光の剣士の成り上がり
『私って何にもないよね?』
彼女は突然の宣戦布告に困惑していた。だって、力も魔法もないし。こんな状態でどうやって戦うのっ⁉今更だけど、待ってたほうが良かったんじゃないかな?あの時、覚悟がどうのこうのって言ってたけど、あれってこういうことだったの!それなら、来ないほうが吉だったんじゃないかな・・・。今更悔やんでも仕方がない。でも、一体どうやって戦えばいいのだろう?
「まずは貴様からだっ!覚悟しろっ!」
『えっ・・・?』
何かが私の目の前に映って来た。それは女性の人で、あの時誘拐しようとした人だった。そう、ウェヌスだ。彼女は真っ先にこっちに狙いをつけていたらしい。私の横に蹴りをいれようとしていた。あまりの出来事に驚きが隠せなかった。このままではやられる!ウェヌスが私を蹴ろうとした時にまた別の何かが映った。それは手であったが、何か黒くグニャグニャした物がついてた。しかも彼女の蹴りを止めたのだった。
『ふう~、危なかった。間一髪だったね』
横を振り返ると彼の手から何かが伸びていた。え、これって一体どういうこと?何で腕が伸びてるの?それは彼女だけでなく、ウェヌス、メリウスも仰天していた。
「な、バカな。あんなの効いてないぞっ!」
「うわ~、目が覚めてしまいましたぁ~」
あまりの衝撃に体が止まってしまった。白沢は床にへばりこんでしまった。そんな彼女に
『さて、これで君を守ることは出来る。ただ、君にも参加してほしい。それでこれを君にあげよう』
と差し出した物は白い石だった。これは9年前、あの石の箱の中に置いてあった物だ。なんでこの色にしたかって?なんか、雰囲気や見た目から適当に選んだだけだ。すると、彼女はその石を見て、何かに吸い込まれるように手を伸ばした。これで戦えるはずだ。しかし、手にとっても何も起こらなかった。どうしてだ?僕の時にはうまくいったのに・・・。何か条件でもあるのか?困惑してると
「私の眠りを覚ましたお礼として、今度は私が相手になりましょう」
と一人の女性が立ちはだかった。シスター風の服を着ていて、胸がよく強調されている。
「私の名前はメリウス・サイゼリア。ここの用心棒です」
メリウス・サイゼリア。彼女は普段は眠たそうにしているが、目が覚めてしまうと緩やか~な口調からキリッとした口調になる。顔も眠たそうな顔から、目がシャキッとした顔に変わった。
「彼女を起こさせたようだな。この状態の彼女は本当に危険だぞ」
ウェヌスが説明をしてくれた。あの眠そうな態度が正常なのか?今はどうでもいい。僕は彼女たちの方にすばやく飛んだ。それと同時にメリウスもすばやく動いて、お互いの拳がぶつかった。その拳には力が籠っていて、普通だったら押し返されそうな感覚だ。しかし、全身スライムのおかげで力を受けきることなく吸収されている。こいつ、見掛け倒しではないな。やっぱり、警戒していて正解だった。
「私の攻撃はこれで終わりませんよ」
すると後ろのタンクがグラグラと動いていた。すると、タンクから穴が開いてそこから水が出て来た。なるほど、こいつ水を扱う能力者だな。周りにタンクが何個かあったのは、ここが彼女が戦いやすい環境だからか。失態だ。敵のペースにまんまと乗せられた。やがて、水は全てのタンクから放出され辺り一面水浸しになった。
「ふふっ、一つ言い忘れましたわ。私はグレゴリーに属する暗黒の七将軍が一人、水魔将軍メリウス・サイゼリアですわ。そして彼女は金怪将軍ウェヌス・キャナリィ」
何とっ!将軍がいたのか。どうりで強い訳だ。今までの敵とは格が違う。昔戦ったブラッドよりも強そうだ。しかも水魔将軍って言わなかったっけ?ちょっと待て、もうヤバいんじゃっ。
「お察しの通り、辺り一面水浸しですわ。私は水を操る能力者。例えば、こんなこともできますわ」
そう言って彼女は水に触れた。すると、水の中から何かが出て来た。どうやら、剣を作り上げたらしい。それは僕の専売特許だ。同じことをしやがって。でも今はそんな事を考えてる場合じゃない。どんな攻撃をしてくるのかの分からないし、ほかにどんな能力を使うかも分からない未知の相手だ。今は距離をとるのが最適か。そう思い、後ろに引き下がった。
「慎重派なのですね。ではこれならどうですか?」
とメリウスは呪文を唱えだした。床下には魔法陣みたいな物が浮かび上がっていた。これ、危ない気が。
「喰らいなさい、”激流放”」
そう言うと水面から水が噴射してきた。しかも、上、斜めと噴射してくるので逃げるのに精いっぱいだった。噴射した水は壁に当たると穴が出来ていた。なるほど、水圧だ。さっきのタンクも水圧で開けたのだな。
『危ないな。君、水圧を使って僕を押し潰す気だな!!』
「その通りよ、これは放水砲の原理を利用してるわ。本来、水は液体ゆえに手を加えなければ害のない安全な物。しかし、水圧を利用すれば武器にもなるわ。水圧により水が高速で噴射され、衝撃が強くなり、硬い物質のように作用するわ」
中々水について詳しいな。確かにただの人間ではないことは分かった。だが、これ以上ここで足止めされるのは不本意だ。なので僕も反撃をすることにした。
『ここまではよくわかった。ただ、ここで遊ぶのはもう飽きたからこれで終わりにしよう。”電撃葬”』
手をかざして、下に向けた。両手には電気をまとっており、水に向けて放とうとしていた。感電を避けるために白沢も上にあげて、僕もちょっと浮いた。でもあの二人は何故か焦ってない。まあそんなことはどうでもいい。
『これでジ・エンドだっ!!』
僕は電撃を放った。水は電気を通しやすいというから、これで決めさせてもらおう。水浸しでほんと良かった。電気が・・・広がらない。しかも、彼女たちは避ける所か、ケロッとしている。何でだ?・・・まさか、この水はっ!!僕は衝撃の事実を知ってしまった。
『これ全て純水だなっ!』
するとメリウスは
「ご名答。この水全て純水よ。普通、水は電気を通すと言われるけども、それは電流を運ぶイオンが多く存在するからよ。例えば、水道水や海、川の水とかね。でもこの純水はイオンを多く含まないからたとえ強い電流がきても、あまり感電しないのよ!」
しまったっ!!純水とは思っていなかった。つい水だから、てっきり電気を通すと思っていた。相手に一杯食わされた。こうなってくると厄介だっ!!二対一は正直面倒くさい。何とかしてやり過ごさないと。
「さあ、諦めて降伏しなさい。やっぱり人間は愚かだわ。誘拐された人間のためだけに命を張るなんて。だから私たちが管理する必要があるわ!でもあなたは中々面白いわ。そうだっ!私達に忠誠を誓わない?私が推してあげる。さあ、私達のために働きなさい」
・・・何言ってんだ、こいつ。つまんない、つまんない、つまんない、つまんない。こんな奴に警戒していたのか。くだらない。何か面白くなくなった。どうせなら、魂を抜いたほうが早いか。うん、そっちの方が手っ取り早い。その頃、もう一人の人間は震えていた。怖かったのか?まあこんな状況を見せられてるからな。早く終わらせよう。
『・・・けないで』
『・・・?』
彼女は何か呟いてた。よく耳を傾けると
『ふ、ふざけないでっ!』
と覇気のある返事をした。その後、白沢はサイバーパンクマスクを外して、顔を見せた状態で彼女達に説教をした。
「人間は愚かですって?確かにそうよ。でも、愚かだから転んで怪我してみないと分からない!時には道に迷ったり、間違えたとしてもそれでも強くなっていく。あなた達に管理される必要はないわ!」
彼女は怒りをぶつけて来た。そうか、君も同じことを考えていたのか。でもまさか、そこまで言うとは中々だ。
「愚か者を愚かと言って何が悪い。人間は間違いを起こす。その度に傷つけ合い、引き裂かれていき、最終的には死ぬ。だから、我らが正しい方向へ案内する必要があるのだっ!!」
ウェヌスも反論してきた。しかし、白沢も負けずと
「そう、間違いは起こる。でもそれは人間だもの。時には血や涙を流したり、平気で騙し合う。そして、この手で戦う。でも、間違いをしたからって一生このままって訳でもないわ。時にはその手を取り合って一緒に遊んだり、手を取って誰かを助けたり、感動と喜び、笑いの涙を流すこともあるわ。だから、一生懸命生きてる人間達をそうやって誹謗中傷するのはやめてっ!」
白沢は自分の中の精一杯を振り絞って喋った。なかなか感動的だな。
「ふん、貴様にしてはいいセリフだな。感動的だな。だが無意味だ」
ウェヌスはそう言って拳を握りしめて、白沢目掛けて走った。どうやら殴る気だっ!何とかして守らないとっ!だが間に合わない。しかもなんて速さだっ!白沢も驚いてわが身をガードした。すると、握っていた石が突然光り出した。ウェヌスは殴ろうとしたが、何か壁みたいなものが出来て弾き返された。その頃、白沢は急に頭痛がし始めて倒れてしまった。どうやら石が守ってくれたみたいだ。石は一旦宙に浮いて、彼女の左目に入って行った。最初は激痛が全身を走って目を抑えながら倒れた。すると体中から黒いオーラみたいなのが出てきて、やがて彼女の全身を包み込んだ。その後オーラが消えていき、そこには白い髪の少女が立っていた。ようやく覚悟を決めたのだな。瞳もダイヤモンドみたいに光っていて、何か大人っぽい雰囲気を漂わせていた。僕は彼女に手をかざし、黒い線を出し、彼女に刺した。
「ちょっとくすぐったいけど、痛みは一瞬だっ!!」
黒い線を刺された彼女は再び悶え苦しみだした。息切れもしながら、胸を抑えていた。そんなにきつかったのか、僕の魔力。なんか不安になって来た。
『あ~、大丈夫?』
僕は心配して声をかけた。すると、彼女の答えは意外にも
「大丈夫・・・ちょっと苦しいけど、こんな痛み、一瞬で終わるわ。だから、安心して」
白沢の言葉通り、次第に体が立ち上がり、苦しさも無くなっていた。そして、彼女は放心状態になってしまった。すると、刺した所から黒い何かが湧き始めて、白沢の体を包み込むようにまとっていた。やがて黒い何かが消え始めていって、見てみるとそれは部屋着姿ではなく、黒いコートを羽織って、胸がはだけてる黒い服に黒いミニスカ、黒いブーツに中指以外はみ出てるオペラグローブ、さらにあの時渡した白いドミノマスクを着けていた。何と、僕の着てる服の女性バージョンかっ!!何かすごいことになってきたな。だが、これで人数は互角になった。すると放心状態彼女がやっと我に気付いて自分の姿を見た。
「えっ・・・?な、何~!!この姿っ!!とても恥ずかしくて外に出られないよ~!!」
と恥ずかしそうに後ろを向いて胸を隠していた。あれ、そんなに恥ずかしかったのか?まあそうか。地球と異世界では価値観も違うか。でも別にこの姿で買い物とかは無いと思うけど。しかもその服、あんまり着るタイミングなくない?ってこっちはこの辺にして、後は相手を倒すだけだ。
「な、何なんだ・・・あれは?」
「そんな、魔力が桁違いに大きくなってるっ⁉」
二人もやっぱり驚いてた。まあ当たり前か。僕の魔力を与えたからね。
『いつまでグズグズしているんだ、もう覚悟は出来たんだろ?』
「そ、そうだよね。ごめんね」
彼女は立ち直り、マスクをサイバーパンクマスクに変えた。そういえばまだ武器を持たせてないよな。今あるのは・・・これか。
『これ使いなよ』
と彼女に黒いレイピア”ヴァイス・デュランダル”を渡した。彼女は手に持つと試し振りをした。それは可憐で見事な太刀筋だった。
『どうして?こんなの使ったことがないのに、何故か勝手に動くのっ⁉何か頭に入って行く感じで!』
そりゃ、僕の魔力を注入したから、ある程度の攻撃術は頭に入るよう作ったからな。これで準備は整った。さて、相手も待たせてるだろうし、そろそろ本番といくか。
「な、なんかすごいことになってますわっ⁉」
「構わない。相手にとって不足なしだ」
ウェヌスもメリウスも戦闘態勢に入った。お互いに武器を手に取り、構えの態勢になった。ここにはもう緊張感しか走っていなかった。互いに一歩も引かなく、じっと身構えている状態になっていた。そして、水滴が垂れたと同時に僕とウェヌス、白沢とメリウスは鍔迫り合いになった。相手もさることながら押し勝とうとして剣に力をいれた。
「中々やるな。こそこそと動くスライムでもこれほどの力があるとはな」
『あまり見た目だけで判断しないほうがいいよ。何事も警戒せよってね』
さすがに耐えきれそうになかったのか、皆一度後ろへ下がった。この判断は間違ってないな。戦いはこうでないと。
「貴様の力は認めてやろう。それを踏まえて改めて名を聞こう。お前は一体何者だっ⁉」
ウェヌスはどうやら興味を持ち始めたらしい。しかも認めてくれたし。だが、今は名前は教えられないな。その時が来たら、教えてあげよう。
『我はノワール。通りすがりのスライムだ。覚えておけ』
今はこれで何とかしよう。これで納得すればいいが。
「・・・そうか、なら今はそのぐらいで勘弁してやる。ただ、戦いは別だ。私と剣を交えた時点でもう始まっているのだからな。まあそれはさておき、私の名前も教えてやる。私はウェヌス・キャナリィ。このグレゴリーの暗黒の七将軍の一人、金怪将軍だ。覚えておけ」
あっさり認めてくれた。まあラッキーだ。それにしてもまさか相手ももう一度名乗るとは。これはますます面白くなってきた。さて、戦いの舞台は整った。さあ、楽しいショーの始まりだ。




