ノワールの憂鬱
「何やかんやで二人も仲間を作ってしまった・・」
黒季は家に帰るなり、寝室で寝ころんでいた。この頃、色々と忙しくなったからな。それにしても今年になってすごいことばかりしか起こってない。グレゴリーの出現、マゼンタの登場、白沢と宝華が仲間になったこと。何だか非日常な出来事ばかり起こってちょっとだけ嬉しくなった。
「さあ、これから楽しくなってきたぞっ!!」
僕は内心うきうきしていた。すると上から顔を覗かせる人が来た。
「ご飯出来てるよ。それににやにやしてて気持ち悪いよ」
秋穂だ。今は中学3年生だから受験シーズン真っただ中だ。それにしてもさっきの態度といい、最近冷たくなった。昔はお兄ちゃんが出来たのか、ずっと構っていたり、「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!!」と嬉しそうに呼んでくれたりもしたのに。今は思春期真っただ中だ。でもご飯は作ってくれるからいいけど。居間に行くとみんな座って待っていた。
春香「みんなあんたを待ってたのよ」
黒季「悪かったって」
夏奈「まあまあ、みんな揃ったことだし、頂きましょう!!」
一同「頂きますっ!!」
今日のご飯はカレーだ。しかし、具はニンジンとジャガイモが少し入って、肉は入っていないけど。それでも今日はカレーのルーが安かったから贅沢品だ。だからお前ら、味わって食えよ。ここの家族は皆食欲旺盛だから、生活費が食費ですぐ飛ぶ。それに米も今は高い時期だから、ご飯も少量しかない。
冬美「今日も少ないねご飯」
冬音「・・・少ない」
秋穂「贅沢は言わない。今の生活でもうカツカツなのよ」
夏奈「それに家賃とかも払わないといけないし、今はこれで我慢してね」
春香「私の給料だけじゃ、全然足りないわ。だから黒季、お前が我が家のホープだからしっかり頑張ってもらわないとなっ!!」
えぇーっ!!勝手にホープ扱いされてる。それを言うなら、夏奈姉じゃないの?成績もいいし、いい大学もいけ・・・あ、その費用がないんだっけ。お金の大切さを良く理解してる夏姉は奨学金は絶対借りないっていうし。だから僕に期待してるんだみんな。なんか複雑やなー。
冬美「黒季お兄ちゃんが頑張ってくれるの?ならファイトだねっ!!フレーッフレーッ、お兄ちゃんっ!!」
冬音「・・・にぃに、ガンバ」
まさか末っ子にまでプレッシャーを掛けさせるとはっ!何か辛くなってきたな。すると夏奈姉が突然
「そういえば、あなた学校で絶世の美女と付き合ってるって話を聞くけど、実際どうなの?」
「・・・えっ、あ」
そういえば学校でそんな噂が流れていたんだった。やはり夏奈姉にも届いていたか。するとみんなの目の色が変わって僕の方を見た。
春香「そういえば、あんたが誰かと付き合ってるって話は聞いたことあるけど、一体どこの誰なの?」
春香姉にも届いていたなんて、なんて情報網だっ!!ってなんで知ってるの?!
秋穂「お、お兄ちゃんに彼女っ!?う、嘘よっ!嘘に決まってるわ。きっと誰かが流したデマよっ!!」
そのデマを流したのが当の本人、彼女です。
冬美「ねえねえ、今度うちに来てよっ!!私が目利きしてあげる」
冬音「・・・にぃにに・・・彼女・・・」
あのー、そろそろやめてもらえませんか。こっちはおちおちご飯が食べられない。
夏奈「ねえねえ、どんな人なの?あなたが惚れるってことはそうとうの美人だよね?あなたは昔から女の子に対する意識が厳しかったから、きっとあなたにぴったりな人なんでしょ?!」
昔の僕ってそういう感じだっけ?でも確かに女性に対してはそんな無頓着だったかな。宝華や優衣、ほのかも友達としての感覚だからそこまで好意を持ったことはなかったな。
「まあ、学年ではちょっとした人気物だよ。それに僕はまだO.K.してない」
「それは惜しいわよっ!!せっかく掴んだチャンスを無駄にしてはだめよっ!!」
夏奈姉ってこんなキャラだっけ?ここまで恋愛に打ち込む人でもなかったような。どういう風の吹き回しなんだ?
「とにかく、お前らには関係のないことだ。ごちそう様」
そう言って食器を台所に置いて、部屋に戻った。
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次の日。今日も松田さんのドアを叩く音で起こされる。ていうか今日は土曜日で学校がないから静かにさせてくれ。するとスペアキーを使って中に入った。何故か外国人も一緒に入って来た。何で?
「色田、話があるんじゃけど?」
「あのー、家賃なら必ず来週中に~」
僕も寝ぼけていたのでまともに話すことが出来なかった。しかしそれをお構いなしに次々と喋っていく。
「実はここね、今度立て替えてマンションにしようと思いよるんじゃけど。ぜーんぶフローリングにして、オートロックでエアコン入れて、家賃も十万くらいは取ろうと思うのよ」
あまりの衝撃発言にみんなが目を覚ました。急すぎるわっ!?
「ええええー!!ちょっと待ってくださいよっ!!そんなに払えんのじゃけど~」
「じゃあ悪いけど、ここ今週中に立ち退いてくれんかのう?」
「ん?・・・・えっ?」
シャーリー、さっき入って来た男性の名前だ。彼はインド人で一応この松田荘の住人だ。よく大家の松田と一緒に行動している。
「そ、そんなぁ~!?シャーリー君だって困るんじゃのうて?」
「ソレハイイデス。アキサンノコト、トテモアイシテマス」
「シャーリー~!!!愛してるぅ~!!!」
彼は片言の日本語で愛の告白をしていた。いや朝から何見せられてんの?
「何でそうなるの?」
「という訳だから。シャーリー、夕飯何にする?」
「アキサントクセイカレーガタベタイデス!!」
そう言って二人は幸せそうに部屋を出て行った。そしてしばらく黙った。
「うん・・・・うん・・・・ってな、なんてこったぁぁぁぁー!!!」
僕は思わず発狂してしまった。このアパートがマンションになるっ!?その話自体初めて聞いたんですけどっ!?もしそうなったら、もう家に住めなくなっちゃうじゃないかっ!?
「ど、どうしよう~!!数十万なんてそんな大金、払えないよっ!?」
流石の春香姉もこのことに関しては驚きを隠せなかったらしい。確かにそんな大金どこにあるんじゃぁぁぁぁー!!みんなもこの件を聞いて落ち着いてはいられなかった。
夏奈「本当に困ったわっ!!お母さんはしばらく出張だし、もしお母さんがこのことを知ったら・・・」
秋穂「しばらくは寝込むわね」
冬美&冬音「「やっ、やばぁぁぁぁいっ?!」」
突然の出来事にみんな慌てふためいた。そうお先真っ暗真っただ中なのだ。お金をどうやって手に入れるか考えていると、ピンポンッと呼び鈴が鳴る出した。ドアスコープを覗くとそこには二人の女の子が来ていた。も、もしかするとこれって・・・。春香姉は鍵を開け、扉を開くと
「おはようございます。黒季君とお付き合いをしている白沢愛菜という者です」
「私は宝華よ。あんたたち、朝からすごい騒がしかったけど何があったの?」
こんな最悪なタイミングに来るなんて、不幸だぁぁぁぁーっ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで今日は何の用で?」
「ちょっと彼を驚かせようと思いまして。しかし家が分からなかったので彼女に案内させてもらいました。あ、これつまらない物ですがどうぞ」
「なんて礼儀正しい娘なのっ!!わざわざ手土産も持って来てくれるなんて」
どうやら夏奈姉は絶賛感激中だっ!!夏奈姉ってキャラ変わった?!それはともかく、今はこんな状況を白沢に見せたくなかった。立ち退いてくれなんてそんな物騒な言葉、誰が聞きたいんだよっ!?
「事情は分かったわ。私にいい案があるの」
「いや、まだ何も話してないけど・・・」
「実は私、あの白沢財閥の令嬢なんです。なのでこのピンチを何とかしましょうっ!!」
そういえばお金持ちって言ってたな。なんだ?代わりに家賃を毎月払ってくれるのか?すると白沢はスマホを取り出して、どこかに電話を掛けた。うまく聞き取れなかったが、どうやら言葉からして親しい人と電話をしてるんだろう。そして電話をかけ終えて戻って来た。
「来週、面白いことになりますよっ!!」
「いや何が?」
彼女が何を吹き込んだかは分からなかったが、絶対裏があるな。しょうがないから来週まで待とうか。
「そういえばつかぬ事をお聞きしますが、左目はどうされたのですか?」
あれ、そういえば二人の左目、何故か白い眼帯がしてある。目でも腫れたのか?
「あぁ、これはちょっと色々ありまして、お恥ずかしながら、おできが出来てしまいました」
「そ、そうそう。私も目が腫れてしまって、病院で見てきたばかりなの」
うん、100%嘘だな、これ。僕の目はその人の嘘を見破ることが出来る。これは生まれつきこうなった。でもなんで嘘なんかついたんだ?でもあれ、確かそこの目には、石が入っていったよね。もしかして紋章を見られたくないとか。いや、それはないか。紋章は勝手に消えるし、そもそも隠す必要もないし。すると二人は僕の方を見て
「ちょっと黒季君とお話ししたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
と言い出した。すると夏奈姉は
「ぜんっぜん大丈夫ですよっ!!ゆっくりしてね」
と言って春香姉、秋穂、冬美、冬音を連れて外に出た。3人きりになったチャンスを見て、二人は眼帯を外した。するとお互い、片方の目の色が違っていたのだ。白沢は目が白く、宝華も目が青くなっていた。それに瞳が機械みたいになっている。でもオッドアイと間違えられそうだな。
「一体どうしたんだ?」
と尋ねてみると二人とも口を揃えて
「「実は・・・昨日から目がおかしくなっちゃったのっ!!」」
と答えた。・・・えっ?一体どうしたんだ?!
「実は昨日、キゲンデから帰った後、鏡を見てみたら目がこんな風になっていたのっ!!原因も分からなかったから、今日二人であなたに聞こうと思ったの」
「まさかそれが狙いか」
どうやら二人が来たのは、この目についてらしい。でも僕の目は何も変わってないけど。何でこの二人は変わってしまったんだ?僕も見たことがないし、そんな経験がないから対処法なんて分からないし。
「じゃあ、一度目を引っこ抜く?」
「あんた悪魔かっ!!目を抜き取ってどうするのよっ!?ちゃんと見えてるんだから、そんな物騒なこと言わないでよっ!!」
「それは冗談として・・・」
「冗談には聞こえなかったけど・・・」
この様子からして、絶対ピンチだな、彼女達にとっては。しかし眼帯か。なんか懐かしいな。僕も一時期中学生の頃に右目に眼帯を付けていたな。でも家族からダサいって言われたから今はしてないけど。だが今日、彼女達が眼帯をしてるのを見て、懐かしかった感情と封印してた思い出が蘇ったのだ。やっぱり眼帯ってかっこいいなあぁっ!!
「じゃあそのまま生活したら?異世界ではそんな奴たくさんおるし?」
驚きの提案に二人は驚いた。
「はあっ!!こんな目でどうやって学校に説明するのっ!?」
もちろん宝華は怒っていた。聞いてみただけなのに?
「私も・・・ちょっと恥ずかしいわ。なんか周りの人から変に思われない?」
ああ、なるほど。女子あるあるか。女子は見た目のことを気にするから、ちょっと恥ずかしいんだな。いやでもしょうがないじゃん。
「お前ら、そんな面倒くさいことを考えなくていいから、普通にしたら?」
「あんた何呑気なこと言ってるの!?こっちは大変な目にあったのに」
そんなことを言われても原因不明なんだからしょうがないじゃん。それにカラーコンタクトじゃないって言えば何とかなるかもしれんし。すると白沢が
「分かったわ。このまま学校で生活するわ」
と言い出し、宝華は焦っていた。
「ちょ、ちょっとっ!!何でこいつの言うこと、素直に聞いちゃってんのっ!?」
「これ以上話しても解決しないでしょっ!!確かにこれは駄目だけど、今はこれしか方法が無いから。だから宝華ちゃんもお願いっ!!」
と言って、白沢は宝華に頭を下げた。すると宝華も困ったのかしどろもどろになり始めた。
「ま、まあ、愛菜ちゃんがそう言うなら、してやらないって訳でもないけど・・・。ただし、勘違いはしないでよね。あんたじゃなくて、彼女のお願いだからやってあげるんだからね」
相変わらず素直じゃないが、白沢、フォローありがとう。とりあえず目の件はこれで終わりにするか。
「それと後にもう一つ。あの世界に連れてってもらえるかな?」
「はあぁ~!?」
白沢はもう一つ隠し持っていたのだ。もしかしてそっちが本題だったり?それにしても、あの世界に行きたがるな。最近の人間とはこういうものだろうか。最近、異世界系とかSF系が人気だけど。
「いや行くって言ったって、せっかく休みなんだから自由にさせてよ」
「いいから行きましょう。宝華ちゃんも行きたがってるし」
そう宝華の方を見ると、なんかソワソワしていた。こいつ、口車に乗せられたな。
「いいから行きましょよ。私、超楽しみなんですからっ!!」
「あのね、急に言われて”はい、そうしましょう”ってならないから」
「いいじゃんケチ。それに私達も強くなったほうがそっちも嬉しいでしょ?仲間が強くなってグレゴリー攻略も楽になるわ」
確かに一理ある。今のままでは勝てる確率が低い。ならあそこで強くしてもらった方が、今後のためにいいかもしれない。これはしょうがないか。
「分かった。連れてってやるから準備しとけよ」
「やったーっ!!ありがとう、ノワールっ!!」
「その呼び方はここではやめとけ」
そう言って奥からトランクケースを取り出した。二人は不思議がった。いつもなら黒い緞帳を出すはずなのに。
「このトランクケースは荷物を入れるだけじゃない。何とあの世界に通じるように改良したのだ。これでわざわざあのカーテンを出さなくとも自由にいけるわけだ」
すると二人は感激したのか
「「すっすごーいっ!!」」
と興奮していた。まあ驚くわな。僕は鍵を取り出して、トランクケースの鍵を開けた。そして開けてみるとそこにはあのカーテンと同じもやが出ていた。この中に入ればすぐひとっ飛びだ。
「それじゃあ行くか」
そう言って三人は中に入って行った。
・・・扉が開く音がした。それは玄関からだった。
「い、行った?一体どういうこと?」
最初に入って来たのは春香だった。すると後ろからぞろぞろと夏奈、秋穂、冬美、冬音がやって来た。何とみんな外に出た後、実は家の前で待機していたのだ。我が家の長男と美女二人が一体何をするのか確かめたかったからだ。つまりあの三人の会話を盗み聞きしていたのだ。しかし彼らが突然静まり返えったため、確認しに部屋の中に入ったのだ。そこはもぬけの殻だった。
春香「一体どこに消えたのよっ?!靴もあるし、窓も開いてないし」
秋穂「もしかして秘密のルートを使ったんじゃ。でもそれなら私達も気づくはずよね?」
冬美「黒季お兄ちゃん達が消えたーっ!!」
冬音「・・・消えた」
どうやらみんな当た目ふためいていた。しかしこの状況を冷静に見ている者もいた。夏奈だ。
「いや、彼は彼女達と一緒に別の世界に行ったんだわっ!!」
冷静ではなかった。その答えにみんな絶句していた。一体何を言ってるのだ?
春香「あんた、黒季が消えて頭おかしくなった?」
秋穂「お姉ちゃん、それは漫画の読みすぎだよ。よくお兄ちゃんの漫画読んでるけど、まさかそれに感化されちゃったわけ?」
冬美「あはははっ!!夏奈お姉ちゃん面白ーいっ!!」
冬音「・・・おかしい」
みんな彼女の様子を見て、困惑していた。しかし夏奈はそれに臆することなく自身気に説明した。
「まず黒季があの美人と付き合っているという噂からおかしかったのよ。あの女性に対して無頓着な彼が彼女を作るなんてありえないのよ。それにいつもなら知らない女性に対して素っ気ない態度を取るのに今年出会ったばかりの娘と親しく喋るなんて変じゃない?」
夏奈の答えに春香が釘をさした。
「別に友達を作るぐらい、高校ではよくあるじゃない?それをなに不思議がってんの?」
春香が反論するも夏奈は
「確かにそうかもしれない。しかーし、中学の時はそうした?」
そう言うとみんなあーっとなった。そういえば彼は親しい人以外は友達いなかったな。そう言われると少し納得する。さらに夏奈は話し続ける。
「また、白沢さんが彼みたいな娘を急に好きになるってこともおかしいわ。何せその噂を流したのは、紛れもない彼女自身よっ!!」
そう言うとみんな激しく動揺した。
秋穂「う~ん、つまりお兄ちゃんのことだから・・・彼女に脅されたとか?」
夏奈「その通りよっ!!白沢さんは黒季の秘密を何らかの方法で知って、その秘密を守る代わりに付き合ってるって噂を流したのよ」
春香「な、何ですってえぇぇーっ!!あいつ、そんなに大事な秘密を持ってるのか?!」
夏奈「その秘密は私にも分からないわ。でも必ず見つけて救ってみせるわっ!!じっちゃんの名にかけてっ!!」
秋穂「いや一体何のキャラ?」
これで彼の秘密は分かった。しかしその彼がどこにいるのかは分からない。なのでみんなでくまなく探すことにした。あやしい所を調べたが何も見つからなかった。すると夏奈があるものを見つけた。そう、かれのトランクケースだ。
夏奈「みなさん、このトランクケースを見てください。妙ではありませんか?こんな所にこんな物があるなんて」
春香「言われてみればそうだな」
夏奈「ですのでこのトランクケースを開けてみようと思います」
秋穂「だから何のキャラ?」
そう言ってトランクケースを開けてみるとそこには黒いもやが出ていた。これを見て、みんな驚いた。
春香「まさかこんなトランクケースにこんなものがあるなんて」
夏奈「きっとこれは私たちの知らない何か。でも彼はこの先にいるはず」
秋穂「何か怖いけどつい確かめたくなっちゃう」
冬美「何か怖ーい」
冬音「・・・怖い・・・うわっ!!」
すると冬音が滑って中に入ってしまった。冬音の体は徐々に沈んでいった。それを助けようとした彼女達も黒いもやにどんどん引きずりこんでやがてみんなすっぽりと入ってしまった。
一同「「「「「うわあああああっ!!!!!」」」」」
周りが暗い中、しばらく沈んでいくと急に明るくなった。そしてある床に倒れこんでしまった。
夏奈「う~、痛たたたた~ってここはどこ?」
秋穂「はあ~はあ~はあ~ってうわっ!!ここ家じゃないっ!!」
春香「ちょ、ちょっと~!!ここは・・・ってどこおおおおーっ!!」
冬美「うわー!!何かすごそうな所っ!!」
冬音「・・・すごい場所」
五人は辺りを見渡して驚愕していた。ここは家の景色でもなく、そもそも知ってる景色ではないからだ。壁は黒く高いし、扉も数十個あるし。ここは一体どこなんだっ?!
夏奈「それよりも黒季を探しましょうよ」
夏奈がそう言うとみんな立ち上がって探すことにした。しかしどの扉を開けても彼は見つからず、長い廊下を永遠に歩き続けた。やがて疲れたのか、何もない所へ休憩している時だった。何もなかった壁から線が引き始めて、やがてそれはある絵を作っていた。そう扉だ。線は扉の絵を作っていたのだ。そして完成したのか、今度は色が付き始めて、壁から扉が浮かび上がって来た。それにしても大きく立派な扉だ。きっこの中に黒季がいるに違いない。夏奈はノックをしてみるも返答は無かった。なのでドアノブを引っ張ろうとしても重いせいかビクともしなかった。なので強行突破で扉を突き破ろうとした。春香は置いてあった机を持ち上げ、夏奈と秋穂は一緒に体を使って扉を押し開けようとした。冬美と冬音も微力ながら必死に扉を押していた。そして何度かトライしてると急に開き始めてみんな倒れこんでしまった。そして顔を見上げるとそこには
「夏奈姉達、何してるの?」
そうそこには当の本人、黒季が立っていたのだ。黒木はみんなを起こしたが夏奈は彼の肩を掴んで
「ねえ、あの娘達に何か酷いことされなかった?いまお姉ちゃんが助けに来たからね」
と言い出した。何言ってんだこの人?夏奈姉がおかしな人なのは元々知っていたが、一体どういう状況なんだ。ていうかどうやってここへ来たんだっ!?あ、まさかあのトランクケースを使って入って来たんじゃ・・・またしくじったぁぁぁぁーっ!!すると奥から白沢と宝華もやって来て
「あれ?黒季君のお姉さんと妹さんたちだ。またお会いしましたね」
と挨拶をした。すると夏奈姉がいきなり
「あなたがうちの黒季を弄んだ娘ねっ!!私が来たからには私が相手になるわっ!!覚悟しなっ!!」
と言い出した。いやだから一体誰なんだっ!?ていうか何、このカオスっ!!頭が混乱してきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「本っ当に申し訳ございませんでした」
閑話休題。今夏奈姉が土下座をして謝っていた。まあ、誤解が解けたからいいけど。しかしついに姉さんや妹もこの世界にやって来たか。これは予想外だ。
「まあ夏奈姉。そんなに怒ってないから安心して。秘密にした僕が悪かったって」
「ほんとよっ!!こんな場所があるなら、真っ先に長女の私に教えても良かったんじゃないっ!!」
春香姉は怒っていた。まあそうか。家族で秘密ごとはなしって言ってたもんね。ほんとすみません。するとワゴンが突然やって来た。その上にはポット、人数分のカップ、砂糖とミルクの入った瓶が乗っていた。するとポットが動き出し喋り始めた。
「みんな、一旦お茶でも飲んで落ち着いたらどうですか?」
と言ってカップにお茶を注ぎ始めた。もちろんみんな驚いていた。動く食器なんて見たことがないからね・・・って当たり前か。では紹介しよう。このポットの名前は”ミセス・サドラー”。僕が小さい頃に作ったモンスターだ。ポットに魂を吹き込んだだけのモンスターだが、彼女のおかげでお茶を入れる手間が省けるのはいい点だ。それに勝手にお茶を入れてくれるし。
サドラー「お砂糖とミルクはどうされますか?」
白沢「私は両方」
宝華「私はミルクだけ」
春香「私は砂糖だけ」
夏奈「じゃあ、私は両方」
秋穂「私はなしで」
冬美&冬音「両方」
黒季「僕も両方で増々で」
そう伝えると砂糖とミルクの瓶が要望通りに砂糖やミルクを入れ、カップはその人の所へ向かっていった。やっぱり彼女のお茶は何かしみる。すると僕のカップが突然動き出して
「ねえねえノワール様。今から面白いものを見せるね」
と言って息を深く吸って泡を噴き出していた。この子の名前は”ロップ”。カップに魂を入れたモンスターでミセス・サドラーの子供という設定にしてある。この子も小さい頃に作ったモンスターだ。
「ロップっ!!」
「へへへへ」
どうやら怒られたな。しかしそこが可愛い所でもあるんだけど。
「しかしよく人数分用意出来たな?」
「ノワール様のゴーストが教えてくれたのです。お客様が来たって伝えてくれたわ」
さすが僕のゴースト達!!小さい頃からずっと一緒にいたけど、やっぱり優秀だ。どんな時にもすぐ駆けつけてくれるし、大事なことも教えてくれるし。多分人間よりも優秀だと思う。しばらくお茶を飲んだ後、僕は今までのことを姉さんと妹に打ち明けた。すると姉さんたちは
春香「何でそんな大事なことを教えてくれなかったの。私達は家族なんだから、相談しても良かったのに」
夏奈「私はあなたがどんな風にあっても絶対助けるし、あなたが人間じゃなくても私は信じるわ。だって大事な弟だから」
と励ましてくれた。さらに妹達からも
秋穂「別にそんなことを話しても嫌ったりはしないわ。こう見えて、実は心配してるんだから」
冬美「そんな昔があっても、私は黒季お兄ちゃんが大好きだからっ!!」
冬音「・・・にぃに、好き」
と励ましてくれた。何かこう家族に言うと心がすっきりするな。やっぱり隠し事はだめだ。でも秘密を知った以上はただでは帰させない。それがこのノワールファミリーのルールだ。なので収納魔法を使ってあるものを取り出した。それは白沢や宝華にも与えた石だ。それに今度は三つも出した。
「とりあえずこれはお詫びのしるしとして受け取ってほしいんですけど・・・」
と言って石を彼女達に差し出した。すると彼女達は何かに引きつられるように腕を伸ばし取って行った。春香姉は紫の石、夏奈姉は黄色い石、秋穂は緑の石を渡した。末っ子の分はなかった。しかしこれで仲間が増えると嬉しいが、まさか家族を巻き込むとは思わなかった。しかし、これも運命なのだろうか?ちょっと面白くなってきた。
「ねえ、この石何なの?色がついて綺麗だけど」
春香姉が疑ってきたが、ここは
「まあ、いい石を見つけて来たから、みんなにあげようと思ってね」
とごまかした。春香姉はさらに疑い出したがそれ以上は言っても無駄だったのか、質問をするのをやめた。すると冬音と冬美が
「黒季お兄ちゃんっ私もあの石ほしい~っ!!」
「・・・ほしい」
とごねて来た。しょうがない、二人には別の石を買ってあげるか。こうして姉さんと妹を仲間にしたわけだが、この時はまだ三人は気づいてなかった。まさかあんなことが起こるなどと・・・。




