ライオンの記憶と獅子の最後
―今から30年前。ネメアーがまだグレゴリーに入る前、ネメアーはかつて路上を拳で振るう荒くれ者のリーダーだった。手下は数十人従えており、繁華街を拠点に様々なシノギをしていた。彼の名は繁華街では有名で逆らえば暴力で従わさせる、凶悪な男だ。そんな彼だったが、ある出来事が彼の運命を変えた。それは彼が鉄板焼き店で食事をしている時だった。彼が1人ステーキを頬張っていると後ろから誰かに声を掛けられた。
ネメアー「誰だ?」
???「何、君と話がしたくてな」
そこにいたのは自分よりも大柄な男だった。何故自分が話し掛けられたかは分からないが、無視をするのはよくないと思い、話に付き合う事にした。
ネメアー「何故ここが分かった?」
???「君の事をずっと見ていた。ここが君のお気にだって事もね」
ネメアー「覗きか?趣味が悪りぃな。まあ、確かにここの肉は大金出してでも食いたくなる。俺の口を唸らせるからな。食うか?」
???「ほう、警戒しないんだな」
ネメアー「難しい話は座ってやるものだ」
謎の男はネメアーに言われるがままに席に座り、一緒に食事をした。その後店を出た後は、ある建物の屋上に来ていた。ネメアーは右手で胡桃を手で玩びながら本題に入った。
ネメアー「話って何だ?」
???「難しい話ではない。・・・君の活躍は知っている。君がこの世界のこの国のこの繁華街を仕切っているのを聞いてな。その頭脳をぜひ、我々に役に立って欲しいと思ってな」
ネメアー「ヘッドハンティングか。俺も有名になったもんだ。だが、この俺様に名前の知らねぇ奴から名前の知らねぇ組織で働けってゆうのか?」
???「名乗るのが遅かったな。私は・・・アートルムと名乗っておこう。そして、私は世界を牛耳るグレゴリーと言う組織を作った」
ネメアー「アートルム?グレゴリー?知らねぇな」
アートルム「無理もあるまい。まだ出来たばかりだからな」
胡散臭い話だと感じた。何1つ魅力も感じない。何故自分が名前の知らない組織で働くのか、意味が分からなかった。聞くだけ無駄だったか。ここは早く切り上げよう。
ネメアー「悪いが他を当たれ。俺は忙しい」
ネメアーが帰ろうとすると、アートルムが
「今の立場は窮屈だと思わないか?」
と言い出した。その言葉に反応したのか、ネメアーは足を止めた。その後、アートルムの方に近づいた。
ネメアー「何が言いたい?」
アートルム「言った筈だ。我々の役に立ってくれと。君は世界を知らない、私からすれば井の中の蛙だ。こんなちんけな街で自己満足か?一緒に世界を取らないか?」
ネメアー「なんだと?」
アートルム「私は全世界を牛耳る。我の脅威を世界に知らしめ、我々で世界を好き放題する。世界中の人々は我々に従い、逆らえば即処刑。君がやっている事を世界に置き換えただけだ」
ネメアー「・・・!!!」
この男はめちゃくちゃな事を言ってそうで、ちゃんと筋が通っている、そう感じた。確かに自分はこの繁華街を仕切っているが、もっと上を目指したい欲望はあった。この世界にしか生きれない、そう感じているから自分は願望を抑えつけられているんだと思った。この男と一緒に世界を牛耳れるなら、尚更面白そうだな。ネメアーの心はワクワクでいっぱいだった。
ネメアー「いいだろう、協力してやる。代わりに・・・」
アートルム「代わりに?」
ネメアー「この俺様を倒してから考えてやる!!もし俺が勝てば、俺が仕切る!!いいな!!」
アートルム「いいだろう。かかってこい」
アートルムが指をパチンッとすると、何処からかカオス兵が現れた。手には刀や剣など武器を所持していた。
ネメアー「こいっ!!」
しかし、ネメアーは武器を持ってようが関係なく、生身でカオス兵を蹴散らした。カオス兵の頭や体を殴って、蹴って、戦いなれているのか息切れもせずに胡桃を握ったまま戦っていた。やがて、全てのカオス兵を倒すと今度はアートルムに襲いかかった。
アートルム「ブラボーだ。やはり私が見込んだ男だ」
ネメアー「よそ見してるとあぶねーぞ!!」
ネメアーはアートルムに蹴りを入れるも片手で受け止められた。しかも、硬く握られて足が動かせなかった。ネメアーは何か仕掛けると思い、急いで足を外そうとしたが、アートルムは何もせず笑っていた。すると今度は逆の足で蹴ろうとするネメアーにアートルムは足を離し、蹴りをかわした。おかげでネメアーは自由になり、再び暴れられるようになった。その後もネメアーは攻撃を続けるもアートルムは難なくかわし、逆に不意を突かれそうになった。
ネメアー「くそっ!?馬鹿な・・・何故余裕だっ!?」
アートルム「動きが遅いと言った方がいいかな?」
ネメアー「何っ!?」
アートルム「君は少々焦っている。そうなっては幾ら私に攻撃しても私には傷、いや拳を当てる事さえ出来ないぞ」
ネメアー「冷静になれってか?上等だっ!!今度は貴様に傷をつけてやる!!」
ネメアーは少し落ち着きを取り戻すと、再びアートルムに襲いかかった。やはりアートルムは攻撃を全てかわしたが、今度は研ぎ澄まされたように動きに迷いがなく、相手の動きも分かるような気がした。今まで焦っていたせいで、敵に足を掴まれる失態をしてしまったが、今度は流れを掴んだ気がした。
ネメアー「だいぶ体力を使ったが、まだまだだっ!!」
アートルム「残念だが、終いにしよう。最後に我とあなた、どちらが強いか教えてやろう」
すると、アートルムは両手を横に上げた。一体何をするのかは分からないが、何か危険な予感はした。しかし、またしても攻撃する素振りは見せない。そして、アートルムの体から黒いモヤが出て来た。それはアートルム自身の魔力であった。最初は少ししか出ていなかったが、彼が本気を出すとそれは高く空へ届き、辺りは黒いモヤに包まれた。更に空を見ると雲が渦巻き常になり、丁度アートルムの下だけ雲が穴を開け、まるで台風の目みたいな感じになった。風も最初は静かだったが、急に暴風に変わってしまった。風力は立っていられるのがやっとぐらいの威力はあった。流石のネメアーも自然の摂理には抗えなかった。
ネメアー「な、なんて魔力だっ!?」
アートルム「このままやると繁華街にも影響が出るぞ」
確かに繁華街はちょっとした騒ぎになっている。人々が騒めき、あちらこちらで車同士の衝突事故が発生していた。もう、勝てないと悟ったのか
「わ、分かったっ!!あんたに従うっ!!あんたの強さはもう思い知ったっ!!」
と懇願した。するとアートルムはその要求を受け入れ、魔力の解放を解除した。すると辺りはまた静かな風が吹き、空も元に戻った。アートルムはネメアーに駆け寄り
「お前にはいい席を用意してある。子分も連れて来ても構わない。返事は24時間以内、書いてある電話番号に連絡しろ。本人かどうかは電話で確認する。楽しみに待ってるよ」
と言って、名刺を1枚捨ててどこかへ行った。その名刺を拾ったネメアーは急いでアジトに帰って、書かれた電話番号に連絡した。こうして、ネメアーはグレゴリーの一員として活躍していったのだ。持ち前の頭脳と力を利用して、遂に黄道13星座隊の副リーダーを任されるようになった。ここまでがネメアーの過去だ。そして現在。
ネメアー「ぐっ、ウガアァァァァーッ!!!!」
ノワール『どうだ、これから死ぬ気分は?何も考えられないだろ?』
ネメアー「ふ、ふざけ・・・」
ノワール『お前の命の炎は消え掛かっている。お前は数秒後、魂もろ共世界から消える』
ネメアー「アガアァァァァァァァーッ!!!」
今の今までアートルムに使えて、あらゆる悪事を働いた。しかし、これがアートルムやグレゴリーの利益の為にならと、身を滅ぼす覚悟でこなしていた。アートルムの為なら、この身を差し出しても構わない程。しかし自分は今、ノワールというグレゴリーの脅威なる者に殺されている。これほど憎いものがあるか。
ノワール『さらばだ』
魔法陣や光が消え始め、地面から空にかけて光が出て、徐々に広がり始めていった。やがて光が消えるとそこには巨大なクレーターだけが残っていた。ノワールやネメアーの姿はいなかった。
ブラン「嘘・・・これが・・・?」
アスール「なんて力なの?あの馬鹿、こんなの隠し持って・・・」
ヴェルデ「・・・お兄ちゃんは?」
みんなは唖然とした。今まで見た事がない物を目の当たりにして言葉を失った。とはいえノワールがいないと地球に帰れないためクレーターの所へ行き、ノワールを探した。しかしはっきりと見える反面、どこにいるか分からないため掘ったりしながら探していた。その時、アスールは何かを感じた。何か感じた事のある、でもそれが分からない。それは他の人にも感じた。何かが、空から何かが降ってくる・・・ような?
ジャラゴン「アスール、もうちょいこっち。それから手はこうして」
突如ジャラゴンが現れ、アスールに指示した。ジャラゴンに言われるがままアスールは指定された場所に行き、そこで両腕を差し出した。すると上からヒューッと何かが落ちてくる。それは黒く、人型の姿をしていた。それを見た途端、アスールは察した。何が落ちてくるのかを。
アスール「・・・ねえ、あんた知ってたでしょ、こうなるの?」
ジャラゴン「・・・ノーコメント」
アスール「・・・後でじっくり聞きますから」
ジャラゴン「・・・すみません」
そのまま黒い何かは真っ逆様に落ちていき、やがてアスールの腕に見事入った。アスールも無事受け止め、正体を確認した。落ちてきたもの、それは予想通り、ノワールだった。ノワールの死亡術が発動し、空から降って蘇生してきた。ブラン達は喜び始めたが、アスールだけは不機嫌そうだった。それを見たノワールは察した。
ノワール「・・・あの、降りていいですか?」
アスール「だめっ!!」
ノワール「・・・終わた」
チーン・・・頭の中で何故か聞こえた。こうしてノワールはアスールにお嬢様抱っこされながら、地球に帰っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その夜、帰還したみんなは黒季達に問い詰めた。8人一斉に問い詰められ、黒季は困惑した。
宝華「あの技は何っ!?」
赤城「一体何が起こったのですかっ!?」
オリヴィア「ライオンハドウナタネッ!?」
氷山「あなた、一体何者ですかっ!?」
灰川「10秒以内、3桁で分かりやすく答えてっ!?」
春香「家族に隠してる事、まだあるでしょっ!?」
夏菜「家族には嘘つかないって言ったのにっ!?」
秋穂「お母さんに言いつけるわよっ!?」
ケンちゃん「うわわわーっ!?そんなに詰めないでくださーいっ!!」
ジャラゴン「こ、これは流石にっ!?黒の字、なんとかして!!」
黒季「分かったっ!!分かったからっ!!腕引っ張らないで・・・っと痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!」
観念したのか、黒季は全てを話す事にした。あの技は自分の身を犠牲にして繰り出す隠し技もとい必殺技で、戦いでは1回しか使えない技である事。最強である反面、下手すれば命を落とす行為なため、おすすめしなかったし、あえて与えなかった事。さらにネメアーは死んだ、魂ごと消されて。
宝華「そ、そうなんだ・・・」
灰川「まさか、そんなやばい代物だったとはね」
春香「自分も相手も必ず死ぬ・・・か」
赤城「私達、何も知らない事だらけですわね」
話した途端、急に静かになった。みんな怖がっているのか?まあ、あれだけの威力を見たのだから誰だって怖がるわな。とはいえ、抜けますって言われたら地球で活動するのが難しくなってしまう。ただでさえ、彼女達のおかげでやってこれたから。すると氷山が
「明日、また会って話し合いましょうよ」
と言い出した。確かにもう夜の9時だから、遅すぎると怪しまれてしまう。今日はここで解散するか。みんなも賛同したのかゾロゾロと帰って行く中、白沢1人だけ残っていた。そう言えば、白沢はずっと黙っていたな。ずっと俯いているし。なんか不安になって来たから話しかけた。
黒季「えーっと、白沢・・・さん?どうか・・・いたしましたか?」
黒季は声を掛けたが返事どころか、反応すらなかった。試しにもう一度話しかけるも同じだった。一体どうしたものか?
白沢「・・・りたい」
黒季「うん?」
白沢が小声で喋り出した。よく聞き出せなかったが、もう一度喋り出した。
白沢「・・・強くなりたい」
黒季「え、強くなりたい?」
白沢「ノワールッ!!私、づよぐなりだい!!」
白沢は突然泣き出した。白沢は僕に抱きつき、僕の服の中で号泣し続けた。強くなりたいって、まさかっ!!
黒季「まさかっ!!白沢っ!?」
白沢「私、ノワールみたいに強くなりたいっ!!あの戦いで私は何の役にも立てなかったっ!!私、能力もらって戦って、カオスと戦っているのに!!!」
黒季「お前、そんな事を考えていたのか」
白沢「私、あの戦いで自分の実力不足に気づいた!!私も戦えるのに!!私はただ見てるだけだった!!」
なるほど、彼女の中は悩みの植物が育ってしまったのか。確かに最初に出会った頃とは少し成長はしたが、まだまだだ。このままでは幹部級を倒すのは難しい。
白沢「お願いっ!!私達を強くさせてっ!!あなたみたいに強くなりたいっ!!」
彼女の顔は本気だ。涙を流しても、覚悟を決めた目をしていた。顔を見て確信した。なら、僕もそれに応えようじゃないか。
黒季「いいだろう、後戻りはもう出来ないよ。覚悟は決めたんだね?」
白沢「もう、この世界に入った時から決めてたわ!!私、強くなりたいっ!!」
黒季「面白い、ならついて来い!!」
黒季と白沢は共に覚悟を決め始めた。




