闇が導く異世界道中
「はあーっ!!!」
グレゴリーの地下研究所で宝華は戦っていた。後ろを見ると、研究員や組織の人達が横たわっていてり、壁や天井にぶら下がっていた。殴っては蹴って、張り倒して、中には逃げ出す人もいた。
「く、どうしてこんなことになったのー」
時間を遡る。あの日、確かに家に帰って部屋の中にいた。そして、部屋に入ったら目の前に胸のデカい女とぶつかって・・・その後は覚えていない。ただ、気づいた時には見知らぬ場所で拘束されていたってこと。なので、自力で拘束具を壊して駆けつけてきた人を薙ぎ払った。早く外に出て、助けを呼ばないと。彼女は地下を彷徨っていた。しかし、道が複雑で迷ってしまうし、敵がどんどん来るし、挙句の果てにスマホが使えなかったので、最悪の状態だった。グルグルと回っているうちに、ようやく出口らしき扉が現れた。
「や、やったー!!これで帰れる!!」
希望が見えた。しかし、その希望も一瞬の出来事で消えていくのだった。その扉の前にあの時出会った女がいたのだった。
「施設巡りぃ~お疲れ様ですぅ~。後はあちらでぇ~ゆっくり休んでくださいぃ~」
「誰がゆっくり休むですって。大体あんた誰よっ!!」
「私の名はぁ~メリウス・サイゼリアぁ~ですぅ~。見ての通りぃ~、ただのシスターですぅ。これで終わりですぅ~」
「何なの、あの眠たそうな女。ふらふらしてるし、ついでに胸も大きくて揺さぶってるし、気に食わないわ!」
宝華は彼女が眠たそうにしてるのを機に、その隙間から抜け出そうとした。ここで逃げ切れば、助けを呼べる。そう思い、全速力で走った。しかし、メリウスは彼女の考えを呼んでたのように
「あなたの考えなんてお見通しですぅ~。だから逃がしませんよぉ~」
と彼女の体を掴んだ。宝華は捕まってしまったのだ。何とかして抜け出そうとじたばたするも、メリウスに首をトンッとつかれて、再び気絶した。
「いやー、ほんますごいですなぁー。さすが、ジェネラルさんだ」
影からカメルもやって来た。どうやら、ずっとそこにおったらしい。さすがのメリウスも驚いた。
「いつからぁ~そこにいたのですかぁ~?」
「ずっとや。それよりもその人間が暴れたって聞いて、ほんまでっかっ⁉と驚いたけど、まさかの期待以上や!」
「うぅ~、私を嵌めましたねぇ~。私ならぁ~止められると思ってぇ~」
「ああ、悪いね。止められる人がみんなやられちゃって。この中では君かウェヌスしか強い人いないからね?」
そう言ってカメルは視線を横に向けた。そこにはウェヌス・キャナリィがいた。どうやら、対象の被験者を取り逃がしたことがバレて、上に怒られたのだった。しかも超不機嫌になってるし。
「・・・くそっ!あの時邪魔が入らなければ・・・」
「邪魔ってなんや?誰かに横取りでもされたんか?」
「黒い服を着た変な奴に奪われた。しかもあいつ、あえて黒い緞帳の中に入っていった」
「黒い服でブラックカーテンを知ってる人?・・・まさか!」
カメルは思い出した。昔、基地を襲撃されて、ブラッドを退けた奴が。もしかすると、あの時の少年か⁉ただ、あの少年がこの場所を知ってるはずがない。いや、待て。あの基地をそもそもどうやって発見したんだ⁈潜入ルートはともかく、あの基地は絶対見つからない場所に建てたはずなのに。こうなると、この場所も襲撃されるのでは!カメルは慌てて、二人に命令した。
「奴がくる。ここの警備レベルを最大にしろ。お前たちは研究室に来てくれっ!」
「・・・?一体何があったのだ?」
「その黒い服を着た奴が数年前、基地を襲撃した奴だ!もしかすると、ここにも来る可能性がある!」
「そんなぁ~、まだ眠いのにぃ~」
「各戦闘員に伝えろ。奴を研究室に通すな。そして、可能な限り生け捕りにしろと」
カメルはそう伝えて奥に走って行った。そこには二人だけが立っていた。
「何のことかは知らんが、とりあえず我々もいくぞ」
「はぁ~い、分かりましたですぅ~」
二人も奥のほうへ歩いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここは城塞都市”ミニスト”。高い城塞に守られていて、中には街が広がっている国だ。だから、戦争が起こっても中まで攻め入ることが出来ないし、ほとんど城塞の上か近くで戦うから死者もそんなに出ないらしい。また、門の前には厳しい検査があり、商人や冒険者が多く出入りするが許可がないと通れないらしい。また、この国の戦力も桁違いらしく、セブンブレイ王国、ファミーマ帝国、ロッソ法国とは比べものにならない力を持っている。そして、この国の中心にある城、”ソフト―ル城”。ここには国王である”ドンニンテー国王”が王座に座っている。彼が行った戦力強化、貴族や平民の平等制度のおかげで国がさらに栄えたとか。また。城の近くに”王立ソフト―ル魔剣学院”という学校もあるため、剣士や魔術師育成にも力を入れている。また、最強の騎士団”サファイア騎士団”という組織もあり、その中で団長が強いらしく、戦では団長のおかげで勝ってるそうだっと、僕は白沢に色々教えた。白沢は見たことがない景色に興奮していた。僕たちは都市”ヨッコハーマ”に来ていた。ここは都市の中でも一番の繁華街らしく、色んな国々から物が来るからか、文化が進んでいる所だ。まるで東京の新宿、広島の福山市、呉市みたいな所だ。今日は何やらお祭りみたいらしい。
「観光で来たんじゃないってこと、忘れてない?」
「大丈夫よ!何だかこういうのって興奮するじゃない!」
白沢は目をキラつかせていた。ほんとに大丈夫かな?すると街の片隅に青ローブと水色の軍服を着た人達が集まっていた。どうやら何かあったらしいな。僕がよそ見をしてる内に、白沢は誰かとぶつかった。相手は剣を持っていて髪が青く、青色のマントとミリタリーワンピースを着ていた女性だった。
「す、すみません。全然前を見ていなくて」
白沢が謝ると女性は
「こちらこそすみません。お怪我はないですか?」
と応対してくれた。僕は慌てて駆け寄り、
「すみません。目を離したら、どこかへ行っちゃうもので」
と謝った。すると、
「いえ、こちらも急いでいたところでして、周りが見えてなくてすみませんでした」
と長々と謝り返した。すごい親切な女性だな。そう関心すると
「そろそろ時間が無いので、これで失礼します」
と言って別れた。彼女の背中を見るとサファイア騎士団の紋章と同じだったから、どうやらサファイア騎士団の関係者らしい。何かあるなと思い、体の一部を伸ばして彼らの話を聞くことにした。
「いまの状況はどうなっているの?」
「はい、詳しく捜査した所、あの地下に姫様が囚われているもようです」
「何てことなの!姫様が誘拐されるなんて」
「我々も耳を疑いましたが、どうやら監視の目をくぐって脱出したそうです。その時に誘拐されたのかと・・・」
「今日がこの国の生誕祭なのは知ってますが、この後は姫様のスピーチがあるのに。いいかお前達、このことは我々しか知らない極秘の任務だ!何としてでも発見し保護するのだっ!!」
「はっ!!」
そう言ってバラバラに別れた。どうやら、この国のお姫様が攫われてらしい。あの時、情報が入って来てなかったから、ついさっきの出来事だろう。
「ね、ねぇ、何があったの?」
「どうやら、お姫さんが誘拐されてとよ」
「ゆ、誘拐!それじゃ・・・」
「ああ、たぶん宝華と一緒だ」
そう思い、アインス達に情報を送った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いたた~。ここはどこ?」
宝華は檻の中で再び目覚めた。どうやら、今度は両手両足を固定してるらしい。二度と暴れないように。何とか振り払おうとするも。頑丈で作られているため簡単には外れなかった。
「く、早く逃げないと・・・」
「無理です。ここから出る方法はありません」
と反対側の檻から声が聞こえた。よく見ると声の主は女性だった。髪は白く、青いドレスを着ていた。
「あなたは?」
「私はこのミニストの王女、”エリザベス・ドンニンテー”と申します」
「お、王女ってことは・・・お姫様!!」
宝華は驚いた。お姫様ってことは、ここは日本ではないということ。ということは海外か?しかし、ドンニンテ―って名前、聞いたことがない。一体ここはどこなんだ?
「私は今日の生誕祭が楽しみでして、お城からこっそり抜け出して楽しもうと思っただけですのに・・・偶然ここの人達がここに入っていく所を見られただけで捕まってしまうなんて、王女として恥ずかしいですわ」
どうやらこの子は、目撃者として誘拐されたらしい。こんな偶然あるかな。でも、一人よりかはましだ。話相手がいてくれたから。
「そ、そうなんだ・・・。あははは、私は有川宝華。よろしくね」
「アリカワ ホウカ?珍しい名前ですね。一体どこの国の者ですか?」
「え、そりゃ日本という国だけど・・・」
「二ホン?それは一体どういう国なのですか!詳しく教えたください!」
えっ⁉日本という国を知らない⁉ということはここは海外でもなく、もはや地球ですらないってこと!じゃあ、ここ一体どこなのー!しばらく思考回路がぐちゃぐちゃになった。エリザベスは困惑していた。すると、奥から扉が開く音がした。入って来たのは黒ずくめの男達で宝華のいる檻の中に入った。そして、
「ったくこの女、手こずらせやがって」
そう言って宝華をスタンガンで気絶させた。それを見たエリザベスは
「なぜ彼女にこんなことをするのですか!」
と聞いたが、
「それはお前の知ることじゃねぇ。貴様も同じ運命を辿るのだからな」
と言い放って檻から出た。それからまた別の人間が入って来た。今度は白衣を着て、眼鏡を掛けたぼさぼさ髪の男性と女性2名、あと数名いるぐらいだった。
「悪いね、トップバッターで。大事な商品やから丁重に扱え」
そう言って鍵を開けようとした時、ドーンッと大きな音がした。
「一体何事だっ!」
カメルが通信機に問いかけると
『侵入者です。黒い服を着た女共が、ぐわぁぁぁっ!』
「ど、どーしたー!」
カメルが問いかけるも返答は無かった。黒い服に女だって⁉まさかっ!!
「ええい、大至急お前達もいけっ!!」
「はっ!」
と鶴の一声で動いた。
「お前達も相手をしてやれ!」
「貴様に命令される筋合いはない」
「眠いですぅ~」
「非常事態なんだっ!つべこべ言ってないでお願いっ!」
そうお願いすると二人ともいやいやながらも部屋を出て行った。
「さあ、これがうまくいけたら・・・」
そう思って注射器を手に取るも
「悪いけど、お邪魔するわ」
と誰かが入って来た。サイバーパンクマスクをしてたがルシカ達だった。カメルは彼女たちを見て恐怖した。
「な、何なんだお前は・・・」
『お久しぶりね。我らはノワールファミリー。闇を愛し、闇を支配する者』
研究室には緊迫した空気が流れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、行くぞっ!」
「う、うんっ!」
僕は白沢と一緒に基地に入った。ほかのみんなは別ルートから入っているから正面の入り口には二人しかいなかった。
「そうだ、これをつけよう。君もこれをつけて」
と言って白いドミノマスクを渡した。僕は黒いドミノマスクをつけた。マスクをつけると、次第にマスクが変形していき、サイバーパンクマスクになった。顔まで隠していて、声もボイスチェンジャーで変られるため、潜入用に作った物だ。みんなにも前日に渡しておいた。
「何だか変な気分」
「文句は禁止。黙って進もう」
その後奥へ歩くと、戦闘員がぞろぞろ押しかけてきた。
「止まれっ!さもないと殺すぞっ!!」
と剣や銃を取り出した。しかし、僕はそんな物には驚かなかった。彼女は後ろに隠れているけど。前に新しい魔法を作ったんだった。ちょうどいい、実験体になってもらおう。早速僕は手をかざした。
『下衆と話す暇はないんだ。”邪魂吸収”』
と唱えると、指先から黒い線が現れて、戦闘員の体に刺さった。しかし、痛みは無いらしい。実際、何かをされてるわけでもなく、血も出てない。
「こけおどしだっ!続けぇー!!」
と戦闘員が押し寄せて来た。
『だ、大丈夫なのっ⁉』
『大丈夫だっ!僕から離れるなっ!!』
と白沢は後ろで身震いをしていた。絶対絶命かっ!そう思った時、突如戦闘員が次々と倒れて行った。特になにもしてないのに、まるで魂を抜き取られたかのように倒れて行った。さすがの彼女も戦闘員も何がどうなったのか分からなくなっていた。
「い、一体何が起こったんだ?」
焦る戦闘員に僕は
『いや、ちょっと魂を抜いただけだよ』
と答えた。魂を抜いたっ⁉あまりの衝撃に言葉を失ってしまった。まあ、あんなのを見たらそうなるな。ちなみにこのオリジナル魔法邪魂吸収、生きている者の魂を抜くだけの魔法だ。魂でゴーストやモンスターを作っている時に、魂が無くなってしまったから探しにいったけれど、中々見つからなかった。だったら、生きてる者の魂を奪おうと考えた。しかし、奪う相手は誰でもいいって訳ではない。ただ、クズ共なら大丈夫だ、何しろ気に食わないから。例えば、グレゴリーの連中とかね。現実に戻そう。戦闘員たちは怯えてしまって、中には逃げる者もいた。
『せっかく面白くなってきたんだから、もうちょっと遊んでよ。あ、言っとくけど、僕は最初からクライマックスだぜ!』
そう言って戦闘員たちを次々と倒していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれこれやってもう奥まで来てしまった。魂も十分確保出来たし、あとはアイツの救出だけか。しばらく歩くと、大広場らしき場所に出た。ここは一体何の部屋なんだ?そう思っていると
「ここは英雄と勇者の魂を持つ者を観察するための部屋だ」
と誰かが言ってきた。誰だ?と辺りを探していると、前の扉が開いた。すると、中からシスターとあの時会った女がいた。
「お前達は誰なんだ?」
僕は二人に問いかけた。すると
「私はウェヌス・キャナリィ。こっちはメリウス・サイゼリアだ」
と答えてくれた。あ、教えちゃうんだ。こういうのって”教える必要はない”とかそんなことを言うのかと思っていたら、すんなり教えてくれた。でも、せっかく自己紹介してくれたしこっちも挨拶をするか。
『我が名はノワール。通りすがりのスライムだ』
「スライムぅ~?全然スライムではないんですけどぉ~」
『え、あなたスライムなの?普通に人間だけど?』
まあ、初対面の人には分からないか。まあでも、いずれ知ることになるけど。するとウェヌスが
「そんなスライムがこんな所になんの用だ?」
と質問してきた。
『なに、ある人間を回収するだけだ』
と答えた。もう血を吸われている頃合いだと思うし、さっさと行くか。
『それじゃあ、そこをどいてもらおうか?』
と素通りしようとした時、急に雷が落ちて来た。
「悪いが、そうという訳にもいかないのよ。私達はあなた達を足止めするためにここに来たのよ」
とウェヌスが答えた。どうやら、さっきの雷攻撃は彼女らしい。ここを通さない気だな。なら、無理にでも通るしかないか。
『では、お前たちの相手をしてやろう。ここからは僕のステージだ!』
「面白い。相手になってやろう。サイゼリア、お前も戦うぞ!」
「は~い、かしこまりましたですぅ~」
『え、えっと私もやるの⁈』
ここから四人の戦いが今始まった。




