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いちの町 5

円形状に開けたそこは、不思議な場所だった。


地面はふかふかの芝生でおおわれており、中央に石でできた机のようなものがポツンと置いてある。

祭壇と呼ぶには質素すぎるそれは、光の当たり具合や角度で色が違って見えた。


何が不思議かと聞かれても、うまく説明はできない。

でも、この場所にはなんとも言えない空気が流れているのだ。


「あの中央の祭壇の上にいればいいんですか?」

「いや、あれは作物などを置くのに使う。お前はその近くにいればいい」

「近くにいるだけでいいんですか?」

「あぁ。なんなら、この円形状の中ならどこにいてもいい。俺たちは、この辺り全体を祭壇と呼でいるんだ」


なんともアバウトな話しだ。

豪華な台の上に乗せられると思っていたので拍子抜けしてしまう。


ふと、アキナを見ると、楽しそうにキョロキョロと辺りを見渡していた。

何が楽しいのかはわからないが、手をバタバタとさせている。


「この場所が好きなのかな?ほら見て、鳥さんが……いないねぇ。リスさんも……いないなぁ。花は…………咲いてないかぁ」


子供に話しかけて気がついた。

そうか。生命が感じられないのか。


道中では鳥やリスなどの野生動物が沢山いた。

ピチチ、ビョロロ、ガサガサなど、様々な音に溢れており、適当な方向を見れば子供をあやすネタがある、素晴らしい場所だと思ったのだ。

それが、この空間に入った途端、何も無くなった。


「ぶぅぅう!」


アキナは手足をバタバタとさせて、下ろせと催促している。

確かに、アキナはかなり好奇心旺盛で、何にでも近づき、触り、口に持っていく子だ。

だが、こんなに何も無いところで騒ぐのは珍しい。

どうしようかと考えあぐねていると、机の上に作物を並べ終わった男たちが近づいてきた。


「じゃぁ、俺たちは行くからな。俺たちが見えなくなったら100数えてからこの笛を吹け。吹き終わったら、笛は机の上に置いておいてくれ。その後は逃げるなり何なりしていい」

「はぁ……。笛を吹くだけでいいんですか。しかも、その後は自由だと」

「俺たちは笛の音が聞こえる場所で待機している。吹かなければわかるからな、無駄な抵抗はするなよ」


何の変哲もない、ただの笛だ。

アキナが気になるのか手を伸ばす。


「ばっちいから、触っちゃダメだよ〜」

「神聖な笛だぞ!汚いとはなんだ!!」

「ぅぶえええええ!!」

「おーー。よしよし、大きい声がして怖かったね。大丈夫だよ。色々な人が吹いた笛なんて、汚いよねぇ?嫌だよねぇ?」


男たちをキッと睨みながら子供をあやす。

最近の育児では、ピロリ菌や虫歯菌の感染を防ぐために、口移しは勿論のこと、食器の共有すらNGなのだ。

誰が吹いたか分からない笛なんて、渡す訳にはいかない。


「はぁ……。もういい。俺たちは行くからな!机の上の作物は捧げ物だから食べるなよ!!」

「ぅばぁあああ!!!」

「はいはいはい。眠いのかな?お腹すいたのかな?おじさん達が行ったら授乳するからね〜。もう少し待ってね〜」

「わかったな!?もう、行くからな!?」


私が手で、早く行け、という仕草をすると、男たちは「ちゃんとやれよ!」などと口々に叫びながら去っていった。

机の上の作物?

嘘はつきたくないので無視したが、もちろん食べるつもりである。

餓死するくらいなら、罰当たりだと罵られる方がマシだ。


「さぁて、これからどうするか………。まぁ、とりあえず100数えますか」


アキナを地面に座らせて、自分もその横に座った。

アキナは泣いていたのが嘘かのように、ニコニコしながら足を伸ばしたり縮めたりしている。

そんなアキナを眺めながら、小さく口の中で数を数え始めた。

保育園の結果が出始めましたね。

皆さんはどうだったでしょうか。

皆、希望通りだと良いですね。

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