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はじめてのエルフ

 「ここは・・・いい天気だな」


イザナギとモルドレッドに連れてこられた場所は、キゲンデの北の山を越えた麓の森だった。その森を抜けると、壮大な草原が広がっていた。緑の草が生えて、そよ風が吹いて、太陽が出ているせいか、妙に暖かく、青い大空だ。キゲンデの悪天候とはまるで違う。ずっと井戸の中の蛙状態だったから、こんな世界があるなんて知らなかった。それにしても、なぜ僕はあんな場所に落とされたのか、まったく分からない。まあ、そんなことはさておき、その黒いもやもやを見ることにした。そこは森の中のもっと奥にあって、まさに壁のようにそびえ立っていた。イザナギやモルドレッド、そのほかの者がその壁に触ってもぜんぜんびくともしない。だから、今度は僕が触ろうとした。僕が触れても確かに壁みたいに、中には入れなかった。しょんぼりして、帰ろうとした時だった。急に黒いもやもやした壁が動きだした。それは僕に目掛けて。僕も気づいたけど、時遅しすでに黒いもやもやは僕の目の前にあった。イザナギとモルドレッド達が守ろうとするも、壁から黒い雷を出してきた。どうやら、僕以外の者を拒絶しているらしい。そう思って、二人に


「我はこの中に入ろう。もしかすると、二度と帰ってはこれんかもしれない。ただ、心配するな。いつか帰る方法を見つけてやる。それまでは、しばしの別れだ。達者でな。」


そう言って、黒いもやもやに触った。すると、今度は指が入って通れるようになっていたのだ。後ろで


「お待ちください!ノワール様が行くのであれば、我々も同行します。」


「ノワール様、戻ってきてください!」


とイザナギとモルドレッドが止めようとする。しかし、


「我はノワールだ。戻ってくると約束しただろ。いいか、我が嘘をついたことがあるか。お前達のことを見捨てたりはしない。新しい仲間や武器を持って帰るだけだ。あいつらにそう伝えてくれ。さらばだ。」


と言って、黒いもやもやの中に入った。


「ノワール様!」


「ノワール様!」


とみんなの声が聞こえるが、次第に聞こえなくなり、やがて姿さえも見れなくなった。それにしても、ここはどこだ。辺りは真っ暗で何も見えない。どこを歩いても、ずっと同じ景色だ。勢いで入ってしまったが、この先のことは考えていなかった。これからどうしようかと考えている所、


「やあ、この世界ははじめましてかな?ようこそ、僕の黒い緞帳(ブラックカーテン)の世界へ!」


と声が聞こえた。後ろから声がしたので振り返るとそこにいたのは、ウサギのような黒い生き物が浮いていた。


「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はアートルム。グレゴリーって所で働いてるんだ」


と言ってきた。


「グレゴリーは簡単に言えば秘密結社だよ。奴隷や極秘の情報を高値で売る組織だよ。僕はその組織の偉い人ってこと」


と説明してきた。つまり、そのグレゴリーって組織は国と国を結ぶ組織ってことかな?ただし、話を聞く限りいい組織ではなさそうだ。その後も色々と話してくれたがピンとこなかった。


「君はこういう環境には慣れてるわけ?ほとんどの人が泣いたり、迷ったりはするんだけどね。」


でしょうね。こんな空間にポイっと入れたら、誰だってこまるわな。それにしてもアートルムだっけ、こんな所に僕を入れて、どうするつもりなんだ?


「そういえば、君の名前を聞いてなかったね?名前は?」


なんだろう、ちょい上から目線で話しているからなんかムカつく。まあ、とりあえず名前は一応言っておこう。


「僕の名前はノワール。こっちがジャラゴン。ところで・・・」


「じゃあ、この黒い緞帳(ブラックカーテン)について説明するね」


いや人の話を聞けよ。なに話題を振ろうとしてんだ、こいつは。


「今、人の話を聞けとか、話題振るなとか考えていでしょ?」


えっ、滅茶苦茶恥ずかしいな!なんだかバカバカしい。


「別に恥ずかしいことでもないよ?バカバカしくも無いから安心して」


おい、ちょっと待て。なんだこれは!なんで僕の気持ちが分かるんだ。エスパーか?もう安心できない。そんな僕の考えをよそに


「話の続き。黒い緞帳(ブラックカーテン)について簡単に説明するね。これはね、色んな世界に渡ることが出来る時空間ワープだよ。未来や過去にもいけれる優れた魔法だよ!」


なにっ!そんなすごい魔法があるのか。ちょっとだけ不安が抜けた。


「そういえば君って、外と中身じゃ全然ギャップが違うんだね」


と言われた。


「当たり前だ。部下の前では威厳を見せないといけないからな」


「そうなんだ~。じゃあ仮に、ほかの世界に飛ばされたら君はどうする?」


急に訳が分からないことを言ってきた。


「君はこう言った。仲間と武器を持って帰るって。もしそれが出来なくなると、みんなどんな反応をするのかな?」


と楽しそうに言ってきた。さっきの会話を聞いてたな。こいつ、適当な人間を捕まえて、ほかの世界に飛ばすのが楽しいんだろうな。なんか気に食わない奴だ。こんな奴を見ると、昔戦ったあのムカデのほうが可愛く見える。だから、


「いただきまーす。」


と言ってアートルムを丸呑みした。すると、アートルムを食べたからなのか、空間が歪んできて、色んな世界の背景が出てきた。そして、いつの間にか知らない世界に一人ポツンと立っていた。

そこは森の中にある開けた場所で、夜なのか、月が明るく見えた。ここはどこなのか、期待と好奇心が止まらなかった。キゲンデとは全く違う世界であれやこれやとさまよっていると、近くで大きな声が聞こえた。近づいてみると、そこには大勢の男がおった。焚火を中心に、酒を飲んだり、祝ったりしていた。多分、宴会だ。また、僕は一目見て、盗賊だと確信した。彼らの馬車を見ると、はっきりとはしないが荷物が大量に積まれて、なかには金貨や財宝が入っていたからだ。ほかの馬車から強奪したんだろう。近くに洞窟もあるし、ここが奴らの根城かなと思った。すると、後ろから


「なんだ、小僧?こんな場所に用があるんか?」


とスキンヘッドの男がやってきた。どうやら、酔っぱらっているらしい。すると、ほかの男達も気づいて、みんなの視線が僕に向いた。


「なんだ小僧。こんな所に来て、迷子にでもなったのか?」


小僧・・・うん、小僧だ。僕って、あっちの世界じゃ、リーダーやってるけど世間的にみたら、まだ子供だ。しかも、6,7歳ぐらいかな?ちょっと、そこは分からんけど。まあ、とにかく今はピンチっとだけ言っておこう。ガラの悪そうな奴らが僕を見て、


「こいつ、よく見ると女じゃねぇか。顔もいいし。ひょっとして、どこかの偉い貴族のご令嬢かもしれねーぜ。もっと高く売れるかもしれねぇな!」


確かに、僕って顔はなぜか綺麗なんだよな。女顔負けの姿だし。まあ、髪もそのまま伸ばしっぱなしにしていたから、女と間違えられても仕方がない。全身スライムで形は変えられるけど。ただ、売り飛ばされるってのはごめんだ。


「こいつ、なんか高そうなもの持ってやがるぞ。こいつも売れば金になるんじゃね?」


と肩にあるジャラゴンに触ろうとした。すると、盗賊の腕がいつの間にか切られていた。訳が分からなくなった盗賊は、ただもだえるだけだった。一体どうしたかって?それは僕が独自に開発したこのスライムカッター!説明しよう。このスライムカッターは僕が作ったCHO合金が素材の武器だ。しかも、僕自身の体から出しているから奪われたり、落とすこともない。また、刃こぼれや血のりで切れにくいといったこともない、まさに優れた万能カッターだ!!盗賊達は剣やナイフを抜いて、一斉に襲いかかろうとした。しかし、このスライムカッター、伸縮自在でどこにいっても伸びるし、増やせるし、あと僕の意思で操っているから、どんなに100人襲ってきても大丈ー夫!!


「ヒャッハー!すっげー楽しい!お前達を殺しても誰も文句言わないからな!」


僕は宴会を楽しんだ!ジャラゴンも協力して、盗賊を殺しまくった。だいぶ片付いたと思っている時、洞窟の奥から援軍とボスらしき男が現れた。


「これだけの仲間を殺るとは。お前達、何をぼさっとしとる!早くやれ!」


と盗賊に命令した。ほかの盗賊達も僕に襲いかかろうとした。だけど、所詮は雑魚の集まり。きっちりと、綺麗に始末した。


「次は君だよ。どうした、剣を抜かないのか?それとも、ビビッて怖気ついたか?」


すると、盗賊ボスは


「このガキ!殺してやる!」


と言って剣を抜いた。僕はスライムカッターを収め、体から一本の剣を取り出した。この剣は僕が飲み込んだ男が持っていたものだ。この剣は魔剣だ。魔力を込めるととてつもない力を発揮する。あの男は知っていたのだろうか?魔剣なら、あんなでかいムカデ、スパッと切れたのに。だから、僕が有効活用させてもらおう。この剣にもCHO合金を混ぜて改良した剣だ。名前は【絶望と滅亡の剣(アポカリプス)】と呼んでいる。余談はさておき、盗賊ボスとの一騎打ち。相手も出方を伺っている。腐っても剣士だな。出方を待っていると、酒の入った瓶がどこからか落ちた。パリンっと音が鳴った瞬間に、二人は動いて剣をぶつけた。ガキンガキンと音を立てて、辺りのものを壊しながら戦った。なんだろうな、この男・・・すごく遅い!!ファザーと訓練した僕だから言える。ファザーは最強の武人の魂で作ったから、剣を素早く動かし、尚且つ攻撃力がでかい技をどんどん連発してくるから、僕もその速さに追いつこうと努力したっけ。


「オラオラオラァ・・・あれ、いないぞ。どこだ⁈」


おかげでこんな大人相手でも余裕余裕。むしろ、遅すぎてつまんなかった。


「なんだこのガキ!速くて追いつけねぇ!」


「お前が遅いんだよ、ば~~か~~!」


「やろー、ならこれでも・・・」


「はいはい、喰らえだろ。さっさと終わらせたいし、これで終わりにしよう。」


と言って、絶望と滅亡の剣(アポカリプス)を盗賊ボスの心臓部に突き刺した。すると、男は「う、うわぁ~」と悲鳴を上げ倒れこんだ。ただ、これで終わりじゃない。この魔剣絶望と滅亡の剣(アポカリプス)は殺した者の魂や魔力、血を吸って強くなる。これは死亡術(シニマクリ)の力を入れてあるから、まさに生きた魔剣だ。剣を収めたら、日が昇ってすっかり朝になった。さて、盗賊団も全滅させたし、どうしようかな。そういえば、馬車や洞窟にまだ財宝がある。それを持ち帰って、城の金庫室に入れよう。こうして、金目になりそうな物は全て体内に回収した。すると、ジャラゴンが荷物箱の中にがたがたと動くものを発見した。それは布に被されていて、なにかを隠しているようだった。大事なものなら持って帰ろう、そう思って布をとって箱を開けると。なんということでしょう。

なかには、腐った()()があった。

わお、これはすごい!何と魔力がある!恐らく、虐待されたんだろう。体には至るところに傷や痣、薬を打ったところもあったが、実際生きてるし、これを利用すれば仲間が出来るかも!そう期待して、腐った何かを持って外にでた。多少、異臭はするし、ハエも寄ってたかってきたけど、そんなの関係なく作業に取り掛かった。創造術(ツクリマクリ)を使って、肌を綺麗にし、骨折箇所やぼさぼさの髪を直したりした。出来栄えは、なんということでしょう!腐ってもう原型がなかったのに、銀髪の髪の長い美少女になってしまいました。しかも、耳が長い。まさか、エルフか!一体全体どうなったんだ?あれこれ悩んでいるうちにエルフの女の子が起きた。


「こ、ここはどこ?あなたは、だれ?」


もう起きたのか?それにしてもよく見ると、銀髪、青目、色白、そして美人。何から何まで完璧なエルフだ。しかし、どう答えようかな。あまりにも怪しいと、返って疑われて仲間になってくれないし。ここが重要だから、なんとか口実を作らないと。う~ん。あっ!そうだ。敵は世界の裏に潜む闇組織ってことにしよう。


「我が名はノワール。【ノワールファミリア】リーダー。通りすがりの男だ。お前を助けた者だ。」


もちろん、今適当に作った嘘。これがバレるとお終いだ。どうか、バレないように。


「ノワール、それがあなたの名前?」


しかし、そのエルフは以外にもあっさり受け入れた。よかった、バレてなくて。もしバレたらどうしようかと思ったけど、今は大丈夫だろう。するとジャラゴンが


「なんじゃ、その【ノワールファミリア】てのは?そんな名前聞いたこと、うっ、むぐぐ~!」


僕はジャラゴンの口を塞いで体に入れた。危ない危ない。バレたらどうするんだ。しかし、幸い彼女は気づいてない。良かった~。まずはセーフ。次は何をしているかだ。ただ、ノワールファミリアと名乗っていても、何をするのかわからないんじゃ、疑われるからなぁ。何かいいアイディアがないか探しているとピンとひらめいた。そういえば、アートルムがグレゴリーって組織について話していたな。ちょうどいい。今度はあいつらにしよう。


「我々の目的は君を誘拐した世界の裏に潜む組織を壊滅させること。君には陰ながら協力してもらいたい」


それを聞くと、エルフは目の色を変えた。


「何ですって!?」


「その組織の名は”グレゴリー”。世界の舞台の裏側ではよく知られている闇の組織だ」


エルフの子はきょとんとしている。


「かれらはどの国にも所属しておらずあらゆる世界から政治的重要機密や極秘の研究データ、あるいはあらゆる世界でいろんな種族を誘拐しする。目的はただ一つ・・・それを一番高い値段で買いとる国へ売りつける。特に珍獣や貴族の女なんかをね」


「そんな話があるなんて・・・」


ちょっと大げさすぎたかな?アートルムが言ったことを全て話したけど、色々と盛りすぎたかな?まあ、このくらいの方が面白いけど。


「まさにビジネスってやつ。競売に出された盗品はもちろん、自国の利益のために盗まれた国自身が買い戻すケースがもっとも多いけど・・・」


「・・・?」


「時には金額に納得せず敵対する相手国の手に渡ってしまうことがある。そうするとどうなる?」


「・・・!!ト、トラブルッ!!」


「そうだ、戦争の危機をはらんだトラブルが起こる、いや正確には盗品の値をよりつりあげるために、意識的に国と国、世界と世界との感情操作さえもすることがある!対立が拡大すればするほど敵対国の情報を欲しくなるだろうからね!」


その話を聞いて、エルフの子は固まってしまった。


「君は運よく助かったけど、全てを奪ったあいつらを憎くないか?」


「・・・憎いわ。全てを奪ったあいつらに復讐してやる!!」


「しかし奴らは裏組織だから表にはでない。だから、僕たちも闇に隠れるんだ。そして闇の世界を支配するんだ」


「表舞台に出ずにそれほどの影響力を持つ者ね。となると敵は権力者・・・真実を知らずに操られている人もたくさんいるはず」


やっと納得してくれた。ここまでくると


「ノワール。私はあなたに忠誠をつくすわ。」


やっと仲間になってくれた。となると、今度は名前だ。創造術(ツクリマクリ)で作った者は名前を失う。だから、彼女は名無しだ。


「僕が名前を付けよう。そうだな・・・アインスなんかどうだ?」


「いい名前だわ。私はアインス。よろしくね」


気に入って良かった。


「そうだ。それと僕の魔力を君に与えよう。これで魔力暴走もしないし、強くなれる」


と言って、指から黒線を出してルシカに刺した。流石の彼女も最初は苦しそうだったが、次第に落ち着いてきた。まさか、こうもあっさりと仲間になってくれるなんて。それにグレゴリーを壊滅させればもっと僕の名が広がるに違いない。さあ、ここからが始まりだ。もっと仲間を作って本拠地に帰って、全てを手に入れてみせる。


「まだ、ほかにも被害にあっている子達がいるかもしれないわ。その子達を保護して仲間を作りましょう」


「え、まあ、ほどほどにね」


こうして、僕の異世界冒険もとい仲間集めがはじまった。



・・・

「分身が消えるとは、まさか!」


空から見下ろすように眺めている者がいた。それはアートルムだった。そう、ノワールが食べたのは、偽物つまり分身だった。万が一のことを考えて、分身を送らせたらしい。


「それに、奴隷のエルフを連れて行ってるとは。せっかく盗賊達を使って運ばせようと思ったのに。そしたらあいつが現れて。まったくあの男、油断ならないね」


なんと、盗賊は運び屋にだったのだ。こうも計画が失敗してしまうと、自分の計画の妨げになる。


「次は本気で相手になってやるよ、ノワール君」


そういって、アートルムは黒い緞帳(ブラックカーテン)を出して、中に入った。

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