかのように声をあげ続ける。
低く、ゆっくりとした嘲笑。
それは、あまりにも場違いで、あまりにも鮮やかだった。
まるで、常闇そのものを嗤い飛ばすかのように。
「縺昴繧」は笑う。
これで完璧だ、ついに計画実行の時が来た。
幾夜、幾月、幾年。
流れ落ちた時間の全てが、このためにあったのだ。
犯人、探偵、被害者…役は揃った。
それぞれは、それぞれの役割ごとに仕事をしてもらおう。
金持ちが遺した道楽島…舞台も完璧に整えた。
無意味な贅沢こそ、最高の舞台装置だ。
台本は未完成だ。だがそれで…それがいい。
計画とは、未完成のほうが美しい。
不完全こそ、完成に至る道。
全てがシナリオ通りに進むわけがない。だからこそ、私が微調整しなくては…
笑い声が止み、再び静寂が訪れる。
「縺昴繧」は言い聞かせる。
しかし焦ってはいけない、期を待たねば。
チャンスは一度しか訪れない。
奴らに逃げられるわけにはいかない。
落ち着いてことをなさねば、今までの計画が水泡に帰す。
焦燥は、破滅への近道だ。
深呼吸。
冷たく湿った空気が、肺を満たす。
「縺昴繧」は思う。
何も心配することなどない。
全能の逆説——それがすべてを教えてくれる。
神が創った世界を、人間が完全に理解することなどできはしない。
私が神の域に踏み込んだ以上、誰もこの手を止めることなどできない。
完璧だ。
滑稽なまでに、完璧だ。
……ただ一つ、気がかりな存在を除いては。
一瞬、「縺昴繧」は顔を曇らせた。
脳裏に、ある姿がよぎる。
ほんの、かすかな影。
彼奴なら、神の手帳を覗き込めるのではないか。
いや、それを越えれるのではないか…
しばらくして、「縺昴繧」は再び笑い出す。
確かに奴の存在は厄介だ。だが、私を脅かすほどではない。
奴も、所詮は私の駒でしかない。
駒に、使い手の意思は分からない。それは奴も同じこと…
勝者は、私だ。これは、事実だ。変わることはない。
「縺昴繧」は笑う。
果てしない夜を貫き、闇を、空を、そして世界そのものを、笑い飛ばすかのように。
その影は、しずかに、しずかに、常闇の中へと溶けていった。
残されたのは、息を潜める闇と、いつからか鳴り始めた微かな潮騒だけだった。
——誰一人、まだ知らない。
この夜の底で、すでに最初の一手が放たれたことを。