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第30話 宝と激うまペスカトーレ

「ん、うぅん…………」


「お、ようやく起きましたか」


 ゆっくりとまぶたを開いたお姉ちゃんに、わたしは笑いかけた。

 お姉ちゃんはばっと立ち上がると、素早く辺りを見回す。


「あれっ……海に潜む絶望(クラーヌジア)はどうなったんだ!?」


「もうどっか行きましたよ? わたしの魔法がかなり効いたみたいで、逃げちゃいました。お姉ちゃんが寝ちゃうから大変でしたよ?」


「そうかあ……くっ、面目ない……」


 がっくりと肩を落とすお姉ちゃん。


「……ところでお姉ちゃんって、モテたいんですか?」


「は、ハァーッ!? いきなり何を言い出すんだシャロン!? べ、別にモテたいとか思ってないし! 恋人が欲しいとも、一緒にデートに行きたいとも、キ、キキキキキスとかしてみたいとも思ってないしッ!」


 頬を赤らめながら、そっぽを向くお姉ちゃん。

 不覚にもちょっと可愛かった。


「まあいいや、その話は今度じっくり聞くとして……本題の宝ですよ、宝!」


「おお、お宝タイムだーっ!」


 笑顔でバンザイするラナさん。可愛い。


「取り敢えず、わたしが海中を見てきますね。少し待っていてくれますか?」


「おっけー!」


「了解だ」


 二人の同意に、わたしは頷きを返す。

 それから魔法を使って空気の膜で自分を覆い、とぽんと海の中へ潜った。

 透明感のある世界の中を、ぼやけた視界の中で進んでいく。

 すると、何やら不思議な空間が目に留まって――――


 わたしは、そっと目を見開いた。


 *・*・


 わたしたちは、海の中で立ち尽くしていた。

 深く、呼吸する。

 魔法の力ではなく、この場所の不思議な力で。


 ――ここは海中にある、球体状の空間だった。


 そして、この場所から見えるのは、疑いようのない絶景だった。

 全方位に広がる、ほのかに青みがかった美しい海。

 差し込む光が、淡く優しく世界を照らす。

 海中のモンスターは、わたしたちに気付く様子もなく、優雅に楽しそうに泳いでいる。

 それはまるで、海底に落ちたガラス瓶の中にいるかのようで。

 広がる情景に、どうしようもなく見惚れてしまう。


「……これが、『世にも美しい宝』か」


 お姉ちゃんがぽろりと零した言葉に、わたしは微笑みを返した。


「どうですか? 宝を味わった感想は」


 わたしの質問に、お姉ちゃんはにっと笑った。


「――――最高だよ。ありがとう、シャロン、ラナ」


 *・*・


「うっまあああああああい!」


 わたしはラナさんのつくってくれたペスカトーレを食べ、思わずそう叫んでいた。


 最果絶海さいはてぜっかいで倒したモンスター――ちなみに海に潜む絶望(クラーヌジア)の足も入っている――がふんだんに使われている。

 トマトのさっぱりした酸味と海の幸の癖になる味わいが、もちっとしたパスタと絡み合って、ほっぺたが落ちてしまいそうなほどの絶品だ……!


「ああ、本当に美味いなッ! ラナのつくる料理は素晴らしすぎる! もぐもぐッ!」


 お姉ちゃんも、すごい勢いでペスカトーレを口に運んでいる。余りの勢いのよさに、口の周りにトマトソースが少し付いていた。


「ふふっ、二人に喜んでもらえてとっても嬉しい!」


「いやあ、このパスタも宝だなッ! 第二の宝、発見だ!」


「お、恐れ多いよー! ……そういえば、何だかお宝が景色だったのって、少し意外だったなあ。何というかもっと、金銀財宝! みたいなのを想像してたんだよね」


「まあ金銀財宝だったら初めに見つけた人が全部持って行くでしょうし、冒険者が教えてくれた宝となるとある意味納得かもですね」


 ラナさんとわたしは、頷き合う。


 そのとき、お姉ちゃんが手を合わせて「ごちそうさま!」と言うと、すっと立ち上がった。


「では、わたしはそろそろ失礼するよ。宝探しも終わったし、早く次の冒険に行きたくてウズウズしてるんでな!」


「え、もう夜ですよ? こんな夜中に出発するんですか?」


「ああ、わたしはショートスリーパーだからな! あと海に潜む絶望(クラーヌジア)に眠らされたからか、現在目が冴え切っている!」


「あの短時間の睡眠でですか……」


 驚くわたしに、お姉ちゃんは「ああ!」と笑った。


「では、またな! 二人ともありがとう、恩に着る! ハーッハッハッハッ!」


 高笑いしながら、お姉ちゃんは窓を開けて去っていく。いや玄関から出ろ。


 ラナさんが、困ったように微笑んだ。


「いやあ、すごい人だったね、セランさん……」


「ほんとですね……というかふと思ったんですけれど、あの人ソロで冒険してて大丈夫なんですか? 今日みたいに爆睡したらやばくないですか?」


「うーん、流石に一人のときは何か対策してるんじゃないかな……? 今日は私たちがいたから安心してたのかもね」


「だといいんですけれどね……」


 わたしはそう返しながら、大きく伸びをする。


「まあでも、最果絶海さいはてぜっかいは本当に綺麗でしたね。折角なので少し泳ぎたかったくらいです」


「そうなのー!? 実はね、私もちょっと思ってた! 泳いだら楽しいだろうなあって」


「お、マジですか! いやあ、行きたいですね、普通の平穏な海……」


 わたしの言葉に、ラナさんが「じゃあさ!」と目を輝かせる。


「明日、行こうよ、海! 冒険はちょっとひとやすみして、まったり過ごそうよー!」


 彼女の提案に、わたしは目を見張って――

 それからパチンと、指を鳴らした。


「大賛成です!」

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