地球に出会いを求めるのは間違っているだろうか
「どこに行こうかな?」
僕は魔道具、陰の遠隔地図を作った。この魔道具は黒い緞帳の能力を利用して作ったアイテムだ。僕の体の一部から円盤型のスライムを出して、全世界やその中の指定したポイントを映し出すことが出来る。僕はある部屋で陰の遠隔地図を使っていた。みんなにも、この魔道具を与えてるし、あっちは大丈夫だろう。しばらく、地図を使っていると、なにやら青い星を発見した。その星はほとんどが青色で、緑や白色がたまに混じっている星だった。
「なんだ、この星は」
僕は隣にいるマザーに問いかけた。マザーならなにか知ってるかもしれないと、僕が連れてきた。しかし、マザーは
「いえ、私も知らない星だわ」
と答えた。なんと、マザーにも知らないことがあるんだ。逆に知りたくなった。この星には何があるのか、どんな物があるのかが楽しみになった。
「ちょっと、この星に行ってくる」
とマザーに伝えたが、当の本人は
「あなただけで行くのは危険すぎるわ!私も一緒について行く」
と言った。どんだけ過保護なんだろう。誘う者間違えたかな?まあ、どのみち自分で確かめないといけない訳だし、あとあっちの世界で遊びたいし。
「いや、僕がまた一人で行く。僕は死なないんだから」
「そうはいっても、やっぱり不安だわ」
まあ、子供が一人で旅行するってものだから、心配なんだろう。それでも、この好奇心が抑えられない。
「やっぱり僕が行く。みんなには、また旅に出たといっておいて」
「うぅ~」
マザーは困っていた。
(この子には何をいってもダメだわ。なら、見届けましょう)
「分かったわ。みんなには私が言っておく。気をつけてね」
「ありがとう、マザー。行ってきます」
と言って、黒い緞帳を出して、出かけた。その後、黒い緞帳から出ると、そこは夜で所々キラキラ光っていた。一体ここはどこだ?そう思いつつ、散策することにした。しばらく歩くと、大勢の人が歩く場所に着いた。建物はレンガでも木でもない。しかも、城と同じぐらいか、それ以上ある建物が多くあった。また、道には動物でもない者が走っていた。なんだこれはっと確認していると、右からププーっと大きな音がした。振り返ると、逃げられない距離まであった。あ、危ないと思っていると、後ろから誰かが僕を引っ張った。間一髪のところで免れた。引っ張ったのは男の人で
「君、危ないじゃないか!信号が赤の時には、渡っちゃだめだ!」
と叱られた。信号?赤?よく分かんないな。僕の住んでた世界とは、全く別物だ。逆にそこが楽しいんだけど。すると、男性は僕を見て
「君、名前は?こんな夜に歩いてたら危ないじゃないか。今から警察に行って親御さんに連絡してもらおう。僕も協力するからさ」
この人、悪い人ではないな。そこはいいんだけど、また知らない言葉が出てきた。警察?何それ。しかも名前か。そういえば、本名持ってないな。ノワールって名前もブラッドと同じ偽名だからな。このままじゃ、面倒だと思い、男性がよそ見をした隙に、こっそり逃げた。それにしても、街が明るすぎて目がちかちかする。この世界の人は目が強いのかな。そう思っていると、また誰かに捕まった。今度は、帽子を被った青い服の男性だった。しかも、二人いた。
「君、こんな時間に何してるんだ?こんな所を歩いちゃだめでしょ!」
さっきの男性も同じこと言ってたな。
「君、名前は?親御さんはどこにいるんだい?」
同じだ。これも男の人も同じこと言ってた。この世界ではこれが日常的なのかな?それに親はいないし、教育の親なら異世界におるけど。まあ、こんなとこでも捕まる訳にはいかない。僕は男の腕を薙ぎ払って、逃げた。すると、
「待って。逃げるんじゃない」
と追いかけてきた。このままじゃ捕まるなと思って、スライムカッターを使おうとしたが、なぜか出ない。
「?」
不思議に思いつつ、もう一度発動させるが思うようにうまくいかない。
(あれ、おかしいな?この世界には魔力が少ないのかな?)
そう思いつつ、なんとか路地を見つけて、人ごみに紛れてその中に入って隠れた。あの男達は今も探しているが、人が多いのか探すのに苦労している。運よく、路地裏に入ってない。よかった~。そう安心していると、またまた後ろから誰かに捕まった。誰だ、と相手を投げて確認すると、それは男でもなければ人間でもなかった。そう、アートルムだった。僕は驚いた。確かお前は僕が食べたはず。
「やあ、久しぶりだね。元気にしてた?」
アートルムは何事もなく話した。
「なんで、君がここにいるの?」
僕がそう問いかけると
「僕はこの世界に住んでるんだ。君が使っている黒い緞帳を使ってね。使い心地はどうだい?なかなかいいだろ」
確かに、黒い緞帳を作ったのはアートルムだ。だとしたら、この世界に来てもおかしくない。
「そういえば、君、この世界はどこか知りたいかい?ここは地球っていう星だよ。実感しただろ?君の住んでる世界の文化とこの地球の文化。なかなかすごいだろ?」
確かに言われてみれば、所々違う。でも、魔力がないのはなぜだろう。
「魔力がなぜ無いかって。そもそもこの星には魔力なんて存在しない、科学が発展した星なんだ」
なんだって!だから、スライムが出なかったのか。弱ったな。魔力がなきゃ、この体保てない。あれ?だとしたら、帰れなくない?今度こそ、城に帰れなくなってしまう。なんとか、帰る道見つけないと。
「君、なんとか帰る道探そうとしてるね?悪いけど、無理だよ。諦めな」
こいつ、人の心をちょくちょく読みやがって。
「それじゃぁ、僕は帰るね。バイバイ!」
とアートルムがどこかへ消えてしまった。どこに行ったかは分からない。いや、それよりもこんな変な所を出ようとしよう。僕は人気のない所を探して歩いた。
「もう、何時間たったんだろう。」
ぐるぐると歩き回って、お腹がすいた。なんとか食料を取り込まないと、体が持たない。しばらく歩くと、雨がポツポツと降ってきた。しばらくは小雨だったが、次第にザァザァと降り出した。また、走っていると、ツルっと転んで泥だらけになったり、急に水が掛かってきたり。最悪だ。例え、あっちでは強くてもここではただの子供。そういう現実を目の当たりにした。もうこんな世界、出よう。出ようとしても、魔力がないから黒い緞帳は発動できないし。こんなに不便な星、二度と行きたくない。マザーの言う通り、一緒についておけば良かったと何回思ったか。雨が降る中、行くあてもなくただ歩き続けた。すると、目の前に雨宿りできそうな建物があった。扉は閉まっているが、屋根があるからそこでやむまで休もう。僕は屋根の下に行って、座り込んだ。しかし、雨はずっと降る。なんだか、さびしいな。これが一人、孤独か。もういっそ死にたいのに、死ねない。仲間のとこにも帰れない、全世界を手にすることも出来ない。そう絶望した。その時、向こうから走っていく人が見えた。
「ふう、こんなに雨が降るなんて。傘大きいの持って来てよかったわ。びしょびしょにならずで済んだし」
声の主は女性だった。しかも若い。どうやら、ここに来るらしい。そういえば、階段があったな。女性が建物の近くまで来ると、
「あら?」
と言って、僕の存在に気付いた。女性は僕のほうに近づき、しゃがみこんだ。
「君、一人?おうちはどこなの?」
この人も同じことを言ってきた。なんだ、この世界?これが常識なのか?でも、僕は体力がもうなかったから逃げることは出来なかった。なので、首を横に振った。すると女性は
「そっか。なら、うちくる?」
といって、手を差し伸べた。この世界に来ても、どこにも行く当てがないから、僕は首を縦に振った。
「いいわよ。おいで!」
と言って、僕は女性の手を握った。話を聞くと、ここは『松田荘』というオンボロアパートらしい。女性はここの住人だ。部屋は階段を上って、廊下の突き当りの部屋だそうだ。女性はドアの前で鍵を出して、鍵で開けて、一緒に入った。
「ただいま、みんな。いい子にしてた?」
「おかえり、ママ」
奥から女の子が現れた。
「おかえり。今、夜ご飯の準備をしてるから、待っててね」
今度は隣に背の高いがおった。そして、とことこと小さい女の子も現れた。
「おかえり・・・あれ?ねぇ、ママ。隣におるのだぁれ?」
すると、みんな僕の方を向いた。ちょっと、気まずかった。すると、
「みんな、聞いて!今日からうちの家族、うちの子よ!」
女性はとんでもないことを言い出した。僕はもちろん、みんな驚いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕はその女性の家族とご飯を食べてた。今日はハンバーグ、キャベツのサラダ、キャベツのスープ、ご飯。といっても、ハンバーグは小さく、ほとんどの具がキャベツだ。それでもお腹がすいていたから、むさぼり食った。みんなは食事をしながら、
「アパートの前に何かあってね。近づくとその子だったわけ」
「お母さん、拾って大丈夫なの⁉最近、変な事件が多いからもし誰かに見られたら、通報されちゃうよ!」
「この子、家族がいないみたいで・・・。きっと捨てられたのよ」
「だからって・・・」
2人は何やら話していた。
「そういえば、まだあなたの名前と年齢をを聞いてないわね。なんて、いうの?」
名前。さっきの男達もそうだが、僕は本名を持っていない。持ってないって言ったら、バカにされるかな?でも、持ってないのは事実だし。しょうがない。だから僕は
「7歳。でも、名前はない」
といった。すると女性は
「そっか。名前を持っていないんだね。じゃあ、私が名付けよう」
えっ⁉名前をつけてくれるって⁉
「う~ん、そうだな~。そうだ!黒季なんてどう⁈」
「く・ろ・き・・・?」
「そう、服も髪も黒く、夜に出会ったから。みんなどう?」
「安直すぎない?」
「なんか、かっこいい!」
「えーと、すごい!」
なんだか、うれしかった。見も知らない僕を拾って、ついでに名前も付けてくれるなんて!この感情は今まで感じたことがなかった。
「そういえば、まだ自己紹介がまだだったね。ここは色田家。私はここの母、色田黒子。でご飯を作ってくれたのが長女の春香、16歳。最初に出てきた子が次女夏奈、あなたの隣で食べてる子は三女秋穂、実は奥にもいてね。赤ちゃんなの。末っ子で双子の冬美と冬音。みんなで6人家族よ」
家族・・・?これが家族なのか?僕はずっと作った仲間だけだったから、よく分からなかった。
「明日、市役所にこの子を連れてって籍をいれないと」
「男の子か、ちょうどほしかったなぁ。ここ女の子ばかりで弟がほしかったの」
「私も弟ほしかった。学校のお友達、ほとんど弟が多かったから。これで自慢できる」
「やったぁ。お兄ちゃんができた」
「改めまして、ようこそ我が家へ」
そうか、この世界に来たことは正解だ。だって、こんないい人達に出会えたから。この世界に来てよかった。あとは、帰る方法を見つけないといけないが。まあ、それは焦らずゆっくり探すとするか。
すると黒子さんが
「そういえば、泥だらけじゃない。お風呂、後で私と一緒に入らない、黒季?」
うん、そういや雨の中すっころげたな。ここは素直に甘えるべきか。この地球に出会いを求めるのは間違っていなかった。