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白銀の終末

 ノワールの目の前には巨大な銀色のライオンが現れた。ライオンのように唸り、獲物を狙うかのような目つきと姿勢。そして、口から白い息を出していた。辺りは真っ暗だが、月の光の影響か彼の場所だけ神々しく光っていた。まるで、神が降臨したみたいに。


ネメアー「貴様には見せたくもなかったし、2度と使いたくなかったがな」


ノワール「ほう、綺麗だな」


ネメアー「見惚れてねぇで、とっとと来やがれっ!!」


ネメアーはノワールに飛びついた。口を大きく上げて牙を剥き出し、足元の爪を出してノワールに襲い掛かった。ノワールとの距離は小さいままだと遠く離れていたが、大きくなってからは短く感じていた。たった4、5歩でノワールの所に辿り着き、ライオンの如く唸り声をあげながら爪をおろした。爪が地面につくと、そこから真剣状の衝撃波ができ、地面事割くように遠くまで伸びた。さらに足も大きいので、普通なら踏まれただけで圧死、逃げ切れても衝撃波で体を真っ二つにされるぐらいだ。ネメアーはそのまま地面を踏み潰した。


ネメアー「全く、呆気ない最後だったな」


ノワール「呆気ないって?」


ネメアー「何っ!?」


どこからかノワールの声が聞こえてきた。ノワールは踏み付けたはずだが、地面を見ると遺体どころか、姿さえいなかった。ノワールが逃げ切れる時間はなかった筈だ。しかし、今は何故かそこに立っていた。何事もなかったように。それに怪我をしてる素振りもない。ネメアー自身も焦り始めた。


ネメアー「おかしい・・・貴様は確かに踏み潰した筈・・・」


ノワール「遅い」


ネメアー「何っ!?」


ノワール「遅かった、それだけだ」


ネメアー「何だとっ!?」


ノワールの何気ない話を聞いて、更に怒りが込み上がった。そして速さで敵わないなら、力で叩き潰せばいいと言う考えに至った


ネメアー「いいだろう。俺様の力を、本気を出させた事を後悔しろっ!!」


ノワール「ほう、面白い」


ネメアー「"リベンジ・サクリファイス"!!」


するとネメアーの身体を包み込むように透明なバリアが現れた。それはドーム状になり、ネメアーの周りをぐるぐると回っていた。彼の能力状、恐らくあらゆる攻撃を跳ね返すバリアだろう。無闇に攻撃すれば跳ね返される。


ネメアー「攻撃は出来まい!!これで・・・」


ノワール「悪いけど、そのバリアは消させてもらうよ」


ノワールが何の躊躇もせずそのバリアに触れるとバリアからヒビが生じ、やがて全身に広がっていき、最終的にガラスのように『バリーンッ!!』と音を立てて砕け散った。ネメアー自身も何が起こったか分からず、ただ戸惑うだけだった。


ネメアー「ば、馬鹿なっ!?」


ノワール「我に小細工は通用しない」


ネメアー「るぎゃあぁぁぁぁぁぁーっ!!!」


ネメアーは我を忘れたのか、ノワールに再び襲い掛かった。先程の冷静さは失われ、ただ必死になってノワールと戦っていた。爪や尻尾、牙で攻撃するも全て剣で弾き、受け流し、全てかわし切った。逆にノワールは乱れて隙だらけのネメアーに殴り、顎からの蹴りをして、そのまま頭に踵落としをした。ネメアーは再び地面にうつ伏せた後、何とか冷静さを取り戻した。ネメアーは自分が冷静さを無くして戦っていた事に気がつき、再び体勢を整えた。


ネメアー「はぁー、はぁー、しばらく我を忘れるとは・・・」


ノワール「だいぶ暴れていたぞ」


ネメアー「すまないな。これからは私、とっておきの技を出してやろう」


するとネメアーは空に向かって吠え始めた。一見、ただのライオンモンスターがただ吠えているだけに見える。しかし、空を見ると何かがこっちに向かって降って来ているのが分かる。あれは、隕石だ。うん、うん・・・え、まじで?


ネメアー「小僧、ここまでよくやったな。褒めてやろう。だが、これで終わりだっ!!"白銀の終末(シルバーメテオ)"!!!」


ノワール「まさかっ!?」


そう、ネメアーは隕石をワザと自分の所に落として、自身の反射能力を使ってノワール(ぼく)にぶつけようとしていたのだ。それに1個だけでなく、数個降ってきやがった。恐らく、普通なら即死は免れない、当たり前だけど。それにしても反射能力を活用し、応用するとはよく考えたな。そこは評価しよう。


ノワール「こんな使い道もあるとは。勉強になった」


ネメアー「はっ!!勉強する時間はもうねぇわ!!」


ノワール「どうか・・・」


隕石はネメアーの所に降るとそのまま跳ね返されて、ノワール目掛けて飛んできた。これはシンプルなやり方だが、隕石が地球に落下する速度は大気圏突入時に秒速11〜72km、温度は1500〜3000°、更に大きいサイズの為逃げ切る時間もない。これはかなり危ない技だな。下手すれば、もし能力が不発に終われば自分に当たる可能性もあるはずだ。まさにとっておき、隠し技にピッタリだ。


ノワール「・・・美しい」


そして、ノワールは逃げる事なく全ての隕石を喰らって飛ばされた後、そのまま爆発した。その威力は遠くから眺めても見え、その凄まじさを感じる程だった。更に地形も変わる事から地図を書き直さないといけないぐらいの力はあった。煙が空高く舞い上がり、そこには大きなクレーターが出来ていた。


ネメアー「フ・・・フハハハハッ!!!ついに!!ついに倒したぞーっ!!!」


ネメアーはノワールが消えた事に歓喜の声をあげていた。遂にノワールが死んだ、この事実がどれだけ嬉しかったか。月を背景に高々に咆哮するライオンはまさにクリスチャンラッセンが描く絵画みたいな感じだった。しばらくネメアーは吠え続けた。その後、落ち着きを取り戻してノワールが死んだ場所まで駆け寄った。確かに当たりは黒焦げになっていて、よく見るとそこに2つの剣が黒焦げになっていた。それを拾ったネメアーは再び興奮状態になった。一方で遠くに飛ばされたブラン達は光と爆発、煙が上がっている場所へ戻って来た。しかし、そこは既に後の祭り状態だった。誰もが言葉を失った。あのノワールが死んだのか?そう疑うしかなかった。しかも、なんか凄そうなライオンもいるし。


ブラン「え、死んじゃった?」


ヴェルデ「いやいや、簡単にはね・・・」


ルージュ「あー、これは・・・」


ネメアー「うん?」


ネメアーは彼女達が戻って来た事に気づき、近くまで駆け寄った。そして、2つの剣を見せびらかした。


ネメアー「貴様らのボスは死んだ。これはその証拠だ。これはグレゴリーに持って帰る」


ブラン「嘘?」


ヘルブラン「まじで?」


ネメアー「安心しろ、貴様らもあいつと同じ場所まで送らせてやる!!」


ネメアーが足を上げて、爪を出して構えた。しかし、ブラン達は驚きも怯えも悲しみもしなかった。何かを待っているかのように。何か怪しいと思いつつ、攻撃をやめない。そして


「死ねーっ!!」


とその一言で爪を振り下ろした。爪は徐々に彼女達に近づくが、それでも全く動じていなかった。そして、ブランがある事に気づいた。ネメアーの背中に誰か乗っていたからだ。その正体は・・・。


 「死なせないよ、誰一人、僕の友達を」


ドスッ!!グサッ!!突然、ネメアーの背中から聞こえて来た。まるで背中を刺している、いや実際に刺さっている!!鋼鉄の体に一刺しを。予想外の出来事にネメアーは混乱し始めた。そこには死んだ筈のノワールがいたからだ。


ネメアー「なっ!?貴様っ!?」


ヴィオレ「やっぱりね。絶対おかしいと思った」


アマリージョ「彼はこんな攻撃じゃ死なないわよ」


グレーズ「全く、人騒がせな男」


ブルーノ「ア、生キテタネ」


彼女達は死なない事を知っていて、悲しみもしなかった。彼は隕石が近づいて来た直前で能力を使い、脱出したのだ。おかげでダメージを受ける事なく、無事生還出来たのだ。


ネメアー「ば、馬鹿な・・・」


ノワール「面白かったよ。だけど、詰めが甘かったね。お前はもうお終いだ」


ネメアー「何だと!?」


ノワール「では最後に、我のとっておきも見せてやろう」


するとノワールは滅亡と絶望の剣(アポカリプス)希望と創造の剣(アルマゲドン)を取り出した。2本は黒と白に光り出し、組み合わさって大きな輪っか状の物が宙に浮いた。足元に魔法陣も現れ、螺旋状を描くように魔力が集まった。更に壁や再び魔法陣が幾つか現れて、ノワールは自分の心臓を取り出して輪っかに捧げた。次第にノワールも輪っかの一部に入り、更に輝いた。中にはネメアーが1人、いや1匹だけ入り、そのネメアーは怯えていた。まさか、自分よりも強い魔力を持つ者が現れると言う事実に驚愕していた。ネメアーやブラン達はただじっと見ていた。いや、見惚れていたというべきか。


ノワール『The End、Goodbye、Nemea(ネメアー)漆黒の愚者デア・ナール・デア・フィンスターニス


そして、一瞬暗闇に戻った。その後、激しい光と共に謎の光が空に届くぐらい吹き出し、周りの地面を破壊しながら徐々に大きくなっていた。ブラン達はブルーノとヘルブラン、ヴェルデの属性技を駆使して何とか逃げ出せた。しかし、円陣の中にいたネメアーはノワールの攻撃をもろに喰らい、絶叫していた。この自分がこんな奴にやられるのか、そう考えるだけで腹立たしい気分になった。それと同時にもうすぐ死ぬという事実に中々受け入れられなかった。しかし、もうすぐネメアーは死ぬ。この光が消えた時、そこにネメアーは遺体どころか骨も残ってないからだ。もちろん魂もノワールによって消滅させられる。


ネメアー「あ、アートルム・・・様・・・お許しを・・・申し訳、ありま・・・」


ネメアーはアートルムに申し訳ない気持ちを言葉にしたと同時に、20年前の出来事が脳裏に浮かんだ。それはネメアーとアートルムが初めて出会った記憶だ。

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