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第1話 追放された美少女

「ラナ=ミンクサーズ! 今日をもって、あんたをこのパーティーから追放するわ!」


 したり顔でそう言うのは、深い赤色の髪をショートボブにした勝ち気そうな女の子――アン=マルルトゥナ。

 その両隣には、二人の男がいる。

 

「え……え、ええっ!? わ、私を、追放……!?」


 彼女たちの向かいには、亜麻色の髪を二つに分けて結んだ、気弱そうな女の子――ラナ=ミンクサーズ。

 わたしは女の子をさん付けで呼ぶ人間なので、脳内で勝手にラナさんと呼んでいる。


 ラナさんは顔を蒼白にしながら、何度も首を横に振った。


「そ、そんな……嘘、だよね? だって今まで私たち、一緒に頑張って冒険してきたじゃない! どうして急に、そんなこと」


 余程ショックみたいで、ラナさんは小動物のようにぷるぷると震えている。かわ……いや、何でもない。


「決まってるじゃない。賢者のハクアをパーティーに招いたから、治癒術師のあんたがいらなくなったのよ」


 アンさんは笑いながら、右隣の男を示してみせた。この男が確か、賢者のハクア。興味がないので苗字は忘れた。


「た、確かに賢者は、攻撃魔法も回復魔法も使えるけれど……! でもそれを言ったら、魔術師のアンちゃんだって、使える魔法が被るような……」


「うっさいわね!」


「ひゃあ!」


 アンさんに怒鳴られて、ラナさんはびくっと身を震わせた。綺麗な青色の瞳には、じわりと涙が滲んでいる。か、可愛い……じゃなくて、可哀想だ。いけないいけない、つい癖で。


「いい? あたしとあんたでは、使える魔法の数が違うのよ! それにあんたはおどおどしてるし、八方美人だし、人の機嫌を伺って笑ってばっかいるし――」


 そこまで言って、アンさんはちらりと右隣のハクアくんを見て、もう一度ラナさんに視線を移す。

 それから、どこか悔しそうに俯くと、小声でぼそぼそと呟いた。


「それに、可愛すぎて邪魔なのよ……」


「え、今何て……?」


「何でもないッ!」


 ふむふむ。ラナさんは聞き取れなかったみたいだが、わたしはバッチリ聞こえた。耳に感覚強化魔法をかけた甲斐があったというものだ。


 なるほどな……私は三度ほど頷く。

 つまりこのアンさんは、最近パーティーに入ったハクアくんに恋してしまったのだろう。

 そこで、ラナさんの存在が邪魔になった、と。


 確かにラナさんは、恐ろしいほど可愛い。

 ぱっちりとした瞳は、南国の海を想わせる澄んだ青色。

 整った形の鼻の下には、桜色に染まった柔らかそうな唇。

 肌もきめ細やかで、髪はふうわり、さらさら。

 そして小柄なのに、スタイルがとてもいい。要は巨乳。


 わたしは今まで生きてきて、様々な女の子と出会ってきたが、見た目で言えばラナさんが文句なしのトップだ。


 なので、アンさんが危惧するのもわからなくはない。まあ、だからと言って、いきなりパーティーから追放するというのは、中々やってんなあ……と思うけれど。


「とにかく、今日であんたは用済みだから! もう、二度とあたしたちに関わらないでよね! それじゃ、バイバイ!」


「ま、待っ……」


 ラナさんの言葉が終わらないうちに、アンさんと男二人はさっさと踵を返していく。


 残されたラナさんは、少しの間呆然としていた。


 それから表情を歪めて、目からぼろぼろ涙を零し始める。

 手で拭いながら、彼女はそっと口を開く。


「私……これから、どうしよう……」



 ――()()()()()()()()()



「そんなに泣いていたら、すごく綺麗な顔が勿体ないですよ?」


「へっ……きゃ、きゃああああああ!」


 ラナさんは泣くのを一瞬忘れて、表情を驚きに染めながら後ずさる。


 それもそうだろう。


 何もないと思っていた隣の空間から、突然、わたしが現れたのだから。


「え、ええええ、もしかして、お化けだったりしますか……?」


「んな訳ないでしょう! 透明化の魔法を使っていただけですよ?」


「透明化の魔法って……す、すごく高度な魔法じゃないですか! つ、使えるんですか!?」


「そりゃあ使えますよ、だってわたしは、あの()()()()()()()()()()()なんですから」


 ラナさんの表情が、より深い驚きへと変わっていく。


「シャロン=リルティーヒって……十六歳という若さで、しかもソロパーティーで、一ヶ月足らずでギルドパーティーランキング一位まで登り詰めて、一年ほどその座を守り続けている、『魔法での英傑』という二つ名を持つ、あのシャロン=リルティーヒですか!?」


「うんまあそうなんですけれど、なんか恥ずかしいのでやめてください……で、そんなことより!」


 わたしは、ずいとラナさんに顔を近付ける。


「実はラナさんに、お願いしたいことがあるんですよ?」


「え……わ、私にですか?」


「そうなんです!」


「えっと……私にできることなら、喜んでお手伝いしますが……」


 すっかり泣き止んだラナさんは、頷いた。


 すごく悲しいことがあったにも関わらず、こう言ってくれるなんて、何ていい子なのだろう。


 ふふっ、とわたしは微笑んだ。



「――ではでは、わたしに、最高のジャムクッキーをつくってください!」

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