白沢=面倒くさい生き物だった
「みんな、気分はどうだ?」
誰かが話しかけて来た。目の前は真っ暗だが、かすかに声が聞こえた。どうやら目をつぶっているらしい。まぶたが重く感じたが、精一杯開けようとした。するとそこは真っ暗な世界から明るい世界へと変わっていった。体はあまり動けないが、首だけは動かせた。辺りを見てみると、どうやらギャッジベッドの上に寝ていた。どうやらここは医務室らしい。私、ウェヌスは患者衣を着ていた。隣にはメリウスが寝ていた。真正面にはカメルが食事をしていた。その横に座っていたのがブラッドだ。
「いやぁ~すまんっ!!こないなことになってしまってっ!!」
「それ以上言うな。とにかくみんな無事ならそれでいい」
「けど、あん時助けてもらわへんかったら、死ぬとこやったで~」
「構うな。あの時助けてくれたから、その時のお返しだ」
「ブラッドはん。ほんまにありがとなっ!!あの二人も助けたり、ほんまに最高の共やっ!!」
「あの時助けてくれてぇ~ありがとうございますぅ~」
どうやらメリウスも目覚めたらしい。どうやら私達、3人はブラッドに助けられたらしい。それにしてもよく回収出来たな。あの男が見逃すことなんてあるのか?とにかく、あの男は危険な存在だということがよく分かった。ブラッドはよく助かったな。
「それよりウェヌス、メリウス。実際どうだった、戦ってみて」
「ああ、話した通りの男だ。あんな奴見たことがない」
「私もですぅ~。私の最強技を攻略されて悔しいですぅ~。おまけにこんな姿にさせてぇ~許さないですぅ~」
メリウスは体中包帯でグルグル巻きになっていて、眠そうな表情に戻りながらも、怒りをあらわにしていた。あれほど屈辱を受けたのは初めてだ。
「しかしぃ~私が気に食わなかったのはぁ~あの女ですぅ~」
あの男もそうだが、メリウスが気に食わなかったのは白沢の方らしい。
「ん、何だ?あの銀髪のエルフのことか?」
「銀髪のエルフぅ~?誰ですかぁ~?私が戦ったのは黒い男と白い女ですぅ~」
「何だとっ!?ほかにも仲間がいたのか。しかし、白い女とは誰だ?そんな女、見たことがない」
ブラッドは当時の彼らのことしかしらなかったため、白沢の存在を知らなかった。むしろ、新たな仲間を増やしていることに衝撃を受けた。もしかすると、本気で組織を潰す気なのかっ!?
「その銀髪のエルフやけど、わいと戦ったで」
「何だとっ!?」
「そのエルフ、わいが超かっこいい姿になっても倒すことが出来んかった」
「なるほど、どうやら相手も強くなったな」
ノワールファミリーはこれから先もどんどん強くなっていくだろうと、ブラッドは思った。となると、こちらも強化と警戒しなくては。するとスマホが鳴り出した。「?.?.?」と出て来たので、発信者は分からない。ブラッドは電話を取ると
「誰だ?」
『やあ、みんなご無事で』
と話しかけて来た。どうやら相手はあの方と呼ばれる者だった。
「これは失礼しました」
『いやいや、あの訳の分からん名前だから警戒するのは仕方がないよ。ある事情であの名前にしてたから』
「はっ、以後気を付けます。ところでどういったご用件で?」
『いやー、みんなちゃんと生きてるかなって確認しにきただけだよ』
あの方と呼ばれる者はどうやらみんなの状況を心配してたらしい。命令したのは自分だからっと言って、気にかけてたのだ。
「みんな大けがをしましたが、無事に元気です」
『良かった。君にまかせて正解だったよ。ありがとね』
「お褒めの言葉、光栄です」
実はあの方はブラッドに至急要請したのだ。3人が無事に救出できたのは、ブラッドとそれを指示したあの方のおかげであった。すると、ウェヌスがスマホを横取りしてきた。
「どういうことですか」
『あれ?寝なくて大丈夫なの?』
「大丈夫です。それより聞いてた話と全然違っていたのですが、どういうことですか?」
ウェヌスはあの方に責めていた。どうやら聞いてた話と違ってたらしく、納得してなかったらしい。
『間違ってないよ。ただの君の計算違いだよ。僕はあの連中に気を付けてっと言っただけだよ。それを勝手に解釈したのは君だよ』
「く・・・」
正論を言われて黙ってしまい、彼女はそのままベッドに戻ってしまった。スマホはブラッドに返した。
『そういえば、例の彼女たちはどうしたの?』
「確認した所、全員いなくなっていました。おそらく、例の奴らが奪っていったのかと」
『そっかー。せっかくたくさん手に入れたのに。まあ、次頑張ろう』
「申し訳ございません」
ブラッドはあの方に謝っていた。いつもであれば、人質を敵国へ売って金儲けをしようとした。しかし大事な金づるがいなくなっては売ることが出来ない。これは大きな損害だった。
「そういえば、例のスライムと謎の白い女がいたという話も聞きました」
『・・・へー』
「このままでは奴らにいつか責められてしまいます。何としてでも我々の計画を遂行しなくてはいけません」
『分かってるよ。今回で奴らがどれだけこのグレゴリーにとって脅威になるか分かったよ。それを踏まえて今後も集めていけばいい。今回のことも決して無駄なことじゃないと思ってるよ。いざとなれば、日光将軍を送ればいいし。さあ、我々の目的を叶えるために次も頑張ろうじゃないかっ!!!』
そう言って、電話を切った。するとカメルが
「やられっぱなしはもういややで。次こそは絶対勝ってやる!!」
と言い出した。するとメリウスも
「あの女、絶対倒すですぅ~!!」
と宣言した。ウェヌスも
「次こそは必ずあの男に勝つ!!」
と言い出した。どうやら、今回の件がそうとう応えたらしい。これでみんながやる気になってくれればいいが。
「あれっ、ブラッドはんどこにいくの?」
「少々野暮用が出来た。お前達はゆっくり休め」
ブラッドはカメル達を後にして部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっとここはどこ?」
その頃、黒季は白沢を本拠地である暗黒の魔城に連れて行った。宝華やほかの女性はみんなひとまず部屋に入れておいた。ここなら安全だろう。問題なのは白沢のほうだった。彼女にとっては初めましてだし、ここには人間がほとんどいない。こんな環境で大丈夫かな?しかし、僕の不安は一瞬でかき消された。
「なにこれっ!!すごいすごいっ!!こんな城があったなんて」
不安がるどころかめちゃくちゃ楽しんでた。まあ、彼女の本性を見てしまったから、恐らくこれが素なんだろう。モンスター達とも打ち解けられてるし。でもここで友好的関係が出来るのは彼女の良さかもしれない。そこへアインスがやって来て
「彼女は何者なの?それにあの能力は何だったの?」
と聞いてきた。僕はみんなにいままでのことを全て話した。彼女達も納得してくれたようで良かった。ただし、あまり急いでいたので説明してなかったのは申し訳なかった。すると白沢が急にやって来て
「何の話をしてるの?私、白沢愛菜。彼とは同級生で隣の席にいるわ。よろしく」
とアインスの手を掴んで握手をした。握手し終えると、今度はみんなに握手を」した。ほとんどはただ唖然としていたけど。
「なかなかの人を仲間にいれましたね」
とフェリカは驚いてた。僕も正直今でも驚いてるけど。
「でも幹部を倒したっていうならば、そうとうの実力をもっていますよ。これは我々にとっては利になるかもしれません」
とドリィは言ってきた。確かに幹部を倒したという実績がある以上、彼女を引き入れない理由はない。今夜限りの約束だったが、彼女には悪いがこの中に入れてもらうしか・・・。
「いいよ。何だか楽しかったし」
いや、早すぎるし、ノリ軽っ!!あっさり仲間に入っちゃったし。僕や彼女達、みんな固まってしまった。やはり人間というのはよく分からない。
「聞いてきたんだけど、アインスちゃんって私と同い年なんだってっ!!じゃあ、これからはアイちゃんって呼んでいい?」
「え、えっと・・・別に構わないわ」
「やったーっ!!これからもよろしくね、アイちゃん!!」
白沢のあまりの行動力にはアインスも困っていた。それに対し、フィアは
「う~なんなんですか、急に馴れ馴れしく・・・」
「あら?何か犬の女の子がいる。ほーら、よしよしよしっ」
「あ、あごはだめですう~。頭も背中も尻尾も~。なっ!!お腹はだめですっ!!」
「可愛いーっ!ほらほら、もっと可愛がってあ・げ・る!!」
「い、いやっ!!そこだめ~!!う~わわんわんっ」
「良く出来ました。えらいえらい」
・・・何見させてんだろう、僕達。何か急にエロい雰囲気になってるし。しかも犬って人間に撫でられるとああなるんだ。ペットの犬ってこんな感じかな?考えたくないな。しかし、あのフィアを手懐けるとは、彼女なかなかやるな。でも一つだけ分かったことがある・・・彼女に獣人族を近づけてはいけないと。何か問題を起こしそうだから。
「あー楽しかった。ほかにもこの娘みたいな人がおるの?」
「え、えっとーまあいない訳じゃない」
「ほんとっ!!じゃあ今度会わせてっ!!」
「検討しとくよ・・・やりすぎないように」
白沢の重圧に思わず潰されそうになった。仲間にする人、間違えたかな?とりあえず、僕たちは”漆黒の間”という所へ行った。この部屋は僕がいつもみんなを集めている部屋で最近名付けた。部屋に入るとファザー、マザー、アズモデウズ、イザナギ、モルドレッド、数多くのモンスターやゴースト達が出迎えていた。
「おかえりなさい、ノワール・・・」
「ただいま、マザー。なんか素っ気ないけど大丈夫?」
「だって・・・あなたが全然帰ってこないから心配してたのっ!」
「あーね。最近忙しいから」
どうやらマザーは僕が全然帰ってこなかったことを心配してたのだ。なんか申し訳ないな。でも学校があるのは事実だし。それより紹介したい人がいるんだった・・・ってあれ?いつの間にかいなくなった。あの人、自由過ぎないっ!?しばらく探してると、白沢はイザナギの方にいた。
「ねえねえ、その馬って本物なのっ?」
「ああ、この愛馬”イザナミ”はノワール様が作ってくれたのだ」
「あ、よく見ると体と一体化してるんだね。これならわざわざ馬を乗り降りしなくても済むね」
「ああ、便利だぞ、これは・・・」
「あれ、あなたはとても大きいね」
「我はモルドレッド。ノワール様によって・・・」
「ねえねえ、この翼って飛べるの?どうやって戦うの?どうやってご飯食べてるの?」
「な、こんなに質問責めされるとは・・・えっとどれから答えればいいんだ」
なんかあの二人にすごい迷惑をかけてるな。彼女がこれまで好奇心旺盛だったとはちょっと引くレベルだ。でも能力も魔力も与えちゃったし、今更引き返すことも出来ないしな。
「ねえねえ君はどうして顔を隠してるの?」
「何だ君は。私に近づくな」
今度はアズモデウズのほうに駆け寄った。
「え~いいじゃん、ケチ」
「な、この女っ!」
「そこまでだ、二人とも。君はこっちだ」
僕は無理やり白沢の襟を引っ張り出して椅子の方に移動した。僕は椅子に座るとみんなこっちに向き出した。
「久しぶりだな、みんな。まだここに来てない者もいるが、そこは許してくれ。それより、今日はみんな知っての通り、新たな仲間を迎えた。その名は白沢愛菜、またの名をブランと言う」
すると、スポットライトが突然白沢の方に光り出した。白沢は驚き、辺りを見てみるとみんなが一斉にこっちを見てきたので、何だか恥ずかしくなってしまった。すると、
「はーい、私はブラン。この娘のシャドウよ。みーんなっ、よろしくねっ!!」
「ブランって何だ?」
「私の偽名。あなたのノワールと同じよ」
「まあ何でもいいけど・・・」
ブランって自分で名乗っちゃってるし。まあ実名を明かされるよりかはましか。ブランはみんなに向かって手を振った。ここのモンスターやゴーストはノリがいいのか、みんなはしゃいだり、拍手をして歓迎してくれた。元々の性格がいいのか、みんな反対することなく快く迎えてくれた。もしかすると、彼女は想像以上に強くなるかもしれない。もしそうなると、こちらとしては嬉しいばかりだ。この調子であと8人の人間を集めないといけない。何しろ、石はまだ8つもある。もし白沢みたいにこの石によって選ばれる人がおるならば、奴らよりも先に仲間に入れたい。これはしばらくここには戻ってこられないな。
「それともう一つ。僕はこれから新たな仲間を探しに行ってくる。もしかすると彼女みたいにより強い人間がおるかもしれないからだ。ここにはしばらく戻っては来られないけど、それまでは君達が頑張ってくれっ!!」
その一言でみんな盛り上がった。マザーには申し訳ないけど、しばらく地球を楽しみたいと思います。しかし、8人を見つけるのは至難の業だろう。だからこそ、彼女たちやモンスター、ゴースト達にも協力しないといけなくなるかもしれない。隣ではブランが会場をヒートアップさせていた。
「そういえば彼女達って組織名がないよね?だったら私が名付けようか?例えば、”十黒”なんてどう?」
「な、私たちの団体名まで付けてくれるの⁉」
「いいの、いいの。私たちは仲間になった訳だし、この際だし名前も付けちゃおうよっ!!」
何か名前まで付けて盛り上がってるし。しかし、彼女達の組織名はまだ無かったよな。この際だし、ここは彼女に任せるか。
「じゃあ、今日は紹介も済んだし、今日はこの辺で終わりにしよう」
「え~っ、私はまだ楽しみたいのにぃ~。もっとここにいさせてよ」
「やっぱり自由過ぎない?」
しばらくこのままにしておくことにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらくして、僕は白沢をある部屋に連れて行った。あることを確認するために。
「こんな誰もいないくらい部屋で二人っきり、何をされるのかしら?」
「何でうきうきしてるんだ?」
「もう、いけずっ!」
ブランはからかった。それでも気にせず彼女のほうに攻め寄った。
「えっ、ちょ、ちょっとっ!!何々っ、近いわよ。何をする気っ⁉」
「ちょっと左目を見せて」
「へっ?」
白沢は訳が分からなくなってしまった。なんで左目を見せないといけないの?そこに何があるの?自身も気になったので仕方なく
「わ、分かった。出来るだけ優しくやってね」
「何、痛みは一瞬だしちょっとくすぐったいだけだ」
黒季はすぐさま白沢の左目を確認した。すると思った通りだった。左の眼に黒く光る変わった紋章が映っていた。やはり、これは僕が作ったノワールファミリーの紋章だ。丸を中心にジャドラの羽などきみの悪い紋章が描かれている。何かかっこよさそうと思った。
「そ、そんなに顔を近づけると・・・なんか・・・恥ずかしいよ~」
「えっ?あー、ごめんっ!」
何か顔も赤かったし、照れくさそうに見えたからどうしたんだろうと思ったら、顔近かったね。それはすまないことをした。
「あー、そのー、とりあえずこれで顔を見てほしい」
そう言って取り出したのは、手鏡だった。白沢は素直に受け取って、自分の顔を見た。
「・・・?特に変わったところはないけど」
「顔というより左目を見てほしい。何か映ってないか?」
「・・・?そういえば、何かマークがあるような・・・ってええええっ!!」
白沢は驚愕した。そりゃそうか、左目に得体の知れない何かがあるからな。これで本人が拒絶しなければいいけど。
「嘘っ!?ちょーかっこいいっ!!」
「はへ?」
彼女は戸惑うどころかテンションが高くなっていた。あっれー?
「だって何か特別感があるよね。何か不思議な力が湧いて来た系とか?何かが体に憑りついた系とか?」
あっれれー?彼女ってこういう人だっけ?いや、本心があれだから反映されてるんか、いや学校と違いすぎだろっ!彼女ってこういう系って興味あったのか?
「あのー、それは仲間の紋章なんだけど・・・」
「えっ?」
しょうがないから、こちらから話を振った。彼女のペースでは脱線してしまうからな。これで彼女も少しは落ち着いてくれるだろうか?
「へー、これって仲間の証なんだ。つまり、私はあなたの仲間になったってこと?」
「正確には僕の部下。僕に逆らうことは出来ないし、仲間を裏切ることも出来ない。代わりに強い魔力を君にあげたからね」
実はあの魔力には、力を与える代わりにノワールの仲間に強制的になる力がある。ノワールが作ったもので、絶対に裏切らない仲間がほしいと思った時に、”創造術”で作ったものだ。おかげで誰も裏切ることはないし、僕の命令にもちゃんと聞いてくれてる。ちょっと強引だけど。それに能力自身には意思があり、その能力がその人、適合者を選んでいるのだ。
「なるほど、つまり私はこの能力によってこんなことになってしまったのね?」
白沢もようやく理解してくれた。彼女を解放してあげてもいいがグレゴリーに目をつけられた以上、永遠に追いかけるだろう。そのたびに事件に巻き込まれるかもしれない。
「だから、君を自由に・・・」
「あら、私は全然大丈夫だけど」
「のへ?」
案外あっさりとしていあ。逆に何で?
「だってあのまま敷かれたレールを歩くより、脱線したルートを通る方が楽しいに決まってるから」
「えーっ!何かすごいこと言ってるけど、何か怖くなってきた」
「そもそもこうなったのはあなたのせいなんだから・・・」
白沢は僕の耳元に駆け寄って小声で
「だから、ちゃんと責任とりなさいよ」
と囁いた。なに彼女に振り回されてるんだ。ちゃんとしろっ、僕!
「とっとと帰れっ!」
「ひどいっ、せっかく異世界に来たのにもうちょっと楽しみたかった」
「もうお前とは関わらないようにする。これで最後だ」
「ちょ、ちょっとっ!」
そう言って黒い緞帳を出現させ、彼女を蹴飛ばして中に入れた。これでもう大丈夫だ。て記憶を抜けば良かった。まあ、明日彼女から記憶を消しておけばそれで十分だ。しかしどうやって白沢の頭から記憶を消させよう?僕は一晩中そのことだけを考えた。




