ダンジョンマスターの受難
私立安奈倉高校は、ある格闘技の世界で頂点に立った男が設立した学校である。
今の世の中で普通の会社に就職する為には、高校を卒業しているのは必須。
親が高校くらいは出て欲しいと願っても、本人が喧嘩早く素行が悪すぎて受け入れてくれる学校が無いのを見かねて設立した。
入学しても喧嘩三昧で力が有り余っている生徒たちの目を、何でもありの喧嘩からルールがある格闘技やスポーツに向けさせ、少しは社会に溶け込めるようにするのが目的。
喧嘩自慢の生徒を従わせる為に、教師たちもまた格闘技の世界で名の知れた者たちがその職についた。
当然ながら従わせる者も従わさせられる者もストレスが溜まる。
教師と生徒、何方のストレスもMAXに到達しようとしていた時、安奈倉高校の体育館に突然穴が開きそこから、こん棒や錆びた剣を持った小鬼や頭に角を生やしたウサギにアメーバーのような物が溢れ出てきて、体育館で剣道部の練習の為に木刀を振っていた、剣道部に無理矢理入部させられた部員たちに襲い掛かった。
当然部員たちは持っていた木刀で反撃。
ストレスが溜まっていた部員たちは襲いかかって来る奴らを撫で斬りにする。
撫で斬りにしてる部員の1人が叫んだ。
「カチコミだぁー!」
その声を聞いて、校舎から校庭から生徒が教師が手に手に手近なところにあった、バットやパイプ椅子などあらゆる物を持って駆け集まって来る。
そして駆け集まって来た生徒や教師は体育館内に溢れ出て来ていた小鬼や角ウサギやアメーバーを駆逐して、逆に穴の中に突入して行く。
穴の中には溢れ出る順番を待っていたらしい、二足歩行の犬や豚がいた。
だが安奈倉高校の面々は新たな敵に狂喜して躍りかかって行く。
幾つもの階層を走破し、何時の間にか生徒たちや教師たちを押しのけて先頭を駆ける設立者で校長の元格闘家が、最下層の扉を蹴破った。
扉を蹴破った先にいた男は元格闘家に捕まり怒鳴られる。
「オイ! 建てたばかりの体育館の床に穴を開けやがって、どうしてくれるんだ!
だいたいお前、何者だ?」
元格闘家に胸ぐらを掴まれ、振り回されている男はか細い声で返事を返して来た。
「わ、私は、此のダンジョンのダンジョンマスターです」
「ダンジョンマスター? 何だそれ? まぁそれは良いか。
それでお前は賠償する事は出来るのか? それともお前より偉い奴はいるのか?」
「はい、異世界攻略作戦の指揮を執っている将軍かいます」
「そいつを連れて来い」
「無理です」
安奈倉高校の体育館に出来た穴、ダンジョンは、安奈倉高校の体育館に現れた時と同じ頃に全世界数千箇所に出現し、出現と同時にスタンピードを起こす。
全世界の国々の軍や警察は溢れ出た魔物の群れから市民を救出するだけで手一杯で、反撃が後回しになり次々と国土を魔物たちに蹂躙されていたのだ。
その中で安奈倉高校に出現したダンジョンだけは出現したその日に攻略され、捕まったダンジョンマスターは、元格闘家に言われるままにダンジョンを拡張して、力が有り余っている生徒たちのストレス解消に貢献させられていたのであった。