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第5話 シャロンができるまで(2)

「十五歳になったわたしは、冒険者ギルドへの登録を決めました。ギルドで依頼が出ているモンスターを討伐すれば、食材は集まるし依頼の報酬は貰えるしで一石二鳥じゃないですか? それで生計を立てていこっかなーと思った訳です」


「なるほど、確かに……! 頭いいね、シャロンちゃん!」


「そんな簡単にわたしを褒めると、ラナさんへの好感度が一瞬で七倍になりますけれど大丈夫ですか?」


「チョロい! チョロすぎるよー、シャロンちゃん!」


 ラナさんがあたふたとしている。可愛い。


「そんな理由でギルドに登録を済ませたわたしは、『えっ、何このモンスター美味そう! こいつも美味そう!』という感じで、光の速さで依頼をこなしていきました」


「人助けをしてるはずなんだけれど、全く人助け感ないねえ!」


「そして……気付けば一ヶ月弱で、ギルドパーティーランキング一位に。わたしは晴れて大注目の大型新人になった訳ですが、その頃のわたしは毎日の五食とおやつを考えるので頭がいっぱいで、あんまり期待されていることに気付いていませんでした」


「さらっと一日五回もご飯を食べている! それだけでは飽き足らず、おやつも食べている!」


「よく知らん方々からパーティーへの勧誘を毎日のように受けるようになって、『な……なんか変だぞ?』とようやく気付いたんですよねー。物は試しにと一個仮入会してみたんですが、方向性の違いを理由に三日で追放されました」


「まさかの追放経験者だった! せ、先輩ー!」


 ラナさんが両手を組みながら、わたしを尊敬の眼差しで見つめ出す。多分尊敬されることではない気がする。


「ところでラナさん、覚えていますか? わたし、料理はからっきしできないんですよ」


「うん、話が衝撃的すぎて多分忘れようとしても忘れられないよ」


「なので、食材はどんどん集まるんですけれど、肝心の調理ができないので、まあ率直に言うと、生で全部食べていたんですよね」


「生で、って……えええっ!? お野菜だけじゃなく、お肉やお魚まで……!?」


「はい。そしたら、普通に食中毒になりました」


「た、大変だよー! ていうか、そりゃあそうなるよ! 誰もが予想していたよ!」


「まあわたし、回復魔法も勿論できるので、気付いた十秒後には治したんですけれど」


「その流れは、私予想できてなかった!」


「でも、すぐ治せるからと言って食中毒の苦しみを少しでも味わうのは嫌じゃないですか? なので、決めたんです――もう一度、料理の練習をしようと!」


「ん? なんか、嫌な予感が……」


 ラナさんが、ごくりと唾を飲んだ。


 わたしは親指を立てながら、笑って告げる。


「その決意から翌日! 新居が焼けました!」


「嫌な予感が的中したよー! というか焼けかけた、じゃなくて焼けたんだ! あちゃー!」


「まあラナさんと同じく一戸建てだったので怪我人はいないですし、行方のわからない親戚の空き家を譲り受けていたので、特に賠償とかもなかったんですけれど」


「よ、よかったあ! ……あれ、でも待って? シャロンちゃんって、魔法大得意だよね? 炎を消すくらい、簡単じゃなかったの?」


「勿論水属性の魔法を使って消火しようとしましたよ? なのに、何故かあの炎、水を浴びるとさらに大きくなるんですよね……」


「こっ、こここ怖いよー! 呪いの炎だったー!」


 ラナさんが怯えている。

 それもそうだろう。わたしも超怖かった。


「で、わたしは誓いました。金輪際、料理はやめよう! と」


「うん、それがいいね! それがシャロンちゃんのため、人のためだよ!」


「で、わたしは決めました。最高の料理人を探そう! と」


 そこまで告げてから、わたしはほのかに笑って、ラナさんを見つめた。


 彼女の目が、少しばかり見開かれる。


「具体的には、この国の料理店を巡りに巡ったり。けれど中々、これだ! という人に出会えなくて……そんなわたしが最近、ラナさんの噂を耳にしたんです」


「私の……噂?」


「はい。料理人探しに疲れて、久しぶりにこの町でふらっと入ったカフェがあったんです。そこのパスタが、本当に美味くて。つくってくれた方が言うには、『あたしなんてまだまだよ。あたしの姪がね、料理の天才なの』」


「えええっ……そ、それってもしかして、ミナおばさんのこと!?」


「御名答!」


 わたしは、パチンと指を鳴らした。


「わたしはミナさんから、根掘り葉掘りラナさんの話を聞きました。料理が大好きなこと、料理に関して神がかった才能を持つこと、それから今は冒険者を生業にしていること。それを聞いたわたしは、こんな企みを抱いたんです――ラナさんと、パーティーを組めないかな? って」


 ラナさんが、息を呑んだのがわかった。


「最近ソロパーティーに飽きてきたというか、なんかちょっとつまんないなあって思っていたんです。なので、誰かと一緒に冒険したいっていう気持ちもあって……だからわたし、見つけたいものを二つ一気に見つけられて、運命かあ!? と思ったんですよ?」


 話しながら、わたしはふふっと笑う。


「でもラナさんは、アンさんたちとパーティーを組んでいた。だからわたし、どうしよっかな? って考えながら、こっそりラナさんたちの様子を見守っていたんです。そうしたら、まさかの追放ですよ?」


「……だから、透明に」


「そうなんです。まあ、覗き見みたいで悪いなあとは思いましたが……許してください! テヘ!」


「かっ、軽う……」


 困ったように笑っているラナさんの言葉は、心なしか少し元気ないような気がした。


 その意味を考える前に、伝えてしまおうと思う。


 わたしは、お皿に残っていたジャムクッキーを一つ、掴んだ。


「今日、ラナさんの料理を食べて思いました。ああ、恐ろしく美味いって。この人は本当に、天才なんだなあと……」


 赤色のジャムに、うっすら反射する自分の姿。


「しかもそれだけじゃなくて、優しくて明るくて、わたしの変なボケにもしっかり反応してくれて。……こんな人と冒険できたらすごく楽しいだろうなあって、今そう思っているんです」


 少しの間目を合わせて、それからわたしはラナさんを見据えた。



「――ラナさん。どうかわたしと、パーティーを組んでくれませんか?」

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