いちの町 3
「生贄になってもらう」と言われ、唖然とする私に、男は続けた。
「既に約束の期限が切れているんだ。悪いが、今すぐに生贄になってもらう。拒否をしても無駄だ。女1人で男3人には敵わないだろう。大人しく言うことを聞いてもらおう」
「なるほど……。嫌だと言っても、無駄みたいですね」
嘘をつく必要がなくなったからだろう。
男たちは完全に開き直っている。
今どき、生贄だなんて本気なのだろうか?
だいたい、何に対して生贄を捧げているのだ?
もちろん、彼らの宗教や信仰を否定するつもりは無いが、流石に荒唐無稽だと感じてしまう。
「馬鹿だ、とでも言いた気な顔をしているな」
「え、いや、馬鹿だなんて、そんなぁ〜」
「はっ!馬鹿にしたければすればいいさ。どうせ、お前が生贄になるという事実は変わらないんだからな」
しまった。
気分を害してしまったようだ。
子供と2人で旅をしていると、取り繕う必要が無い上に、大袈裟な表情でコミュニケーションを取るので、全部顔に出てしまうようになった。
独り言も増えたし、社会性が欠如してきているのかもしれない。
「さぁ。その子供を渡してもらおうか」
「え?嫌ですけど?」
「抵抗しても無駄だぞ!」
「抵抗もしませんが?生贄になるなら、子供も一緒に、です」
「道連れにする気か!?」
酷い母親だ、とでも言いたげな顔をしている男たちを睨みつける。
酷いことをしているのはお前らだろう。
だいたい、可愛い我が子を手放すわけが無いのだ。
「生贄ってことは、殺されはしないんですよね?生きている状態で捧げることに価値があるんでしょう?」
「そうだが、結局殺されるんだぞ?」
「誰にです?」
「……」
男たちは神妙な顔をしながら口をつぐむ。
私の予想だと、捧げる相手など本当はいないのだ。
ただの慣習だろうし、これまで生贄にされてきた人達も、逃げたか野生動物に食われただけだろう。
「ちなみに、どこへ連れていかれるんです?」
「森の中だ」
「街の東に広がっている大きな森のことですか?」
「あぁ、そうだ。街から1時間ほど歩いたところに祭壇がある。そこまでは一本道で、他に道は無い。1ヶ月は入口に見張りを立てるから、帰ってくることはできんぞ」
一本道といっても、森の中だ。
自分で道を作ることもできるし、獣道だってあるだろう。
もちろん、熊や狼の危険はある。
もしかしたら、そういった猛獣が沢山いる森なのかもしれない。
だが、希望はありそうだ。
「逃げられる、とでも思っている顔だな」
「え!?いや、そんなことないですぅ……」
「あの森には不思議な力があるんだ。決められた道以外を進むと必ず祭壇へ戻ってきてしまう。まぁ、試せばいいさ。無駄だがな」
話は終わりだ、とばかりに男たちが縄を取り出し始めた。
私を縛るつもりらしいが、逃げにくくなるので困る。
「……お前は本当に全部顔に出るな。そんな顔をしても無駄だ。さぁ、こっちへ来い」
「あー、大人しくついていくので、縛るのはやめません?」
「ダメだ。逃げられたら困るからな」
「どうせ逃げられませんって。もしも逃げようとしたら、その時に縛ってくださいよ」
「ダメだ」
「子供がいる状態でどう縛るんです?私が抱いた状態でキツく縛ったら、窒息死するかもしれませんよ?生贄なのに、死んだ子供を捧げたら、マズくないですか?」
「……」
男たちが戸惑っているのがわかる。
あともう一押しだ。
「祭壇まで行けばもう逃げられないんですよね?逃げても祭壇に戻ってきてしまうんでしょ?それなら縛る意味なんてないですよね?だいたい、可哀想だ思いませんか?何も関係ない旅人を犠牲にしようとしているんですから、そのくらい融通をきかせてくれてもいいじゃないですか」
「あぁぁぁ、わかった!縛るのはやめる。やめるから、さぁ、行くぞ!!!」
面倒くさくなったのか、本当に可哀想だと思ったのか、縛るのはやめてくれたようだ。
これで生存確率が少し上がった。
「じゃぁ、荷物をまとめるので少し待っていてください」
「どうせ死ぬんだ、荷物なんていらないだろう。さぁ、行くぞ」
「え?私の荷物をどうする気ですか?盗むんですか?盗みは死罪ですよね?私の荷物を盗む罪で、私の代わりに貴方が生贄になりますか?」
「あぁぁぁ!もぅいい!!わかった。わかったから、好きにしろ。見張っているから早く準備をしてくれ」
うん。面倒くさくなったんだな。
諦めて扉の外で待つ男たちを片目に、急いで準備をする。
生死がかかっているのに、なりふりなんて構っていられないのだ。
母は強し。
子供の命もかかっているのだから、できることはなんだってしよう。
ゼルダの伝説の森みたいな感じなんでしょうかね。