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いちの町 2

自分の朝食を済ませ、子供の離乳食を食べさせ終え、午前中のお昼寝をさせる。

まだ午前、午後、夕方の3回昼寝をし、その昼寝は、何故か抱っこした状態でないと寝てくれない。

ベッドに置こうものなら、すぐに起きて、虐待でもされたかのように泣き叫ぶのだ。


ベッドの上であぐらをかきながら、眠る我が子を腕に抱き、顔を見る。

もしかしたら、旅という性質上、落ち着ける場所が私の腕の中しかないのかもしれない。

そう考えると申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。


ドンドン


ドンドンドン!!


「っぇああーーー!!!!」


アキナの泣き叫ぶ声が辺りに響き渡る。

ドアを叩く音で驚いて起きてしまったのだ。

慌てて立ち上がり、あやすがもう遅い。

まだ朝の9時だというのに、何事だ?


「早くこのドアを開けなさい!!」


外で叫んでいる声が聞こえてくる。

嫌な予感しかしないが、泣くアキナを抱きながら、片手でドアを開ける。

上下に揺れ、子供をあやしながら外を見ると、3人の男性がドアの前に立っていた。


「寝た子を起こすな、という言葉をご存知ですか?」


イライラしているのが態度に出てしまう。

相手が男だろうが、何人いようが関係ない。

なんびとたりとも、寝た子を起こしてはならぬのだ!


「よく、そんな飄々としていられるな!」

「いえ、飄々となんてしていません。怒っているんです。とてもね」

「怒るのはこちらだ!この盗人が!!」


この街は何かありそうだと思っていたが、まさか盗人にされるとは思わなかった。

嫌な予感がしたので午前中には出立しようと思っていたのに、間に合わなかったようだ。

出立の時間を告げたのは宿屋の主人だけなので、おそらく彼もグルだ。


「何故、私が盗人だと?」

「昨晩、強盗が発生した。犯人はお前以外ありえない」

「その根拠は?」

「お前以外の全ての住民にアリバイがあるからだ」


そんなわけがないだろう、とツッコミなるのをグッと堪えて、詳細を聞くことにする。


「強盗が発生したのは何時ですか?」

「夜の10時だ」

「私がこの宿から出ていないことは、宿屋の主人が証明できると思いますが?」

「宿屋の主人は10時に、お風呂に入りに家に帰ったそうだ」

「そんなわけないでしょ!仕事しろよ!」


ツッコミたくなるのをグッと……堪えられなかった。


「昨日の夜に強盗があって、今日の朝9時までに全ての住民への聞き込みが終わっていて、かつ全員にアリバイがあったということですか?」

「そうだ」

「そして、強盗があった時間に偶然、宿屋の主人はお風呂に入りに家に帰ったと?」

「そうだ」

「本気で言っています?」

「……本気だ」


自分でも、無理があるとわかっているのだろう。

私の目を一切見ようとしない。


「昨日から、私を犯人にする計画を立てていました?」

「そんなわけがないだろう」

「酒を飲まなかったから、こんな無理のある設定を通すしかなくなった、と?」

「……そんなわけがないだろう」


やけに酒を奢ろうとする人が多いと思ったら、やはり裏があったのだ。

薬か何かを入れた酒を飲ませて眠らせれば、罪なんて被せ放題だ。

授乳期間中でなければ酒を飲んでいたかもしれないと思うと、恐ろしい。


「で、仮に私が犯人だとして、どうしろと?」

「この街で盗みは死刑に値する」

「死刑!?」

「悪いが、本日死刑を執行する」

「しかも、今日!?」


なんとも突拍子もない話しだ。

突然過ぎて、理解が追いつかない。


「ちなみに、この子はどうなります?」

「子に罪はないだろう。死刑になるのはお前だけだ」

「私がいないと、この子は生きていけませんが」

「この子を引き取りたいという女がいるから安心しろ。お前の子は、この街で大切に育てよう」


昨日、何度もこの子を抱きたいと声をかけられたのは、値踏みされていたのだ。

そりゃ、この子は贔屓目なしで可愛い。

引き取りたい人なんてごまんといるだろう。


「まとめると、朝9時までに私以外の全ての住民への聞き取り調査が終わって、さらに、この子の引き取り先まで決め終わったということですか」

「そうだ」


なんとも用意周到だ。

馬鹿らしくて笑う気も起きない。


「用件はわかりました。で、実際のところは何が目的ですか?子供ですか?」

「いや、だから強盗は死罪で……」

「もう、そういうのはいいので」

「いや、だから……」

「自分たちも、無理のある話しをしているって分かっているでしょう?そちらの冗談に付き合う暇は無いので、目的を言ってください。場合によっては、別の解決策を提示できるかもしれませんので」


男たちが目配せをしながらコソコソと話し始めた。

時々「だから無理があるって言っただろう」などと聞こえてくる。


その間も、私は欠かさず上下に揺れ続ける。

アキナが小さい声で「あぁー」と呻いているのが聞こえる。

この状態になれば、あと数分で眠りにつくだろう。


「で?話しはまとまりましたか?」


コソコソと話し続ける男たちに痺れを切らし、声をかける。

すると、リーダーらしき男が前に出てきた。


「悪いが、お前には生贄になってもらう必要がある。拒否することは許されない」

「生贄!?」


作り話も突拍子のない内容だったが、真実の方も突拍子のない内容だった。

さて、どうしたものか……

現実の私の子供も抱っこでないと寝ません。

置くとすぐに起きて泣くので、ずっと抱っこです。

旅もしていないし、家の中は安全なのに、何故でしょうね……

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