いちの町 4
荷物をまとめ終え、眠りこけている我が子を抱きながら、男たちと森の祭壇へと向かう。
ちょうどお昼寝の時間だったのは不幸中の幸いと言うべきか。
今のうちに情報収集をしておきたいところだが……。
「期限が過ぎているって言っていましたよね?どれくらいの頻度で生贄を捧げているんですか?」
「無駄口を叩くな」
「冥土の土産にそれくらい教えてくれてもいいじゃないですか〜」
「………」
男たちは固く口を閉ざしたままで、何を聞いても答えてくれない。
とりあえず、生贄に関すること以外の話題を振ってみることにする。
「あーぁ。この街に来るの、楽しみにしていたんですよ?治安がいいし、住民も優しくて、過ごしやすいって。前に行った街で聞いたら凄く評判が良くて」
「………」
「まさか、旅人を騙して処刑する街だったなんて。 近隣の街にお金でも払って情報操作しているんですか?罠だったとは気が付きませんでしたよ」
「……」
「なんなら、近隣の街もグルですか」
「違う!!!」
挑発に乗ってくれたようで、言い訳をするように話し始めた。
どうやら、無関係な人を生贄にするのは初めてのことらしい。
これまでは罪人を捧げてきたが、どんどん罪人が減っていき、些細な罪でも生贄に処すしかなくなってきた。
しかし、その些細な罪すら犯す人がいなくなってしまったということだ。
「生贄制度のおかげで悪人は駆逐され、貧困もなくなり、裕福で善良な人だけが残されたというわけですか。そりゃ、近隣の街からの評判がいいはずだ」
「申し訳ないと思っている」
「そう思っているなら、離してくださいよ」
「……なぁ、せめて、子供だけでも俺らに預けないか?本当に悪いようにはしない。約束する」
「といいながら、成長したらこの子を生贄に捧げるんでしょ?」
「そんなことは……っ!」
何か言おうと口を開いたが、言葉は出てこなかった。
そりゃそうだ。
血の繋がった子と、見知らぬ旅人から預かった子、どちらかを生贄に捧げろと言われたら、預かった子を差し出すに決まっている。
「子供は助けたいだなんて、偽善も甚だしい」
「そこまで言うことないだろう!」
心の声がつい漏れてしまった。
私の言葉に憤慨したのか、男は怒り出したが、怒りたいのは私の方なのだ。
「お前、どうせ逃げられるって思っているだろう。偽善ではなく、心から言う。子供は置いていけ!お前の子供は絶対に生贄にしないと約束するから!!」
「信じられませんね」
「絶対に、逃げられないんだ!!」
「祭壇に戻ってきちゃうってやつですか?本当に試してみたんですか?」
「俺自身は試していないが、本当に逃げられないんだ。信じてくれ」
「うーん……。情報がないと判断できないので、ちゃんと教えてください」
渋々とだが、男たちは生贄について話し始めてくれた。
生贄や作物などを祭壇に捧げた後、1ヶ月間は入口に人を立てて、生贄が戻って来れないように監視をする。
最後の3日間は街でお祭りを催し、最終日に再度、作物などを捧げに行く儀式を行うらしい。
「最終日に見に行くと、綺麗に白骨になっているんだ」
「白骨?」
「腐敗臭も何も無い。血痕もない。ただ、綺麗な白骨だけが残っているんだ。どう考えても自然現象ではない、何かが起きているんだ」
「見張りを立てている1ヶ月の間に、戻って来ようとする人はいないんですか?」
「戻ってくると息巻いていた人は何人もいるし、戻ってくるように指示したこともある。だが、本当に戻ってきた人は1人もいない。俺たちだって、罪人を使って色々試してきたんだ、例えば……」
「あ〜!!起きたのね、おはよう〜。大丈夫よ?ママがいるからね。ほらっ!見て、あそこに鳥さんがいるね〜」
目覚めて、ここはどこだと泣きそうになる我が子をあやす。
話の腰を折られ、男は呆れた顔をしているが関係ない。
子供が起きれば、子供が優先なのだ。
「……で、なんでしたっけ?」
「もうお前に話すことなんて何もない!もうすぐ祭壇だから、黙ってついてこい!!」
怒らせてしまったようだ。
やはり、社会性が欠如しているのかもしれない、と反省しながら男たちについていく。
子供に「綺麗な花だね〜」とか「木の実があるよ〜」なんて言いながら歩いていると、少し開けた場所に出た。
「さぁ、着いたぞ」
どうやら、ここが祭壇らしい。