彼女達の戦い
「さて、こちらも片付けましょう」
同時刻、アインス達も研究所を襲撃していた。後ろには見張りや護衛の人共が無残に倒れていた。流石に勝てないと感じたのか、逃げる人も多数いた。しかし、逃げてもノワールファミリアの団員に殺されるからみんな固まって動けなくなった。カメルもその一人だった。その隙に宝華を安全な場所へ保護した。
「く、くそー。いいタイミングに来やがって、ほんまついてないな」
「今日があなた達の年貢の納め時よ。覚悟しなさい」
そう言って、団員達は一斉に襲い掛かった。グレゴリーの戦闘員も応戦するも、実力差がありすぎて敵わなかった。そして残るは一人、カメルだけになってしまった。流石のカメルも絶体絶命に陥った。
「これでジエンドよ」
アインスが魔力で剣を作り出し、カメルに襲い掛かろうとするも、突然カメルの姿が消えてしまった。アインスは驚いて、そのまま機材にぶつかってしまった。
「おいおいやめんか。そこにはな、大事な機械もあるんやで」
確かに声は聞こえる。しかし、場所が分からない。一体どこにいるのかすらも。やはり、彼も能力者だったのか。アインスは立ち上がって辺りを探そうとすると、いきなりバチンッと顔に何かが当たってしまい、壁にぶつかった。あまりの出来事にみんな戸惑っていた。ただし、アインスはこの状況を理解出来た。
(おそらく敵は隠れている。いや、私たちの目に見えないように消えているが正解かな)
そう確信したアインスは、天井に向かって銃を連発した。すると突然うめき声が出てきて、何かが下にドスンッと落ちて来た。ビンゴ!!やはり、彼は姿を隠していた。そして、次第に姿を現していった。しかし、人ではなく緑色のトカゲが出て来た。しかも人間のように二足で立って、どんどん大きくなっていった。やがて、天井まで届くも流石に大きすぎたのか、天井を破っていた。やがて、動きが止まると全てが見えた。バカでかいカメレオンになったのだ。
「どうだーっ!!これが僕の真の姿だ。まさか、こんな場面で使うとはな。しかし、久しぶりすぎて扱いがむずいな」
その全長は10メートルぐらいあって、顔よりもでかい手、グルグルに巻いた尻尾、口からはみ出した舌などが出た怪物だ。目もギョロギョロとこっちを見てる。
「この姿になると手加減が出来ないから、一発で君達を始末してやる」
と右手を握って、アインス目掛けて殴りかけようとした。あまりのデカさに驚いたのか、みんなは逃げて行った。しかし、逃げるどころか表情すら変えてない人もいた。
『ふ、そういうことも想定内。みんな、行くよっ!!』
ツヴァイ『はいっ!!』
ドリィ『任せてくださいっ!!』
フィア『はいですっ!!』
フェリカ『ええっ!!』
ジーナ『いよいよ出番ですねっ!!』
アハト『くししし~っ!!腕が鳴る』
7人は怪物カメルに立ち向かった。スライムで作った剣を出して、アインスはまず右腕を切った。もげはしなかったものの、血が大量出血する程のダメージを与えた。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁっ!!な、何なんだっ、ええいくそっ!!」
怪物カメルは右腕を抑えながら、舌を伸ばした。しかし、アインスとジーナによって舌も切断された。もちろん舌からも血が噴き出ていて、またうめいてしまった。その隙にツヴァイとアハトが左足を掻っ切った。あまりの攻撃とダメージに怪人カメルは膝をついて、うつぶせになってしまった。
「な・・・なぜ・・・だ。なぜ・・・こんな・・・奴らに」
『デカければいいって訳じゃないわ。逆に標的にされやすいから狙われるのよ。それに隙だらけで攻撃が通りやすいわ。あなたはここで終わりよ』
「く、くそっ・・・」
『しかしあなたにはまだ死んでもらっては困る。組織のことを洗いざらい話して頂戴』
「なっ!・・・」
つまり、殺さないかわりに情報を全て話せとのことだ。満身創痍の体、逃げ場のない部屋、状況的に考えると危ない状態だ。こいつら、かなり強えーな。
「だ、誰が・・・きさ・・・まらに話す・・・ものかっ」
『なら死になさい』
アインスは剣を振りかざそうと剣を構えて、頭に目掛けて切りかかろうとした。すると、突然尻尾が動き出した。そのまま尻尾でアインスに攻撃しようとするも、間一髪避けられた。しかし、彼の狙いはこれではない。とポケットに尻尾を伸ばし、がさごそと何かを探していた。取り出したのは注射器でそれを打ち込むと、切ったはずの切り口が塞がり始めた。
「ふ、ふははははぁー。こんなこともあろうかと、ポケットに人体強化薬を入れて正解だったな。ほな、第2ラウンド始めるかっ!!」
と拳を構えた。アインスは何かを悟ったのか、一歩も動かないでいた。しかし、その直後に一人飛び出してきた。フィアだった。
『がるるっ、やってみろなのですぅー!!』
彼女はみんなの制止を振り切って、怪人カメルに襲い掛かろうとした。しかし
「ふ、引っかかったな」
と呟いた途端、急に拳が動き出した。最初はゆっくりだったのでフィアは交わしながら進んだが、次第に早くなっていき、やがてフィアも回避するのに精一杯な状況になってきた。
「ふははははぁー、これぞ”不流暴拳”だっ!思い知ったかっ!!」
不流暴拳、ただ拳で殴りまくる攻撃だが、一つ一つの威力がデカすぎて危険な技だ。例えるなら、ジェッ○ガト○ングみたいな技だ。そんな技を所かまわずするものだから危険すぎる。フィアは何とか拳をかわして逃げ切った。しかし、右手から血がたらりと流れていた。どうやらさっきの攻撃で肩を擦りむいたらしい。
『フィア、あとでお仕置きよ』
『うぅ~、ごめんなさいですぅ』
フィアは泣きながら謝っていた。アハトはフィアにポーションを渡して、この場から連れ戻した。やがて怪人カメルは殴るのをやめた。
「あ~あ、やめたやめた。お前たちがこーへんからな。今度は別の遊びをしちゃるわ」
そう言ってまた姿を消した。
『また消えたわっ!!みんな一つに集まって。相手は何をするか分からないわ』
姿が見えない敵にみんな警戒していた。またあの打撃攻撃をされるとこっちの命が危ない。みんな上、下、右、左と目を動かして警戒してた。しかし、攻撃どころか何もされなかったので一同は焦り出した。すると
『あ、フィアは獣人だから鼻がいいのですっ!!』
と突然フィアが言い出した。そういえばアティスは獣人だったな。獣人は人間の何十倍と嗅覚がよく、聴覚も視覚も優れている。しかしみんなが驚いたのは、あの脳金な彼女が頭を使ったということだった。流石の発想にツヴァイも
『フィア、すごいわっ!早速やってみてくれない?』
『わんっ!!分かりましたですぅっ!!』
と絶賛されたので上機嫌になっていた。早速フィアは匂いを嗅ぎ始めた。上、下と細かく匂って彼を探し出した。すると、ある場所に止まって尻尾を振った。
『この上ですっ!』
『ありがとう、フィア。早速取り掛かるわよっ!!』
と彼女達を動かした途端、急にフィアが苦しみだした。
『フィア、一体どうしたのっ⁉』
どうやら何者かに首を絞められているらしい。近くに近づくも、目に見えない攻撃に跳ね返された。しかし、ここにカメルがいることは間違いなかった。すると次第にフィアの体が見えなくなっていた。彼は自身の体にくっつけた物も消せることが出来るのだ。こうなるとどこにフィアがいるのか分からなくなってしまった。このままではアティスも殺してしまう。
「ならハンデや」
するとフィアと一緒に怪人カメルの姿も現れた。恐らく彼は楽しんでいるに違いない。
「現れてくれてありがとう。これならあなたを切ることが出来るわ」
アインス達は体や尻尾を切りまくった。しかし、思いのほか硬くなっており、中々切り傷が出来なくなってしまった。そしてまた消えた。このままではフィアは殺されてしまう。何とか策を考えていると急に声が出た来た。
「くっしししし~、しかしよくぞわいを見つけれたな。そこは褒めてやる。だがこれでお前らもお終いやっ!!彼女は人質や。返してほしかったら、まず武器を捨てるんだな」
アインス達はカメルの要求通り、持っている武器を全て捨てた。しかし、これで解放するはずがない。きっと私達を捕まえて売るつもりだろう。フィアを絞殺さないのは、大事な商品だからだな。フィアは奴の尻尾にずっと巻かれている。本来ならフィアは力づくでも尻尾から脱出するだろう。しかし今の状況は手が首元のところにあってずっと搔きむしっている。どうやらきつく締めすぎて、力が入らないらしい。
「さて、この女みたいになりたないやろ。さっさとあの中に入らんかいっ」
怪人カメルが目を指したところは檻だ。やはり私達を売る気だったのだ。中にはトラウマが残って嫌な思い出が蘇る人もいた。しかし抵抗しようにも、フィアが捕まっているため、どうすることも出来ない。絶体絶命と思われたその時、体の中に何か違和感を感じた。
『・・・んん?この感覚は何かしら?』
何かが湧いてくる感じ。それに力が少しずつみなぎって来てる感じもした。そういえば、少し前にノワールから能力をもらった。しかしただの能力ではなく、不思議な感じがした。一体なんなのか、それは彼以外に分からなかった。ほかにもツヴァイ、ドリィ、フィア、フェリカ、ジーナ、アハトも彼からもらっていた。
『何だか力が湧いて来てる。今までにない感覚・・・これならっ!!』
するとアインスは怪人カメルに向かって走り出した。そして剣を拾い怪人カメルに襲い掛かろうとした。
「バカめ、こいつがどうなってもいいんか?」
怪人カメルはさらに強く尻尾を締め上げた。フィアも苦しいのか、うめき声をあげていた。
『ぐ、ぐぎゃあああ~っ!!』
しかしそれでもアインスは走り続けた。彼女を助けるために。
『ごめんね、しばらく苦しいけどこれで解放してあげるから』
アインスは剣を振りかざして、高くジャンプした。そして、地面に切りつけるように剣を降ろして、怪人カメルの尻尾を切った。
『がはっ、がはっ!』
尻尾を切られたことによって、フィアは解放された。やっと彼女を救い出せた。アインスは少し安堵し、彼女の所に駆け寄って、彼女の肩を担いだ。
「ば、ばかなっ。わいの自慢の鋼鉄の皮膚がっ!!」
鋼鉄並みに硬い強度な皮膚が一瞬で切れるなんて。これは怪人カメルには想定外のことだった。改めて彼女をよく見ると、さっきまでとは魔力の量が違っていた。それはほかのみんなが見ても感じることが出来てた。それは彼女自身にも。フィアを届け終えると、頭にズキズキッと頭痛が起きた。
『・・・?おかしい、頭に何故か情報が入ってくる・・・これはっ!!』
たくさん入ってくる情報を整理すると、その力の正体が分かった。彼女が得た新能力、それは
”|破壊術《コワシマクリ|》”
という能力だった。
破壊術?それは彼女やみんな知らない能力だった。そもそも彼がどうしてこれを渡したのかも分からない。きっと話すのが恥ずかしかったに違いない。
『ふ、彼らしいわね』
アインスは一旦頭をリセットさせて、理解したことを話した。私達7人が注ぎ込まれた魔力に能力が入っていたこと、彼が作ったオリジナル能力だということ、全てを話した。みんな驚くもすぐに納得した。
『じゃ、じゃあ私の能力は一体何でしょうかっ⁉』
『それはまだ分からないわ。でも少なくとも強くなってるはずだわ』
アインス達は己の能力を確認するために怪人カメルと戦おうとする。そんな怪人カメルも持っていたポーションを飲んで回復していた。
「ふ、尻尾はまた生えてきたが、今度は油断しないぞっ!!」
『そのつもりで来て頂戴』
しばらくじっとしていたが、先に動いたのは怪人カメルだった。再び姿を消して、また尻尾を使って彼女達を締めようとしていた。
『もう同じ手は喰らいません』
ドリィは突然飛び上がって蹴っていた。すると蹴った所から、怪人カメルが出て来たのだった。
「な、なぜここにいると分かった・・・」
怪人カメルは腹を強く蹴られたので、腹を抑えながらうずくまっていた。
『私の新能力、”記憶術”の力です』
記憶術、それは一度見た物を瞬時に覚えることが出来る能力だ。一見、戦闘向けではないと思えるが、相手の攻撃や手の内を全て把握していて、頭脳派で戦う人ならかなり当たりな能力のはずだ。偶然ドリィになった訳で、記憶力が良い彼女には打ってつけの能力だ。怪人カメルは再び立ち上がって拳を構えていた。
「な、ならもう一度不流暴拳を使って一発K.O.させたるわ」
怪人カメルは再び腕を連打させ、ツヴァイに目掛けて攻撃をした。すると横から誰かが割り込んできた。フィアだ。
『貴様、よくもフィアを殺そうとしたなっ!許さないですっ!!』
フィアも拳を構えて連打した。拳同士がぶつかる衝撃で周りの壁にひびが出て来た。本来ならフィアが交わせなかった攻撃を今度は拳で押し返していた。そう、これが彼女の新能力、”暴力術”だ。この能力は名前の通り、暴れる前提の能力だ。もちろん攻撃力、腕力、脚力なども大きくパワーアップしている。なので怪人カメルの攻撃など屁でもなかった。
「く、何故だっ!あれほど苦労していた攻撃をいとも簡単に攻略されるなど」
『お前の攻撃が遅すぎて弱いのですーっ!!』
そうしてフィアの連打攻撃に耐えられなくなり、やがて怪人カメルはフィアに押し返されるようになった。全ての連打を喰らってしまった怪人カメルは壁にぶつかり、めり込んでしまった。
(な、なんて奴らだっ!もしかすると戦う相手を間違えたのかもしれないっ)
部下も戦闘員もみんなやられてしまったため、もう打つ手がなかった。今度こそ絶体絶命と思ったその時、地面から何やら黒い物が湧き出た。それは一つだけでなく、無数に湧いて出てきてやがて球体となって宙に浮いた。そして次第に形を変えて、変な生き物に変わって行った。角が生えていて全身真っ黒のこの世の生き物とは思えない姿だった。また中には騎士風な姿、魔法使いみたいな姿になる者もいた。これは一体何なのか、それはカメル本人でも分からなかった。
「こりゃー、一体なんじゃ?」
『さあ、でも明らかに敵みたいね』
『あんな生き物、私見たことがない』
『ノワール様の魔力が感じませんし、これは一体?』
アインス、ジーナ、ドリィも困惑していた。すると正体不明な生き物はアインス達に襲い掛かった。しかも全員で。
『やはり敵だったか!!』
『今度は私がっ』
そう言って出て来たのは、ジーナだった。彼女には一体どんな力を手に入れたのか、それは彼女自身も期待していた。
『まずはこれでどうかしら⁈』
ジーナは敵を殴ることにした。しかし殴っても何も起こらなかった。次に蹴っても、物を投げても何も起きなかった。あれ、どうなってるの?確かに能力をもらったはずなのに。
『何も起きない?しかし彼がそんなことをするはずないし』
アインスもほかのみんなも心配した。どうしたらいいのかと対応に困っていると、魔法使い風の敵が魔法攻撃をしてきた。相手は炎の玉を飛ばしてきた。ジーナが気を取られている内に炎の玉は徐々に迫って来ていた。やがて気づくも逃げられない距離にまで来てしまったので、腕で身を守ろうとした。すると、炎の玉は来なくなった。恐る恐る目を開けてみると、炎の玉は丁度目の前で止まっていたのだった。そして跳ね返るように炎の玉は飛んで行って、魔法使い風の生き物に当たってしまった。ほかにもいろんな属性の魔法攻撃をされるもみんな跳ね返されてしまった。そう、これが彼女の新しい能力だった。
『わ、私のスキルって”反射術”なのっ⁉』
反射術、それは対象の物を跳ね返すことが出来る能力だ。ただ、対象なのは魔法系の攻撃のみで普通の武器や物は対象外だ。しかし、それで奴らを倒せるには十分だった。その後、ジーナは謎の物体を次々と薙ぎ払い、気づけば怪人カメルただ一人になってしまった。万事休す状態になった怪人カメルはまた立ち上がって、戦闘態勢を整えた。
「ここまで盛り上がった戦いは初めてや。しかし、あのへんな奴、一体ナニモンなんやな?せっかく味方が現れたと思ったら、お前らが倒すからもう絶望しか見えへんな」
『なら、私の能力、破壊術の力をとくと味わいなさい』
破壊術、色んな物を破壊することが出来る能力だ。例えば、世界一硬いダイヤモンドもいとも簡単に壊すことが出来る。デメリットはやりすぎて大事な物まで壊してしまうって所だ。しかし、使い方次第では超強力な能力であることは間違いない。
『ではさようなら』
アインスは剣を構え、怪人カメルに襲い掛かろうとした。しかし、突如赤い何かがやって来て、彼女目掛けて集中攻撃をしようとした。彼女もそれに気づき、間一髪防ぐことに成功した。すると、赤い物体は施設を見境なしに攻撃し、カメルの所に行くのを防いでいた。やがて収まって赤い物体が奥にシュルシュルと消えていった。その後、ブラックカーテンが現れて、中から誰かがカメルを持ち上げて、中に引きずっていた。
「悪いな、勝負は中断だ。こいつを回収しに来ただけだ。またどこかで会おう」
謎の男はそう言い捨て、ブラックカーテンと共に消えていった。フィアはとどめをさせなかったことに不満を抱いていたが、今はこれでいいかもしれない。しかし、彼からもらったこの力、私達が能力を選ぶのではなく、能力が私達を選んでくれたと感じる。やっぱり彼は面白いわ。アインスはふっと笑って仲間に命令を下していた。
『さて、次は人質の救助に急ぐわよ。みんな探してきて頂戴。集め終わったら入り口集合よ』
そして彼女達は別々に分かれて、被害者を探していた。その後アインスは手をギュッと握って
『この力で組織を潰す』
と誓った。いつか平和な時が来る、その時まで。




