知れ渡るノワールファミリー
翌日、ゴースト達の連絡を受けて隠れアジトに辿り着いたノワールファミリー。そこは山の中にある洞窟で、木々に覆われていて、まさに木を隠すには森の中を表現した場所にあった。とはいえカオス兵がうじゃうじゃいるようで、下手に動けば人質達に何をされるか分からない。とりあえず陰に隠れてつつ、カオス兵を始末する事にした。
ブラン「これは、分からないわね」
ジャラゴン「こんな場所にアジトがあるとは、そう言えばカメレオンとパラボラ頭も同じような感じだったな」
ヴィオレ「で、私はどうするの?」
ノワール「ヴィオレは植物の根を出して、相手の動きを確認」
ヴィオレ「はいはい、気乗りしないけど仕方ないわね」
ヴィオレはノワールから植物の種をもらうと、片方の手からナイフを取り出して自分の手を切った。その傷は血がドボドボ出る程深く、至急手当てしないと危ないレベルだった。しかし、ヴィオレはそこに葡萄の種を入れると傷口は塞ぎ出したが、代わりに手から植物の根が出てきた。ヴィオレの能力、栽培術を上手く利用して植物の根を出して、感覚を共有しようとしているのだ。やがて木々に蔦を巻きつけ終わると、ヴィオレは植物の蔦を頼りにカオス兵の動きを感じ始めた。森の中だから蔦が生えても分からない、まさに木を隠すには森の中。
ヴィオレ「左上斜め45°に4、5人。右下後ろに8人。洞窟の方には10人以上。かなり厳重に見張っているわね。ボスみたいな奴は今いないわ」
ブラン「て事は、ボスがいない間に兵隊さんを片付けたらいいって事?」
ヴィオレ「まあ、慎重に動けばだけど」
ジャラゴン「よし、今すぐ行くぞ!!」
ヴィオレ達が動こうとした時、急にサイレンが鳴り出した。近くにパトカーが来ていたのだ。見つかるタイミングが早かったが、カオス兵達はサイレンのする方へ行ってしまった。今なら行けると思い、洞窟に近づくとそこから誘拐された人達がゾロゾロと出始めた。何があったのかは分からないが、とにかく全員脱出に成功って事でいいか。最後には朝南生徒会副会長と女性が一緒に出てきた。これで解決か、と思われたその時、突如銃撃が始まり2人は体勢を崩して倒れてしまった。
朝南「キャッ!!」
周防「大丈夫!?」
もう1人の女性が朝南を起こそうとすると、後ろから糸が出てきて、周防捜査官の体を巻きつけた。ぐるぐる巻きにされた周防捜査官はその場に倒れてしまった。
朝南「周防さん!!」
周防「早く逃げ・・・きゃっ!?」
ピーター・ランチューダー「何の騒ぎかと思えば、折角仕入れた商品逃しやがって。落とし前つけさせてもらおうか!!」
一体何があったのか、時間は少し遡る。突如、目が覚めた周防捜査官。そこは見慣れない景色で、目の前には鉄格子があった。よく見渡すと自分と同じく捕まった人間が多数いた。全員誘拐され、行方不明になった人達だ。そして外には最近誘拐された、朝南千夏の姿が見えた。彼女は今、縄を切っていた。後ろに手を括らされても、彼女は感覚を使い何とか切ろうとしていた。そこへ周防捜査官は声をかけた。
周防「ねえ、あなた朝南千夏さんだよね?」
朝南「え?は、はい!」
周防「今、縄を切ってあげるからこっちに来て!!」
朝南は周防捜査官のいる場所へ椅子を動かしてながら近づいた。鉄格子は丁度腕が通るぐらいの隙間があったので、朝南はナイフを落として周防捜査官に拾わせた。ナイフを拾った周防捜査官は彼女の腹部に巻いてある縄を切って、足元の縄も切った。はれて自由の身になった朝南は机に置いてある鍵を拾って、鉄格子の錠を開けた。開けた途端、中にいた人達は立ち上がり、周防捜査官の指示の元、ゾロゾロと出始めていた。そして、最後に残った周防捜査官も朝南と一緒に外へ出た時に襲撃されてしまった。
ピーター・ランチューダー「警察の虫め、通報しやがって。お前は商品じゃなく餌として、俺の子分に喰わせてやる!!」
朝南「その人を解放しなさい!!」
ピーター・ランチューダー「残念だが、そうはいかない!!ただのか弱い女かと思えば、結構行動力あるじゃねえか!!気に入った、貴様だけでも売り飛ばしてやる、思いっきり高くな!!」
ピーターは朝南の腕を掴み、彼女の行動を封じた。それに伴い、激しい痛みが全身を駆け抜けて、朝南は悲鳴を上げざるを得なかった。
朝南「痛いっ!!離して!!」
いくら痛みを訴えても、所詮カオス。人間の言う事など聞くはずがなかった。ピーターが洞窟に引きずり込もうとした時、横から突如謎のキックを喰らって飛ばされた。朝南もは衝動で飛ばされたが、謎の黒い何かに体をぐるぐる巻きにされ助かった。
ピーター・ランチューダー「だ、誰だっ!!」
ピーターが混乱していると、影から何か出てきた。黒い服に剣や鞭を持った女性だった。さらにピーターの後ろにはフードを被った謎の人間もいた。もちろん、正体はノワール達だ。
ヴィオレ「あんたが誘拐犯ね。名前はピーター・ランチューダーだっけ?」
ピーター・ランチューダー「貴様かっ!!さっき蹴りを入れたのは!!目的は何だ!?」
ブラン「あなたの目的を阻止しにきました!!あなたは大人しく異世界に帰りなさい」
ピーター・ランチューダー「貴様らの指図を受けてたまるか!!秘密警察!!」
すると突如、蜘蛛の集団が現れ始めた。体には大砲みたいな物がついていた。
ピーター・ランチューダー「蜘蛛の巣ならぬ、蜂の巣にしちまえー!!」
その一言で蜘蛛達は撃ち始めた。いくら小さいとは言え、木を貫通する威力はあった。見かけ倒しではないようだ。
ブラン「うわっ!?一斉攻撃なんて酷いっ!!」
ジャラゴン「な、何なんだっ!?あの能力!?」
ノワール「恐らく、分身を作って攻撃するタイプだろう。今までの誘拐もこいつらの仕業だ」
ピーター・ランチューダー「その通り!!この秘密警察は俺の分身を作り出す能力。こいつらに噛まれたら俺の魔力により、どこにいるか丸わかり!!あとは誘拐すればお仕事終わりさ」
ジャラゴン「蜘蛛のアザはその為か!!」
ピーター・ランチューダー「そうだ!!君達も同じように高値で取り引きしてやろうか」
ヴィオレ「ほんと最悪」
ピーターの能力により、中々手が出せないブラン達。まるで1つの軍隊と戦っている気分だ。しかし、そんな状況でもノワールは臆さなかった。むしろ、彼の顔は楽しそうだった。
ノワール「面白い、やはりこうでないとな。もっと攻撃してこないのか?流石に銃弾は飽きた」
ピーター・ランチューダー「ほう?死にたい奴がいるようだな。だが、そんな奴は美しく感じる。折角だから、特大ミサイルでもプレゼントしてあげよう」
すると今度はミサイルを乗せた蜘蛛が数体現れた。小さく見えるが、発射されると大きくなる仕組みだろう。ピーターの掛け声と共に、ミサイルが発射された。
ピーター・ランチューダー「発射ー!!!」
ノワールの読み通り、小さいミサイルはやがて大きくなり、ノワール目掛けて飛んできた。しかも追尾型でどこにいようとすぐに追いかけてしまう。まさに万事休す。
ノワール「ミサイル?いくらでも当たらせればいいさ。威力がデカければ嬉しいが」
ピーター・ランチューダー「もちろんさ。車を一撃で粉々にしてしまう威力はある。さて、君も粉々になれ」
そして、ミサイルは全弾ノワールに当たった。すざましい爆発音と共に爆風も起こり、その威力は周りにあった木々を一瞬で更地にさせる程だった。ブラン達は朝南と周防捜査官を抱き抱え、洞窟の溝に隠れた。しばらくミサイルは撃ち続け、その衝撃波は洞窟にも響き、上から小石がゴロゴロと落ちてきた。そして、やがて撃ち終わって静かになった。辺りは煙だらけでここがどこにいるか分からなかった。しかし、木がなくなっていたので、辺りはもう林ではない事には気づいた。やがて煙が消えかかり、奥からピーター・ランチューダーが現れた。ピーターは声を高く上げ、笑っていた。
ピーター・ランチューダー「ふははははっ!!死んでしまったか。まあ、人身売買の俺に挑んだ事は褒めてやる!!しかし、奴は死んだ!!これで邪魔者はいなくなった!!」
彼の言葉を聞いた朝南と周防捜査官は絶句してしまった。一体何が起こったのか、頭が混乱して整理出来なかった。一方でブラン達は驚いてもなければ、悲しんでもない、むしろ落ち着いてた。
ジャラゴン「ねえ?今頃何をしてると思う?」
ブラン「さあ、スマホはこの状況ではやらないから、肘枕してるんじゃない?」
ヴィオレ「確かにやってそうね。ノワール、お前が生きてる事は知ってんだ。早く出なさい」
その出来事に朝南、周防捜査官、ピーターも目を丸くした。すると煙が全て消えかかった時に岩が現れて、その上で肘枕をしているノワールを見つけた。
ノワール「中々面白かったよ」
ピーター・ランチューダー「な、何ー!!??」
朝南・周防捜査官「「えええーっ!?」」
ノワール「さっきのミサイルで君の軍隊は死んでしまったようだね。遠距離武器を使う時は周りに人がいない事を確認してやるんだ。分かったか?」
ピーター・ランチューダー「貴様ー!!!秘密警察!!」
ノワール「無駄だ、邪魂吸収」
ピーターが出した蜘蛛軍隊はすぐさまノワールの力で魂を吸われて死んでしまった。また繰り出しても奴は魂を吸われると感じたのか、今度は自身が剣を取り出して戦おうとした。
ピーター・ランチューダー「ぐ・・・この俺が動く羽目になるとは!!」
ノワールはすぐさま背中に背負っている滅亡と絶望の剣を抜き出し、形を剣から釣竿に変えた。
ピーター・ランチューダー「何のつもりだ!?」
ノワール「お構いなく、あなたからどうぞ」
ピーター・ランチューダー「く、喰らえ!!」
ピーターはすぐさま剣を振り下ろそうとするも、ノワールは難なくかわしていった。逆に乱れた動きはノワールの攻撃をもろに喰らってしまう。実際、彼の脚や腹に蹴りを入れていた。また、持っている釣竿は異常に硬く、まるで1本の剣を持っているみたいだった。ピーターは抵抗するものの、終いには持っていた剣もノワールの釣竿に釣られてしまい、何処かへ放り出された。
ピーター・ランチューダー「く、手強いな!!俺様の攻撃パターンが難なく攻略されていきやがる!!」
ノワール「最後の選択だ、帰るか、死ぬか」
ピーター・ランチューダー「ぐ、分かった。俺は元の世界に帰る。だから・・・」
ピーターはあっさり降伏した。しかし、ノワールには全てお見通しだった。なぜなら・・・カオスは簡単に負けを認めないからだ。
ピーター・ランチューダー「貴様は地獄に落ちろ!!仲間が死んでいく姿を目に焼き付けろ!!」
ピーターは最後の悪あがきか、秘密警察を発動させた。今度は今まで以上の蜘蛛軍隊を出して、一斉射撃をし始めた。ノワールは釣り糸を駆使して、弾を全て受け流した。ヴィオレ達も武器を取り出し、弾を全て弾き返した。するとヴィオレは蛇姫之鞭を出して、ピーターの腕に巻きつけた。ノワールも釣竿を振りかざして、もう片方の腕に巻きつけた。腕を縛られたピーターは動く事すら出来なく、拘束されてしまった。
ピーター・ランチューダー「何っ!?俺様の動きを封じただと!?だが、構わん!!糸を出せばこっちのもんだ!!」
動けなくなったピーターは口から糸を出した。蜘蛛の糸は強度もあり、粘着性も兼ね備えているので捕まれば蜘蛛の餌食になってしまう。その糸をまさに目の前にいるブラン目掛けて放出した。しかし、ブランは光属性特有の速さを利用して難なく避けた。その後落ちてあった石を投げて、糸の放出を止めさせた。これに激怒したのか、今度は糸の塊を放出した。一見ただの塊だが、いきなり爆発してそこから蜘蛛の巣が出てきた。恐らく、拘束用の技に違いなかった。それを数発放出させた後、蜘蛛の巣みたいに広がり、ブランの体に被させた。粘着性の糸は身動き取れなく、それも大量に被さった為に武器すら持てなかった。
ブラン「しまった!!」
ピーター・ランチューダー「蜘蛛舐めんなよ!!」
ノワール「こうなるとは・・・分かっていたけど」
ピーター・ランチューダー「何!?」
ノワールは何故か笑っていた。そしてノワールは腰から何かを取り出した。何やら黒い物でガチャッと開けて、何やらカードを2枚取り出した。そして、それをかざすとカードが光り出し、カードから何か出て来た。その正体は、有川宝華ならぬアスールと赤城炎珠ならぬルージュだった。実はアスールとルージュはカードの中に閉じ込めて、緊急用としてノワールが持っていた。カードから飛び出た2人はすぐさまブランの所へ行き、蜘蛛の糸を剥がし始めた。蜘蛛の糸は水に弱い為、アスールが水を出すと粘着の効果は弱くなり、さらに辺りの蜘蛛の糸をルージュが焼き尽くした。ある程度山火事にならないぐらいにしてあるので、燃える心配はない。
ピーター・ランチューダー「ば、馬鹿なっ!!何なんだ、貴様らは!!」
ノワール「通りすがりのスライムだ!!覚えておけ!!」
ピーターはその場で発狂し、蜘蛛の糸を出し続けた。しかし、今後はアスールとルージュがいる為糸は容易くやられた。そして、何も手がないのかピーターは絶望した。
ノワール「今だ」
ジャラゴン「よし!!いけー!!」
ブラン「いくわよ、みんな!!」
アスール「はいはい!!」
ルージュ「お覚悟!!」
3人は同時に飛び、空中でバク転をして、足を突き出した。その足には各属性のエネルギーを込めており、当たれば一撃でやられる威力を持っている。ピーターは体が動けない状況でただただ喰らうのを待つしかなかった。
ピーター・ランチューダー「あぁ・・・ああ!!」
ヴィオレ「蜘蛛の巣に絡まれたのはあんただったようね!!」
ヴィオレの言う通り、本当に蜘蛛の巣に絡まれたのはピーター自身だったのかもしれない。蜘蛛自身が蜘蛛の巣に引っかかる事もある。まさに皮肉だな。やがて近づいた時に鞭と釣り糸を離して、咄嗟に逃げた途端、3人のキックを喰らってしまったピーター。そのまま遠くに飛ばされて倒れてしまい、
「口は災いの元ならぬ蜘蛛は災いの元〜!!」
と言い残して爆散死してしまった。これで誘拐事件は解決した。その後、爆発音を頼りに来た捜査官達が駆けつけた。その場を見た後は既に終わった後だった。そこにいたのは周防捜査官に被害者の朝南、そして黒い服を来た謎の集団。捜査官達は黒い集団に向けて銃を構えた。しかし、それを見た周防捜査官は
「待ってください!!この人達は私達を助けてくれたわ!!被害者もここにいるわ!!」
と訴えた。それを聞いた捜査官達はどよめいたが、拳銃を収める訳にもいかない。犯人がいない限り警戒しないといけない。すると後ろから大波捜査一課長が現れて、ノワールに話しかけた。
大波捜査一課長「私は大波捜査一課長だ。お前達は何者だ?」
ノワール「通りすがりの人助け。強いて言うなら我らはノワールファミリー。闇を愛し、闇を支配する者だ」
大波捜査一課長「ノワール、ファミリー?」
ノワール「今は君達に付き合っている暇はない。ではこれで」
するとノワール達は腰にあるバックルを取り出し、そこからワイヤーを出してどこかへ行ってしまった。捜査官達が追跡するも向こう側は森であり、追跡の仕様がなかった。とはいえ、今は残った被害者の保護が先だ。数時間前に森の中から出て来た人も全員保護した。しかし、大波捜査一課長は気になっていた。あのノワールファミリーという組織に。あれがただの人助けであればいいが、奴らは一体何者なのか、目的は何なのか、皆目検討がつかなかった。しかし、この出来事がノワールファミリーの存在を世間に広める事になるのだった。




