動き出した暗躍
「時間だ」
その一言でその場にいたみんなが動いた。彼らはどこに行くのか。彼らは迷う事なく、列を乱すことなく綺麗に歩いて行った。彼らは動き始めた、真の目的のために。
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学校に通っている黒季は今、校門前で悩んでいた。今日は風紀委員による持ち物検査があったからだ。それで前回面倒なことに巻き込まれちゃったから。今回はあのお節介女がいないことを確認しながら進んでいこう。僕は壁からちょっと顔を覗かせた。見た所、あの女はあそこにはいない。今がチャンスだっ!!早速校門を入ろうとした時
「そこの君、止まりなさいっ!!」
と何処からか聞き覚えのある声が聞こえた。まさか、嫌な予感がしていた。そう、そこに立っていたのは風紀委員の川岸澄花だった。
「何でそこにいる」
「あなたのことだから、私を警戒しているんじゃないかと思い、ここで待ち伏せていただけです」
「怖いな。何で待ってたんだよ・・・」
「仕事ですから。それよりも鞄の中身、見せてください。生徒指導室で」
「げっ・・・」
こうやってまた生徒指導室に連れて行かれた。
「全く、あなたはどうして学業に関係ないものを持ち込んでくるのですか、凶器マニア君?」
「凶器マニア言うな」
鞄からバール、ペンチ、スパナ、催涙スプレーなどの凶器が出て来たことは事実だが。だがこれは防犯用だと訴えているが、全然聞く耳を持たない。というかまた長い説教が始まった。何か持ち物検査、苦手だな。それで教室にはギリギリだし。今日も何気ない日常が始まった。そして放課後。早く帰ろうとしたら、宝華にある物を渡そうと考えた。それは小さな黒い宝石がついた指輪で、これがあれば彼 どこでも黒い緞帳を出すことが出来る。但し、暗黒の魔城限定だけどね。本来、指輪等は持ち込み厳禁だが、この指輪はノワールファミリーにしか見えないよう細工してあるのだ。実際、十黒や白沢、姉さんと妹にはもう渡してあるが、彼女にはまだ渡してなかった。
「どこにいるんだ?もしかして部活?」
試しに部活動が行われているプール場へ行ってみた。すると案の定、みんな水泳をやっていた。彼女も部活に参加していた。
「はいみんなっ!!筋トレが終わったら練習試合をするよ、大会までもう少しだからね!!」
さすがスポーツマン。彼女の迫力ある一言でみんなの見る目が変わっていた。大会までもう少しなんだ。今回はちょっと見てみようかな。それにしても男子、まだ少ないんだな。それと逆に女子が多い。何でも宝華に惚れて入ってきた女子が多いとか。人気者だねー。
「また今度にするか」
僕は宝華を後にプールから出て行った。
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「また姫様は冒険者になっているのですか?」
「仕方がありませんよ。前々からやりたがってたんですから」
その頃、サファイアと女騎士がミニストのパトロールをしていた。サファイアはまたエリザベスが脱出したことに呆れていた。また脱出し、帰って説教の繰り返しに疲れていたのだ。それも毎日。
「ですが、何故団長はそこまで姫様に過保護なのですか?」
「・・・!!」
その質問を聞いて過去の記憶が蘇った。それはまだサファイアがまだ剣士だった頃、初めて姫様の護衛の命を任されたのだ。その時はまだ力もなく、剣の腕もまだ未熟だった。そんな自分を何故指名したのか、それは姫様のお願いだったからだそうだ。早速、姫様の護衛をしたが、ある日姫様が何者かに誘拐されたのだ。相手は身代金を要求し、城中一大事になったのだ。その時、彼女は国中を探して回っていた。自分が少し目を離しただけで誘拐されるとは。この時自分の愚かさ・無力さを感じたのだ。誘拐犯が国の外にある廃村を拠点にしているという情報を耳にした彼女はすぐさま走って行き、一人で誘拐犯と相手をしたのだ。流石に相手も一筋縄ではいかなかったが、それでも屈することなく相手を斬り続けた。そして、救援が来た頃には辺り一面死体と血の池があたりに沢山あった。幸い誘拐犯のリーダーは拘束されていた。姫様も無事だったようで安心した。しかしサファイアはこの事件以来、二度とあの失態をしないよう、絶対に姫様を守ると誓ったのだ。
「あの〜、団長?」
「・・・はっ!すまない、つい昔のことを思い出してしまった」
サファイアは昔のことを思い出して、つい固まってしまったのだった。時々この判断が合っているのか、それとも間違っているのか、最近悩むようになってきた。国王の言う通り、姫様を自由に生きさせた方がいいかもしれない。最近、姫様も私を煙たがっているしな。
「もう、昔みたいに戻れないのか・・・」
こんなことを考えながら、サファイアは引き続き女騎士とパトロールを続けた。裏で謎の集団が暗躍していることに気づかずに・・・。
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その頃、黒季は下校中、誰かからの連絡をもらった。
「・・・アインスか」
アインスからだった。その内容は言わなくても分かっている。
『たったゴースト達がグレゴリーに通じてると思われる組織を見つけたそうよ』
「何処だ?」
『その組織の名は"パッフェード"。主にミニストを拠点に暗躍している組織よ』
「なるほど。ではグレゴリーと繋がっている奴らはいるんだね?」
『報告によるとその組織のリーダーと副リーダーが繋がっているようだわ』
「いい報告をありがとう。それでみんなは今どうしてる?」
『ツヴァイとドリィ、フィアとフェンカ達が今ミニストにいるわ。いつでも動けるようにね。あら、またゴーストから情報を貰ったわ。今度は奴らの拠点ね。確認するだけで5つはあるそうね』
「分かった。お前達にはその拠点を潰してもらおう。フィアも暴れたいだろう」
『ノワールはどうするの?』
「我はそのパッフェードのリーダーと副リーダーを相手にする」
『分かったわ。ちなみに奴らの目的も話しておくわ。奴らは姫様をまた誘拐するそうよ』
「姫様を?」
『ええ、そのために姫様を誘拐して、その条件としてミニストを淫都にするのが目的らしいわ』
「なるほど。我も後でそこに行く。ちょっと調べたいこともある」
『分かったわ。また後でね』
そう言うとプツンと切ってしまった。また厄介そうなのが現れたな。パッフェードか。前にゴースト達から情報を聞いたが、もう動き出したとはな。また遅く帰ってきそうだ。
「全く、人騒がせなもんだ」
黒季、いやノワールは黒い緞帳を出してミニストに行った。
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場所はミニスト。時間帯は夜。サファイアは一人でパトロールをしていた。ついて来た女騎士を帰らせて、一人で国をパトロールしていたのだ。
(姫様に嫌われてても、この国だけは絶対守ってみせる!!)
しばらくパトロールすると、路地裏で誰かが動く気配がした。サファイアは気になり、こっそりついていくことにした。するとある路地で二人組の人が確認出来た。サファイアは咄嗟に裏に隠れた。二人の会話はよくは聞こえないが、要点だけは上手く聞こえた。
「もうすぐ姫様を誘拐するんだよ。緊張してんのか?」
「違うよ。作戦が上手く行くか不安で」
「大丈夫だよ。あの方の作戦なら上手く行くって」
作戦?姫様を誘拐?あの方?サファイアは黙って聞いて、何かがあると感じた。国を脅やかす者なら早く知らせないと。そう思い、この場を離れようとした時、後ろから何者かに首にプスッと何かを刺された。
「うぐっ・・・」
サファイアはそのまま意識を失ってしまった。それに気づいた二人もすぐに駆け寄った。
「一体何事だ?・・・てサファイア団長じゃねえか!!何でここに!?」
すると
「予定が狂ったが、逆に予定が早まった。今まで通り、作戦を始めよう。我々の楽園の為に」
男はサファイアをお嬢様抱っこして何処かに消えて行ったのだ。その頃、いつまで経ってもサファイアが帰ってこないことに城中ざわめいてた。
「うーん、サファイアは何をやってるんだ?」
「全然パトロールから帰って来ませんね。今日は大事な話もありますのに」
「明日の会議の日程も知らせないといけないのにな」
国王も大臣達も心配し始めた。国王は何か事件に巻き込まれたと思い、サファイア騎士団を出動させた。それを見ていたエリザベスも不安がっていた。
(お姉様、ご無事なんですよね?もしかして自分のせいで追い詰めているの?)
サファイアのいない事実により不安の気持ちが高まっていた。そしてその不安は今にも起ころうとしていた。




