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いちの町 8

その夜、アキナは盛大な夜泣きをした。

といっても、普段から夜通し寝ることはなく、2時間に1度くらい起きるのだが、普段とは明らかに様子が違った。

いつもは小さく泣きながら私に向かって手を伸ばしたり、授乳をせがむくらいで、すぐにまた眠りにつくのだが、今日は涙を流しながら大声で泣き、授乳しようとしても飲まないのだ。


あまりにも大声で泣き叫んでいるので、気になったのか、森の主が姿を現した。

欠伸をした後、ブルブルと首をふるわせている姿はまるで馬のようだ。

ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる姿を見て、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。


「ごめんなさい。うるさくて……」

「何を言っている。赤子の泣き声がうるさい訳なかろう」

「そう言ってもらえると、ありがたいです」


私達が話している間も泣き止むことなく、ひたすら泣く。

何かを訴えているかのように泣き続ける姿は見ていて辛くなった。


「普段はこんなに泣かないんですけど……」

「赤子なりに気を使っているのだろうな。ここは安全だとわかり、気が緩んだのだ」


森の主に言われてハッとした。


アキナとの旅は比較的快適だ。

アキナが育てやすい子だからだと思っていたが、そうではないのかもしれない。


アキナの性格は強情で、好奇心旺盛で、イタズラ好きで、困ることも多い。

だが、ここぞと言う時は、空気を読んで大人しくしてくれる。

普段は寝付く前に大きな声で唸るが、大人同士で話している時は静かに眠りについたりするのだ。


「いっぱい我慢させちゃっているんだね……ごめんね」


泣きわめく我が子を見て、胸が締め付けられた。

まだ0歳なのだ。

本当なら、安心できる場所でゆっくりと成長すべきなのだ。

それが、安心できる場所も提供できず、気を使わせてしまっているなんて……。


「謝ることなどなかろう」

「でも……」

「この子の、恐れを知らぬ好奇心、輝く目、笑顔を見れば、幸せであることは十分に伝わってくる。人と同じ生活をさせてやることが幸せではなかろう。気にすることなど何もない」

「……ありがとうございます」

「父親に会いに行くための旅なのだろう?子供のことを思って頑張っておるのだ。ちゃんと、この子には伝わっているから安心するがいい」


気がつけば涙が止まらなくなっていた。

ずっと不安だったのだ。


家族の反対を押し切って旅立ったのは正解だったのか、毎日のように自問自答していた。

旅は不便なことも多いが、私さえ傍にいればこの子は幸せだろう、大丈夫だろう、と毎日自分に言い聞かせていた。


旅を続ける生活をアキナがどう考えているか、本当のところはわからない。

でも、森の主に肯定してもらえて、少し肩の荷が降りた気がした。


ぎゅっとアキナを強く抱き締めて、匂いを嗅ぐ。

芳ばしい香りと、ヨダレでちょっと湿った香りが漂ってきた。

幸せだ。


「うっうっう……」

「落ち着いてきた?ギュってしながら寝ようね。大丈夫。ママが傍にいるからね」

「ひっく……ひっく……」

「愛しい〜愛しい〜ア〜キナ〜」


オリジナルの子守唄を歌いながら背中をポンポンと叩く。

アキナの呼吸が整っていき、ウトウトとし始めたのを感じながら空を見た。


星が綺麗だ……


「眠りについたようだな」

「ありがとうございました」

「儂は何もしておらんよ。母親は大変だな。多くの動物が母から産まれ、乳を貰い、育てられ、大人になってゆく。儂も大昔にそうやって育てられたはずなのに、忘れておったわ。さぁ、もう遅い。儂も寝るぞ」


森の主は前足を伸ばし、ゆっくりと伸びをしてから森の奥へと帰って行った。


なんだか、瞼が重い。

ここは安全な場所なのだ、そう思うと、今日はいつもよりもよく眠れる気がした。

4月から保育園だと思うと寂しくて、本当に親から離れて生活することが子供の幸せなのかと考えてしまう時があります。

働いて稼ぐことで子供を幸せにできる事もあるし、保育園で友達と過ごす方が楽しい事もあるでしょう。

でも、本当にこれでいいのかな、と考えてしまう。

そんな気持ちが文章に現れてしまいました。

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