実は彼女、最強でした?
『もうあっちも終わったころだな』
その頃、ノワールこと色田黒季は金怪将軍のウェヌスと交戦中だった。同じくブランこと白沢愛菜も水魔将軍のメリウスと戦っていた。両者一歩も引かない戦いにこの場所の空気は緊迫していた。
『君ってなかなかやるね。剣のそのひと振りがなかなか重たいね』
「そういう貴様もなかなかの足だな。この私の攻撃が一歩も届かないなんて。なんて反射神経だ」
『僕、足だけは人一倍なんで。だからもっと本気を出していいよ」
「調子に乗りやがって。いいだろう、望み通り本気というものを出してやろう!」
ウェヌスは一旦剣を降ろした。するとウェヌスは何やら呪文を唱え始めた。どうやら、能力を向上させる呪文らしい。唱え終え、再び剣を構えた。
「今度はこちらから行くぞっ!!」
そう言うと今度は素早く襲ってきた。どうやら、速さも向上したらしい。流石に避けずらかったので、鍔迫り合いになった。しかし、これでも彼には容易く受け止めやすかった。それからどんどん剣を振りかざすも、全て受け流していた。いくら能力が上がっても、元々の力に差がありすぎるし、それに剣の一撃もさっきと同じだった。僕はその威力の加減を死ぬほど見て来た。何せ、あのファザーから学んだからな。てかこれ、前にも話さなかったっけ?まあええわ。とにかくこっちはしばらく大丈夫だろう。本題はあっちだ。今、白沢とメリウスが戦ってるけど白沢は今ピンチ状態だ。本当に大丈夫かな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『もう、こんな攻撃ばかりして、鬱陶しいよっ!!』
「まだまだいきますよ、”激流放スパイラル・キャノン”」
どうやら苦戦中らしい。水の噴射攻撃をずっとしてくるから近づこうもなかなか近づけられないらしい。おまけに水が追尾してくるので、障害物を避けながらかわしてるらしい。このままでは負けてしまう。でも水が邪魔でなかなか攻撃も出来ない。
『た、助けてくださいよぉ~』
『今はこっちも忙しいんだ。何とか持ちこたえてくれ』
『そんなこと言われても、水が邪魔で・・・あばばばっ!』
どうやら水攻撃を喰らったらしい。しょうがない、たすけ船を送ろうか。水場なのに船は無いけど。
『ジャラゴン、出てこいやーっ!!』
すると背中からジャラゴンが出て来た。ジャラゴンは目の当たりの状況が理解出来なかった。
「ちょっ、ちょっとっ!どうなってんのっ⁉」
『説明は後。今は彼女のフォローをっ!』
僕は指から魔力の糸を出して、彼女に突き刺した。
「一体全体どうなってんだっ!!」
『あの水を浴び続けている彼女を助けてあげてっ!!』
現在、彼女は変わらず水を浴び続けている。なんか可哀そうになってきた。
「分かったよ、とりあえず助けますよっ」
ジャラゴンは急いで彼女の所へ飛んで行った。その頃白沢は、と言うと。
「さあ、降伏しなさい。さもないとあなたを溺死させますよ」
『溺死なんていやぁ~っ!!いくらヘルメットを被っても水が入ってくるからもうやめてぇ~』
すると、白沢はそのまま滑って倒れこんでしまった。絶体絶命の時、何かがこちらへ飛んできたのだった。何かドラゴンのおもちゃみたいだけど。ジャラゴンは白沢ではなく、メリウスのほうに飛んで行った。
「おいこら、やめんか」
とジャラゴンはメリウスを叩きかけた。メリウスは腕でガードをしたため、水は勢いが無くなりやがて落ちて行った。やがてメリウスは滑って、壁に頭を打って倒れていった。その隙にジャラゴンは白沢のほうに駆け寄った。
『あなた、誰なの?』
「ああ、初めましてだったね。我はジャラゴン、彼に仕える者だ。よろしくね」
『あ、初めまして。あとありがとうございました』
「礼なら彼に行って」
ジャラゴンが彼女を起こした直後、ザバーンッと音がした。メリウスが立ち上がったのだ。
「よくもやってくれましたね。もう手加減は致しません。”激流放”」
どうやらカンカンに怒っているらしい。水噴射は二人に目掛けて発射した。白沢は驚いて動けなくなってしまったが、ジャラゴンが横から引っ張ってくれたため、喰らわずに済んだ。
「危ないなーもう。我がアイツを食い止めるから、その隙に態勢を整えて!!」
『はっはい、分かりましたって、あれ?何だか体が熱い・・・?力が込みあがってくる⁈』
何かいつもと違う、経験したことがない感じだ。そういえば腕に何か黒い物が刺さっているし。これは一体何なんだ?
「ひ~っ!!もう死ぬ~っ!!」
その頃、ジャラゴンはメリウスの水攻撃に苦戦していた。前後ろ、上下、右左、斜めから水が来るので休む時間がないのだ。
「おいっ、そっちは終わったかっ!!なら、こっちを手伝ってくれっ~!!」
ジャラゴンは白沢に助けを求めた。白沢は急いで駆けつけようとするも、急に頭に頭痛がしてきた。
『そろそろ、交代か』
何者かが白沢の頭に伝えて来た。
『え、何っ?』
と白沢が問いかけるも、すぐ目の前が真っ暗になって、立ったまま固まってしまった。それを見たメリウスは
「んん、何だかよく分からないけど今がチャンスですわっ!!」
と白沢に目掛けて水攻撃をしてきた。ジャラゴンは水の塊に閉じ込められて、出られなくなっていた。
「やばいっ、早くしないとっ!!」
しかし、メリウスは段々と白沢に近づいてきた。そして、近くに来た所で
「さあ、死になさい。”鮫地獄”」
と唱えた。鮫地獄、この技は鮫の形をした水を放つ技である。見た目はもちろん、牙も噛む力も鮫そのものだ。つまり、噛まれると腕がもぎ取られる威力を持っているということだ。水の鮫は白沢に目掛けて飛んでいる。
「く、くそー。あいつを守るよう言われたのにっ!!」
「ふふ、ではごきげんよう」
あと数センチまで届いた時、白沢は急に消えた。やがて、水の鮫は壁にぶつかってただの水に戻った。それよりも当の本人がいなくなったことに二人は驚いた。あの状況下でどうやって移動したのか、どこに行ったのか、二人は検討も付かなかった。辺りを見渡すも彼女の姿は見えなかった。すると、別の場所からチャポンッと音がした。振り向くもやっぱりいなかった。
『ここだよ。あなた達の目の前にいるわ』
二人は驚いて、前を向くとそこには、白沢が立っていたのだった。
「ど、どうして・・・?あなたは動いてなかったのに」
メリウスはひどく混乱していた。まあ、急に人がいなくなるから、そりゃ驚くか。すると白沢は淡々と全てを話してくれた。
『私も何だか分からないけどさっき気づいたわ。それは私の能力、”閃光術”の力のおかげよ』
何っ⁉ヒカリマクリ⁉さっきから訳の分からないことを言ってきたので、二人はさらに混乱した。
『ああ、もちろん混乱するわよね。じゃあ、簡単に説明するね。この閃光術、これは彼が作った力なんだってね。ここまで理解できた?』
「あ、ああ。大体分かった」
「私も何となく分かりました」
それでも二人はポカンッとしていた。雰囲気がさっきの彼女と違っていたからだ。前はおどおどしていたのに、今は堂々として自信満々な雰囲気を感じた。これがこの娘の本心なのか?
『さて、説明も終わりましたし、続きを始めましょう』
「く、魔力の量もさっきと全然違う。こうなったら徹底的に潰すだけ」
メリウスは鮫地獄の強化版、”大量鮫地獄を唱えた。この技は鮫地獄を大量に出してくる危険な技だ。大量の水の鮫が襲い掛かってくるも、またもや消えてしまった。
「どこに逃げたのっ?」
戸惑うメリウスに
『今、あなたの後ろ』
と声がした。振り返ってみると、案の定、彼女がおった。
「あなた、一体どうやってここに来たの?」
『あ、言い忘れてたね。この能力は光を自在に操ることが出来てね、私の体を光の分子に変えて瞬時にあなたの後ろに移動したのよ!』
これで原因が分かった。閃光術とはこういう能力だったのか。光を駆使して相手を惑わせ、光のように速く動くことも出来る。まるで自身が光になったみたいな能力だ。
「あの男、こうなることが分かって自分の魔力を与えたのか?」
ジャラゴンはようやく理解した。きっと彼が作ったオリジナル能力だな。そんなふざけた能力聞いたことがないからな。でも戦闘向きの能力であるということは間違いない。
『さて、ネタバラシも終わったし、そろそろ続きを始めるか』
「く、なかなかやりますね。あなたを油断するのは気を付けたほうがよろしいですね」
『ふふふっ、せっかく面白い能力を手に入れたんだから、もうちょっと遊び相手になってね』
「言われずとも、あなたより強いってことを証明してみせます」
こうして再び白沢VSメリウスの戦いが始まったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ほう、あっちは結構楽しんでいるようだね』
「なんだと?」
『嘘だと思うなら見てみれば?』
その頃、ノワールとウェヌスはあの二人の光景を見ていたのだ。やっと彼女に届けてくれたか。もうちょっと掛かるかもと思ったけど、覚醒してくれたから結果オーライだ。さて、後はあっちでうまく対処してくれるだろう。こっちも頑張らないとな。
「貴様、何故あの女に肩入れする?あの女がそんなに大事か?」
『う~ん、よく分かんないけど、つい出来心?っていうか性っていうか?』
なんだこいつっ⁈こんな奴、今までに見たことがないぞ。ウェヌスは困惑するも、剣を再び構えて態勢を整えた。こんな奴ごときに手間を取る訳にはいかなかった。しかし、実際に戦って彼がなかなかの強者だということも分かって来た。だからこそ、あの方はいつも警戒していたのか。
(黒いスライムに気を付けてね!!)
もしかするとこいつが例のスライムなのかっ⁉
『ん?どうしたんだ、急に固まって』
『・・・!いや、問題ない。早くかかってこい』
彼に声を掛けられて、急に我に振り返った。くだらないことを考えて、戦いに挑むのは危険行為だ。ウェヌスは再び強化魔法を唱えて、剣を交えた。しかし、今度は力が入っていないせいか、いとも簡単に押し倒した。剣を持とうとするも、手が震えてまともに持てなかった。
(何故私がこんな奴に・・・違う、決して怖がっている訳じゃない。私は・・・私は・・・)
ウェヌスは自分の気持ちを押し込んで剣を捨てた。彼女がいきなり剣を捨てたことに対して、僕は不思議がった。
『何故剣を捨てる?』
「剣だから私は勝てないのよ。なら、他の方法で勝たせてもらうわ」
と言って、拳を握り締めた。手は何やら光っていて、構えの態勢をした。一体何を・・・まさか!
「そのまさかだ。お前の目が捕えられないスピードで殴りまくるっ!!」
どうやら、今度は魔法対決をするらしい。なら、こっちも魔法対決でやろうと絶望と滅亡の剣を収めた。
「ではこちらから行くぞ、雷竜拳」
拳に龍みたいな形のものが現れた。おそらく名前の通り、雷の龍だろう。するといきなりウェヌスが飛び出してきて、こっちに向かっていた。その姿はまるで雷龍みたいな姿だ。あれを喰らうとおそらく黒焦げになってしまうだろう。
『なかなか面白い技だね。あれを受け止めるとどうなるんだろう』
ちょっとした期待感、好奇心から僕は立ち止まって、手をかざした。そして彼女の拳は僕の手に当たったが、僕はそれを受け止めた。そんな時、
『そろそろ交代しよう』
『いいよ、僕は休むよ。あとは任せた』
と頭に誰かが話し込んできた。そう、ノワールだ。僕のシャドウで本心。どうやら窮屈してたらしい。僕も疲れて来た所だし。なので選手交代をすることにした。
『ふ、どうした、この程度か?』
「な、私の攻撃を手で受け止めただとっ!」
ウェヌスはあまりの衝撃に驚いてしまった。何しろ、この技のレベルは高く、そう簡単に受け止められることが出来ないからだ。それをいとも簡単に受け止めるなど、あり得るはずがない。それにさっきと声が違う。一体全体どうなっているのだ?
「く、ならこれならどうだっ!!電龍撃」
と唱えると、左手を握って前に突き出した。すると次第に電気を帯びて、やがて龍の形になった。
『ほら、受け止めてあげよう』
またしても、彼は難なく受け止めた。確かに電撃攻撃は効いてるはずなのに何故ダメージを負わないっ!!そのままウェヌスと手を掴み合っていた。
『何故聞かないかって?答えはこうだ』
するとノワールは手から黒い何かを出した。それはヌメヌメしてて、ドロドロもしてる。それに何だか動いてるようにも見える。
『これは僕が作り出したスライム。このスライムは電気すら食べくれる最強のスライムだ!!』
「何っ!?」
ウェヌスは近くで見ていて、恐れおののいた。まさか、ほかにも隠し玉を持っていたなんて。それに拳が離れなかったのはこれのせいか!!このままではやられてしまう。しかし、放そうにも力が入っているためか、手がなかなか離せれない。
『そんなに放してほしいなら、放してあげよう』
僕は彼女を持ち上げて、後ろの壁に投げた。そこには機材等もあったから、ガシャーンッて音もしたけど。
「き、貴様っ、なんて強さだ。確かに彼から聞いた通りの男だわ」
『彼とは何だ?』
「ふ、それは今は教えられないわ」
彼女は血を垂らしながらも、必死で立とうとしていた。しかし、もう勝負は見えていた。
『これ以上、君とやり合うつもりはない。降参してくれたほうが身のためだ』
「だ、誰がそう簡単に降伏するものですか。まだ立てる限り、いくらでも戦うわ」
『その心構えは素晴らしいな。だがその満身創痍の体でどうやってやり合うというのだ?』
実際ウェヌスは疲れと壁と障害物にぶつかった衝撃で、体力的に限界だったのだ。このままではいつ奴に不覚を取られてもおかしくない状況だった。しかし、彼女はグレゴリーの一員だということでプライドが許さなかった。ウェヌスは構えの態勢を取って、再び戦おうとしていた。
「来るなら来い。我が野望のために貴様を倒す!!」
彼女の決死の行動を心の中で称賛した。
(これほど面白い奴は今までで数人しか会ったことがない。なら僕もそれに応じよう)
ノワールはウェヌスの剣を拾って、彼女に投げた。剣は壁に突き刺さった。
『その剣で我と戦え。せめてもの情けだ。ただ一つ、言いたいことがある。お前は今まで見た人間の中で面白い人間だ。こんな形で出会わなければどれほどよかったか』
「お褒めの言葉として受け取るわ。こちらもこんな敵は初めてよ。全く、くそったれな人生ね」
『ふ、では始めようか』
「ええ、いくわよ」
ウェヌスは剣を抜き取り、構えた。ノワールも絶望と滅亡の剣を構えた。辺りは急に静まり返って、緊張感が漂っていた。お互い一歩も動かなく、ただただじっと待っていた。そして雫が垂れた瞬間、二人は同時に走り出し、距離を縮め合った。そして、剣同士が激しくぶつかり合い、互いに一歩ずつ前進した。そして、間合いを見て二人は距離を取った。そして再び走り出して、彼女の隙を見て、体を斜めに斬った。あまりの速さにウェヌスは追いつけなく、それに大量出血したため、彼女は倒れてしまった。こうして黒季&ノワールVSウェヌスの戦いは黒季&ノワールの勝利で終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『さあて、こっちもさっさと終わらせるわよ~!!』
「早すぎて全然追いつけないっ!!」
その頃、白沢とメリウスの戦いでは、メリウスが苦戦中だった。なんか、立場が逆転されてるし。実際、彼女は覚醒したので手こずっているのは何となく分かる。しかし、あまりに早く避けられるため、水攻撃が当たらない。まあ、光の速さ、光速は世界一速いし。
『なんか、逃げるのも飽きて来た。今度はこっちも攻撃するね。”ラピッドスター”』
白沢はレイピアを突き出し、メリウスの周りを駆け回った。ただ駆け回っただけでなく、星を描くように何度も駆け回っていた。光速並みの速さに防ぐことが出来なかった。
「ぐふ、なんて速さなの。こんなの絶対追いつけない」
『なにこれ~っ!!超面白い。もうちょっと付き合ってもらうわよ!!”天火明”』
すると今度は手を広げて、メリウスの目の前に近づいた。すると、手から突然眩い光を照らしてきた。あまりの明るさにメリウス、ジャラゴン、ついでに僕も目を閉じてしまった。
「う、明るくて何も見えない」
『今がチャンスッ!!』
すると白沢はメリウス目掛けて、レイピアを突き刺そうとした。しかし、メリウスは水の中に手を入れて
「”蒼海の守り”」
と唱えた。すると水が動き出してメリウスを包み込むように丸いドーム状の物が出来た。レイピアは間一髪の所で刺さらなかった。うん、僕が言うのもあれだけど、なんか彼女って危なくない?能力を与えるとこんな危ない人間になってしまうの?実際、彼女悔しがってるし。
『もう、そこで守りに入るなんて、ズルいよ』
守ることはズルくないよ。むしろ当たり前の行動だ。やがて水のドームが崩れて、メリウスが現れた。メリウスは僕がそこにいることに気付くと、ウェヌスの方を見た。ウェヌスは水の上にチャポチャポと浮いていた。
「あっあなたっ、よくもウェヌスをやってくれたわね。もう許さないわ」
そう言って、彼女は胸の中からスイッチを取り出した。一体何のスイッチだ?・・・ってこれって。何か嫌な予感がした。
「もっと水を出すわ。実はこの研究所には爆弾が仕掛けてあるのよ。ここを一気に爆発させれば、水が大量に押し寄せるわ」
やっぱりっ!!そういえば、ここ地下だったな。近くには水道もあったし、それにまだ仲間が残っているのに爆発されると全員溺死してしまう。僕はスライムハンドを作って、スイッチを取り上げようとするもメリウスはすでにスイッチを押していた。すると、ドカーンッと至る所に爆発音が聞こえた。それと同時にドドドドッと水も流れて来た。あ、これ一番ピンチかも。
「さあ、これで終わりにするわ。最後に言いたいことはあるかしら?」
『水は大切にしなさいっ!!』
「えっそこーっ!!」
『せめて彼女達とジャラゴンを救わないとな』
「ならこれで最後ね。喰らいなさい、”渦巻く鮫嵐”」
するとメリウスの周りにどんどん水が集まって、やがて水の塊になって行った。そして鮫の形になっていき、メリウスの周りをぐるぐると泳いでいた。まるで水族館で見かける魚のベイトボールみたいだ。
「さあ、あいつらを食い漁りなさいっ!!」
メリウスの号令と共に鮫たちが一斉にこっちへ襲い掛かって来た。数十倍ある大きさで一噛みで腕が持っていかれそうだ。しかし、水が充満してる部屋で逃げることなど難しかった。そして一匹の鮫が僕の足を噛んできた。放そうとするも咬合力が強くなかなか引きはがせなかった。このままではジャラゴンや白沢、ルシカ達も危ない。白沢は早速水の中で溺れそうになっていた。しかし、ノワールはこの状況でも面白がっていた。
『なんか、あなたは大丈夫そうだね』
『こんな面白い状況を楽しまなくては損だろ?だから、相手にとって有利でも我はさらに一歩を行くだけだ』
『そんなセリフを言えるのはあなただけよ』
『さあ、イッツショータイムだ』
ノワールは姿を変えていった。やがてマンタの姿になってメリウスの方に襲い掛かった。
「な、なんですの。あれはマンタっ!?」
『そうだ、これは我が作ったモンスターだ。水中でもこの姿なら自由に動けるぞ』
「何、作っただと。何を言ってるんだ、貴様はっ!!」
『驚くのも無理はあるまい。これは”スティルスマンタ”と言って、隠密用のモンスターだけど水の中でも自由に動けるからとても便利なんだ。だからこういうことも可能だ。”パラリシスニードル”』
後ろの尻尾が突然光り出して、そのまま鮫たちに攻撃した。鮫たちは次々と水に戻っていき、メリウスが次々に作り出すも、みんなかき消した。
「そ、そんなっ!!私の最強技がこんな、いとも簡単に攻略されるなんて。あなた一体何者なの?」
『我の名はノワール。通りすがりのスライムだ。覚えておけ』
ノワールとメリウスの水中戦が行っている頃、白沢とジャラゴンは水中を泳いでいた。何とか態勢を整えて、泳げるようになったようだ。
『どこにあるのかな?』
「こんな水中の中に出口なんて見つかるのか?」
『大丈夫よ。私達が入って来た所から外に出られるわ』
二人は来た道を辿って入り口の方まで泳いでいたのだ。そこには大きい扉があって、そこを開ければ水が全部吐き出すに違いない。この施設は迷路のように複雑な設計だが、記憶力はいい方で難なく泳ぐことが出来た。ちなみに空気はサイバーパンクマスクのおかげで水中の空気だけを取り込んでいる。ジャラゴンは元々魔力で動く人形だから呼吸もいらない。ようやく入り口の方までいくと、なんと扉は開いたままだった。外に出ると普通にマスク無しでも息が出来た。これはきっとメリウスの魔法に違いない。ジャラゴンは急いで泳ごうとすると、白沢が急に掴んできて
『一気に行くわよっ!!』
と言い出して、外に出た。
「どうする気なんだっ!?」
『あの二人の所の上に行って、そこからそこから落下するよ』
「危険じゃねーかっ!!」
『大丈夫よ、何とかなるって』
「あ、急に不安になってきた」
白沢は外に出て、建物の上を飛んでいた。そして落下地点を見つけると、空高く舞い上がって
『喰らえ~っ!!”シャイニングキ~ック”』
とレイピアを地面に突き立て、そのままキックをした。どんどん落下して行って、レイピアのポンメルに足を当てると、その衝撃でレイピアが突き出し、それと同時に地面もひび割れてしまった。そうとも知らずにメリウスとノワールは水中戦をしていた。
「く、水の中でもなかなかやりますわね」
『お前もな。なかなかの戦術だな』
二人が攻防戦をしてる時、上から何かゴゴゴゴッと音がした。そして、天井から何かが突き出してきた。それは白沢のレイピアだった。レイピアが床に突き刺さると、急に白い光と共に爆発した。すると爆風と共に衝撃波が広がり、メリウスは壁の方へ飛ばされてしまった。そしてそのまま伸びてしまった。すると水がどんどん流されていき、やがて水深数センチまで水が減ってしまった。すると上から誰かが落ちて来た。
『おまたせ~。どうだった、この技の威力は?素晴らしかったでしょ?』
降りて来たのはブランとジャラゴンだった。どうやら、さっきの攻撃は彼女のせいらしい。もちろん、僕も被害を喰らった。うん、こいつ能力持たせると絶対危ない。これからは慎重に選ばないと。
『そういえばまだその姿なんだ。もう水は無いし、元に戻りなよ』
『ああ、分かった』
僕は再び人間体系に戻った。彼女の方を見てみると・・・えっ?なんか白い何かがある。もう一度目をこするも、黒い所は無く、全身真っ白だった。それに大きな谷間も・・・ってそれ以上考えたらだめだ。
『うん、君、その、服はどうしたんだ?』
『服?何言ってるの?ちゃんと着て・・・』
白沢は体をあちこち触るも、なんか温かい感触とすべすべした感触しかなかった。もしかしてこれって?
『う、嘘・・・私・・・全裸になってるのーっ!?』
どうやら彼女は全裸状態だった。そういえばあの服、ほとんど魔力で出来てるから・・・きっとあの技でほとんど使いきったに違いない。なんて無茶をしたんだ。ていうか早く前を隠せっ!!
『おいおいっ、何驚いてんだっ!!あそっか、こう言えば良かったんだなっ。いや~ん、エッチっ!!』
いや今更遅いだろ。何呑気に恥じらってるんだこいつ!?家では全裸なのかっ!?この姿、他のクラスメイトが見たらすごく発狂するだろう。なので体からスライムを伸ばして、彼女の体をぐるぐるに巻いた。
『おいおいおい、何をするのっ!?』
『しばらくその姿でいろ』
今はこれが最善の処置か。今度はジャラゴンが降って来た。そういえば、ブランと行動してたな。
「今、上では大騒ぎになってるよ。マンホールから急に水が出て蓋が吹き飛んだとか、すごい音がしたとか、水が急に噴き出したとか」
『そういえば、ウェヌスとメリウスを倒したんだったな。あの二人を捕まえて、話を・・・あれ?』
気が付くとウェヌスとメリウスの姿が見えなくなっていた。よそ見をしてる隙に逃げ出したのかっ!?いや、そんな体力はなかったはずだ。ウェヌスは結構深く斬ったし、メリウスはあの衝撃で気絶しちゃったから。おそらく誰かに回収されたな。失態だ、もっと早く捕まえればよかった。
『ふ、まあいいだろう。また戦う楽しみが出来たからな。今は逃がすとしよう』
『あのー、早くこれをとってくれませんか?』
『お前は全裸で外に出るのか?』
『安心して、光速を使って外に出るから』
『もう黙っとけ』
『分かったよ~』
白沢は何故か残念がっていた。いつまでもその姿のままでは色々と厄介だからな。しかし、彼女の意外な一面を持っていたっということは新たな発見だ。
「じゃあなんか着るもの頂戴っ!!」
『そういえば制服は?』
「あれはあの服を着る時にはもうなくなっていたのっ!!」
どうやら、あの服を着る時には、元着ていた服は無くなるらしい。今度から予備の着替えを持ってこさせよう。すると上からまた誰かが降って来た。
『ノワール、こっちはみんな無事よ。被害者も無事保護したわ』
『それは良かった。ついでに彼女に着せる着替えも持って来てくれない?』
やって来たのはアインスだった。どうやら、そっちは全員無事らしい。宝華も大丈夫そうだ。
アインスはマスクを外して
「・・・?ノワール、彼女は?」
『説明は後だ。それよりももうじきここに誰かが来るな』
「その通りよ。いずれサファイア騎士団がここに駆けつけてくるわ。王女様も回収したし、ここは撤収しましょ」
『よし、では外に出よう』
ノワールは白沢、アインス、ジャラゴンを連れて外に出た。




