街に出かけよう
「なるほど。初めてこの街に行ったけど、こんなに賑やかとは、まるで広島県みたいだ」
場所はミニスト。僕ことノワールはこの街を散策していた。レンガ作りの建物、馬車、兵隊、ここまでは普通の異世界と変わらない。中世のヨーロッパみたいな景色だ。ただ一つ違うのは、街中で電車が通っている所だ。汽車もあれば中には車もあった。それに街頭は電気だということも。だからなのか、電柱もちらほら立っている。デパートもあれば、レンガ作りのマンションもある。変わった国だな。この世界にも異世界人、地球人が来たのかな?そう思いつつ路面電車に乗った。居心地は広島の路面電車と変わらない丁度いい速度だ。ソファーも柔らかく気持ちいい。ガタンゴトンと音が鳴っていて、電車が振動すると同時に吊り革も揺れている。何だか広島に来た気分だ。ここは異世界の広島、そうに違いない。やがてある所で降りてお金を払った。この世界の通貨はコイン、または紙幣で単位はモルス。コインは白磁、鉄、銅、銀、金、白金の色をしていて、それぞれ順に1、5、10、50、100、500と日本と変わってない。また紙幣には人物、建物、植物など描かれていてこれも1000、5000、10000と日本と全く同じだった。ちなみに今日は110モルス。安い方だと思う。ちなみに広島の路面電車の値段も同じだ。そういえばどうしてここにいるかって?それは数日前。魔力が無事回復して人型に戻った僕はミニストにグレゴリーがまだいることを知った。ゼクスの情報ではミニストの貴族の中にグレゴリーに通じてる人がいるらしい。どうしてそこまでミニストにこだわるのかは分からないが、とにかくグレゴリーならそのままにしておく訳にはいかないからね。なので今回は僕だけが対処しようって話になった。
「僕だけって一応我もいるんだけどね・・・」
カバンからジャラゴンが出て来た。ジャラゴンもついて来たのだ。ジャラゴンは僕一人だけでは不安だということで同伴してきたのだ。
「お前だけじゃまた何やらかすか怖いから一番目の友達がきちんと目を見張るからな!!」
「分かったよ。お前はずっと一緒にいてくれてありがとな」
ジャラゴンとはノワールファミリーを創設してからの友達だからどうしても一緒にいないと落ち着かない気がする。僕はジャラゴンを肩に乗せて歩いた。しばらく散策すると、ある建物に辿り着いた。そこは冒険者ギルドらしい所で看板には"ザフィーア"と書かれていた。何で冒険者ギルドって分かったって?それは剣や盾などの武器を持ってて冒険者らしい衣装をしてるから、簡単な話だ。僕は早速中に入った。しかし冒険者になる訳ではない。冒険者になるなどそんな漫画やラノベで見たようなことをするために来たのではない。ギルドにある掲示板に貼ってある情報欄を見に来たのだ。そこにグレゴリーの情報が載ってないかなって考えたけど流石に裏組織の情報は載ってないか。この国で有名かつ大きいギルドでも載ってないものは仕方がないか。ここに来ても用がないので外へ出ようとするといきなり扉がバンッて開いた。そこには大人数の人達がゾロゾロと入って来た。小さい男を筆頭にゾロゾロと団体客のように入ってきた。それを見た人々はみんなその団体に釘付けになった。
「おい、あれって!?」
「ああ、Sランクパーティー"ヴァイスファミリア"だぞ。きっと遠征から帰って来たんだ!!」
どうやらヴァイスファミリアと呼ばれる冒険者パーティーが帰って来たらしい。中には人間のほか、エルフ、ドワーフ、獣人などがいたことからかなり有名かつ強いパーティーなんだろう。リーダーは小人族らしく名前は"エディ・オンネット"と呼ばれるようだ。エディは受付に行って依頼品であろう袋を渡した。受付嬢はこれを受け取り「こちら報酬品です」と言って料金を渡していた。自分はよく分からないが、この世界の冒険者は国の外へ行ってモンスターの討伐や品物を集める、稀に国家規模の難事に関わる仕事もするらしい。まあ、僕には関係ないけど。しばらくして冒険者パーティーはギルドを出た。出た後も人々はざわめいていた。
(あの冒険者、本当に強いんだな。一応頭の片隅に入れておこう)
そう思い、外へ出ようとするとまた扉がバンッと開いた。今度は女子が4人のパーティーが入って来た。しかし装備はそれほど多くなく、魔力量も低い。きっと駆け出しの冒険者なんだろう。すると女子の一人が受付に行って受付嬢と話していた。しばらくすると戻ってきたが、表情は満足げではない。
「せっかく頑張ったのにたったのこれだけですわ・・・」
「しょうがないよ。依頼が依頼だし、それに誰でも出来る仕事だから」
「私ももうちょっと魔力があればランクの高い仕事もできましたのに」
「いきなり無茶はダメだよ。こうやってコツコツするのが大事」
人間の冒険者、僧侶、エルフの狩人、魔法使いはそれぞれ会話をして盛り上がっていた。見た感じ楽しそうだな。ともかくこれで外に出られる―訳ではなかった。今度は外に大きな車と馬車がやって来て、車から誰かが降りて来た。そしてまたまた扉をバンッと開いた。入って来たのは、青い軍服を着た集団だった。先頭の女性を筆頭にゾロゾロと入って来た。この集団を僕は知っている。以前宝華が誘拐された時にミニストの祭りでバッタリと出会った人だった。そう、彼らはミニスト最強騎士団"サファイア騎士団"だった。そして団長のサファイア。どうしてサファイア騎士団が来たのかは知らないが何か用があるらしい。サファイアは受付に真っ先に行って
「ここにお姫様は来ていませんか?」
と質問した。受付嬢は震えながも
「しょ、少々お待ちください。ただいまギルド長に、聞いてきます・・・」
と怯えて奥に行った。すごい威圧だな。きっとすごい形相で睨んでるな。でも姫様って何だ?するとすぐ近くにいた4人組のパーティーはいつの間にか机の下に隠れていた。何を驚いてるんだ?あっ、もしかすると・・・。
「な、何でここがバレましたの!?」
「確かに不可視化の魔法はかけましたわ」
「あ、サファイア騎士団長にはどんな魔法も見破るスキルがあったんだった」
「「「あっ・・・」」」
3人は固まってしまった。きっと誤魔化しが効かないんだろう。それに君お姫様だったんだ!確かに何でここにいるの!?そりゃこうなるな。すると奥から受付嬢が帰ってきて
「お待たせしました。ここには来ていないようですね」
と答えた。すると
「分かりました。急に驚かせてすみません」
と騎士団長は受付嬢に頭を下げた。受付嬢はすぐさま驚くも騎士団長はすぐにこのフロアを散策し始めた。そして一人一人ずつ聞いていった。
「何か知らないか」
「いえ、何にも知りません」
「あなた方はどうだ?」
「さっき来たばかりです」
「君は・・・」
「えっと・・・さ、さっきまで寝ていたもんで〜」
色んな人に聞くもみんな言い訳や知らないとの一点張りだった。色んな人に聞いてついに僕の方へも回ってきた。サファイアは目を睨みつかせ
「あなたは何か知ってますか?」
と聞いて来た。そのお姫様ならそこの机にいますけど。しかも机の下から知らないことにしてアピールがすごい伝わってきた。確かにここで関わると返って面倒な気がしてきた。なのでここは
「全く知りません」
と答えた。するとサファイアは
「そうか。急に聞いてすまなかった」
と言ってギルドを出た。あのー、ちなみにまだいますけど。すると机の下にいたはずの彼女達がこっちに近づいてきた。そして4人は一斉に頭を下げた。
「今回はありがとうございました。色々と厄介事に巻き込んですみません」
「あー、いえいえ。面倒だったので」
「よければ一緒にどうですか?」
「・・・ん?」
この日を境に僕はこの国に依存し続けた。




