異世界はスライムとともに
「じゃあ、また明日」
下校時間になったので、みんな学校から帰っていた。中には部活に参加する人もいたが、僕はそんな余裕はないので帰るのだ。僕は宝華と優衣、ほのかと3人で帰っていた。3人とは途中まで道が一緒なため、登下校もいつも一緒なのだ。もうかれこれ小学生からずっと通っている。
「じゃあ、私はこの辺で」
「私もここで」
「じゃあ、また明日」
「ん、じゃあね」
家近くになるとみんなバラバラになった。しばらく1人で歩いていたが、頭にピコピコっと何か来た。これは何か知らせにきたのだな。これは僕が作ったオリジナル魔法”念力通信”だ。この魔法は別の世界にいながらも、通信が出来る便利な魔法だ。一応みんなに持たせているから誰でも使える。
『ノワール、奴らが動きだしたという情報をわ』
声の主はアインスだった。彼女は今、ミニストで情報収集しているんだっけ。それで情報ってなんだ?
『一体どうしたんだ?』
『さっきゴースト達が帰ってきたわ。報告によると組織の連中が地球に向かったらしいわ。おそらく敵も情報を見つけたのよ。もしかすると、地球から女性を誘拐する気よ』
『そいつは困ったね。地球に行ったのは少人数なはずだ。ここで問題をおこすと面倒だからね』
『あなたの言う通りよ。連中はほとんどがここ、ミニストにいる。ほかの話によると地球に向かったのはたった2人だけらしい』
2人だけだって⁉そんな数で数人誘拐できるのか?ただ、されど2人だ。きっと実力者に違いない。となると、ここで暴れるのは面倒だ。
『分かった、僕も後でそこに行く。奴らはあそこで始末する』
『なるほど、奴らを泳がせて箱に入った状態で戦うのね』
『ああ、こっちで戦うよりは楽だと思ってね』
『では先にこっちで準備を進めるわ。敵の親玉のほうだけど・・・』
『それは僕が片付けよう。ちょうど、腕がなまってた所だし。そっちは好きにやっていいよ』
『分かったわ。情報が入り次第、また連絡するわ。くれぐれも気を付けてね』
『そっちもね』
そう言って、通信を切った。僕はにやけが止まらなかった。なんだか、映画みたいなことが起こったからだ。敵に誘拐された人を、ヒーローではないアンチヒーローが助ける。こういうシチュエーションを待っていた。
「さてと、遊びに行きましょー!!!」
僕はルンルンで帰った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま」
その頃、白沢は家に帰っていた。彼女の家は邸宅みたいな家に住んでいて、家政婦もいる。彼女の父が先代から続く”白沢財閥”の会長で彼女の母もそこで社長をしてるらしい。なのですごいお嬢様なのだ。彼女が帰宅すると、中から家政婦の人が門を開けた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ただいま、おばば」
白沢はおばばと名乗る女性に挨拶をした。彼女は先代からずっと仕えている家政婦らしく、おばあちゃんのように慕っているのだ。部屋に入ると制服を脱いで、部屋着を着た。今度は机に座って宿題、復習と予習をし始めた。白沢家たる者、結果をきちんと収めなければならない、これが家訓らしい。だから、彼女も結果を出せるように努力をしているのだった。すると、窓に何かが通りかかった影が見えた。窓を振り向くと、そこには誰もいなかった。怪しいと思い、ベランダにでると
「こんにちは、まさかあなたから出てくるなんてね」
右から声がしたので、振り向くとそこには女性がいた。そう、ウェヌスだ。
「きゃっ!!」
白沢は驚いて後ずさりをした。部屋に入ろうとするも、ウェヌスが窓を閉めて逃げられなくしたのだった。怖がっている白沢にウェヌスは
「あまり乱暴はしたくないの。私と一緒についてきて」
と同行を要求するも、白沢はベランダから逃げ出した。ベランダの下は庭のテラスになっており、木も生えていた。昔、部屋から出る時によく使った所だった。なので、白沢は壁をつたって木の方に飛びついた。下に降りると庭にあるサンダルを履いて助けを呼ぼうとしたが、何とおばばが倒れていたのだった。
「おばば、しっかりして!」
まだ息はあった。どうやら気絶させられたらしい。白沢が安心していると
「そうそう、警備システムもオフにしたから助けは呼べないわ」
後ろから声がしたので振り返ると、そこにはベランダにいたはずのウェヌスがおったのだ。
「ど、どうしてこんなことをするの・・・?」
「どうしても必要だからだ。それ以外ない」
「あなたを通報します」
そう言って白沢がポケットからスマホをとるも
「呼ばれては厄介なので、そろそろ眠っていただきます」
と言って彼女の後ろに回り、首をトンッと気絶させ彼女を担いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、僕は家に帰って準備をしていた。トランクに色んな物をつぎ込んでうるのだ。このトランク、実はたくさんの荷物をいれることが出来るのだ。中身は宇宙みたいな空間になっているが、魔法の力で普通のかばんになったり、別世界に繋がるワープ能力も備わったり、中に施設や庭がある面白いかばんなのだ。だから、わざわざ荷物を複数のかばんに詰める手間が省けるのだ。さて、出かける準備は終わった。次は分身を作った。家に誰もいないのでは怪しまれるので、見た目と性格がそっくりな分身を置くことにした。さて、出ようとするも玄関から出ると家族に出くわす可能性があるので窓から外にでた。誰にも見つからないよう、人気のない場所を探している所に悲鳴が聞こえた。その場所に行ってみると、何と白沢の家で誰かが倒れていた。時間は無いけれど、助けたほうがいいかな。そう考えていると、白沢がやってきた。同時に上から女性もやってきた。どういう状況なんだ?しばらくじっと見てると、白沢が謎の女性に気絶させられた。ん?もしかして、これは誘拐か?しばらく見てると、女性は手を伸ばして黒い緞帳を出した。もしかしてこいつ、異世界人か?となると黒い緞帳を出す手間も省け、秘密を聞き出せるかもしれない。そう思って中に入った。すると
「貴様、何者だ」
と声がした。辺りを探してみると、何と後ろに立っていたのだった。どうやら気付かれたらしい。ここはモブっぽく答えるほうが吉かな。
「あの~、怪しい者ではありませんが」
「貴様、今までのやり取りを見ていただろ?よって貴様を排除する」
「排除ってええ~!!」
彼女は剣を取り出して、僕に切りつけようとした。間一髪避けても、次の攻撃がやって来た。あぶな、しかも速い。どうやら、速さが売りらしい。避けるので精一杯だった。このままここで遊んでは予定が狂ってしまう。なので
「悪いけど、君と遊んでいる時間はない。ここで一旦退却するよ」
と言って、黒い緞帳の中に入った。その時、白沢も一緒に持って行ってしまったが、そのことに気付くのはもう少し後であった。
「ちっ、逃げられたか」
ウェヌスは剣を収めた。ただ、彼女には疑問が残った。なぜあの攻撃をかわせたのか。普通なら速くて、気が付いたら切られていたということが多いのに、なぜあいつはかわすことが出来たのか。また、逃げる時に門ではなく、わざわざなぜ黒い緞帳の方にいったのか?普通なら分からない代物なのに、あの男はあえてそっちにいった。これはもしかするとただの人間ではないな。
「まあ、私には関係のないことだが」
ウェヌスは考えることをやめ、彼女を回収しようとしたがそこに彼女はいなかった。どうやらさっきの戦いであの男が持ち去ったに違いない。
「・・・くそ、くそくそくそっ!!!」
ウェヌスは怒っていた。せっかく捕まえた獲物を横取りされたから。もう時間がない。しかたなく、元の世界に帰ろうとした。
「あの男、ただの人間じゃないってことがよく分かったわ。今度あったら、その時は絶対潰す!」
自分があの男を甘く見ていたせいで獲物を逃したことが許せなかったのだ。彼女にとってプライドをキスつけられたことに怒りを感じていた。なので、今度は殺すつもりでいたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う~ん、ここはどこ?」
目を開けるとそこは夜になっていた。白沢愛菜は目を覚ました。起きるとそこは家ではなく、真っ暗な森の中だった。
「こ、ここはどこー!」
白沢は大声を上げた。あまりの出来事にパニックになったのだ。スマホはあの時落としちゃったし、確認しようがなかった。
「ここは異世界。その中のキゲンデの北の方の森の中さ」
誰かが流暢に教えてくれた。辺りを見渡したが、誰もいなかった。
「あなたは誰なの?」
白沢は怖がっていた。立ち上がって探すと
「元気そうで何よりだ」
と後ろから声がした。あまりの怖さに白沢は
「きゃーっ!!!」
と僕を押そうとした。しかし、押してもビクともしなかった。恐る恐る顔を見ると、フードを被った黒い男が立っていた。フードの隙間から白い髪が風にあおられていた。
「我はノワール。通りすがりの男だ」
「あなたが私を助けてくれたの?」
「ああ。君が誘拐されそうになっていたから助けてあげた」
「え、あ、ありがとうございます。それでどうして私はここに?」
「すまない。逃げ出す時に君も一緒に連れてきたみたいだ」
「え、え~!!!じゃ、じゃあ、ここって・・・」
「ああ、地球とは違う別の世界」
あまりの出来事に白沢は絶句して、力が抜けたように座り込んだ。ここが異世界・・・?これは夢よ。夢なら覚めて。そう思い、頬を引っ張った。
「残念だけど、ここは夢ではない、現実だ」
事実を突きつけられて、白沢は混乱した。
「じゃあ、一生帰れないってこと?う、嘘よ。嘘に決まってるわ。なんで、こんなことに・・・」
白沢は泣きだした。まあ、いきなり異世界と言われても、混乱するだけだ。ショックが大きいのも分かる。僕も地球に来た時、混乱した。でもまさか、本当に異世界に行くとは誰も思わなかっただろう。とりあえず、彼女を落ち着かせよう。
「ただ、帰れないってわけでもない。我が地球に帰らせてやろう」
「えっ?」
「ここは異世界だが、手がないという訳でもない。お前を帰らせることぐらいは・・・」
話している時に、誰かから通信が来た。今度はツヴァイからだった。
『ツヴァイか、どうしたんだ?』
『はい、奴らの研究所の場所が分かりました。場所はミニストの首都、”ヨッコーハーマ”って所にあるそうです』
『なるほど。それでほかには?』
『それと何やら組織の関係者らしき人達が地下に出入りしていたという情報もありました。確か、3人ぐらいだったと聞いてます』
地下か。まさに悪の組織が隠れる場所にピッタリじゃないか。となると、地下に研究所らしき物がおいてあるに違いない。
『なるほど。で、そっちは何してるの?』
『はい、こちらは軍勢を街に送り込んでいます。その数、数百名以上です』
『なるほど、まあちょうどいいぐらいだな』
『それとさっき届いた情報ですが、被害者は全員あの地下にいるらしいです』
『それでみんな生きてるの?』
『今の所は大丈夫です。ただ、1人抵抗した者がいたようですが・・・』
ツヴァイは口を噤んだ。どうやら、そこに何かあったらしい。余計気になった。
『どうした?話してくれ』
『ですが・・・』
『構わん』
ここまで来るとどういう内容か気になっちゃう。報連相はきちんとしないとね。
『・・・わ、分かりました。その抵抗した人の名前は、アリカワホウカっという人なんです』
なっ!!あいつ、誘拐されたのか!あの霊長類2番目最強の女が!あまりの衝撃に言葉を失った。あいつを捕まえるとは、中々の強者だ。そういえばどうして彼女を知ってるかって?前に教えたことがあるからな。
『ど、どうかされましたか?』
心配するツヴァイに対して
『あ、ああ。なんとか大丈夫だ・・・うん』
一度ハプニングな出来事に驚いたが、冷静になった。
「一体どうしたの?」
横から白沢が聞いて来た。後で一応伝えておくか。
『あのー、そちらから女性の声がしたのですが、大丈夫ですか?』
『ああ、大丈夫だ』
あぶねー。そういえば白沢がいること忘れてた。危うくバレる所だった。まあ、地球に帰せば問題ないか。
『では、こちらも動きます。作戦はグレゴリーミニスト支部の襲撃です。同時並行に被害者の救出も行います。作戦の指揮はドリィが、アジトの壊滅をアインス様は隊長、私は補佐として動きます。またフィア、フェリカは先陣を、アハト、ジーナが後方に動きます。あとは・・・』
エリルが何を言おうとしたかは理解した。恐らく、あの3人を倒すつもりだろう。
『ふっ、悪いがその3人組は我が相手しよう。ちょうどやりたいことがあるしな』
『はっ、そのようにみんなに知らせておきます』
『さあ、楽しいパーティーの始まりとしよう』
そう言って通信を切った。白沢は何がどうなったのか、分からなくなっていた。
「ねえ、これからどうするつもりなの?」
「しばらく、遊んでくる。だから、ここで待つんだ」
「待つって・・・」
「あの向こうに洞穴がある。さっき確認したが何もいなかったから安心しな」
「・・・」
彼女は黙り込んだ。まあ、こんなうす気味悪い森の中で一人ぼっちにするのはかわいそうか。だから、安全な場所を教えてあげた。これは僕なりの優しさだ。さて、彼女をひとまず隠すか。そう思っていると
「ねえ、さっき誰と話していたの?さっき驚いたようにも見えたけど」
「それは君には関係ない。早く行く・・・」
「話してくれないなら、私も行く」
何言ってるんだ⁉これから殺し合いになるんだ。そんな場所に彼女を送ることは出来ない。何とかして説得しよう。
「これは観光でも旅行でもない。もしかすると死ぬぞ」
「だったら教えてよ。この世界のこともさっきの話のことも」
きっと彼女は納得するまで動かない気だ。時間もないし、ここでぐずぐずしては面倒だ。しょうがない、全てを話そう。一通り話したら
「そんなっ!宝華ちゃんが誘拐されたなんてっ!!」
正直こっちも驚いた。
「こうしちゃいられないわ。やっぱり私も助けに行く!」
「だから、やめとけって言ってるんだ!」
「このまま友達を捨てて逃げるなんて出来ないわ。だから、お願い、私も連れてって!」
そう言って白沢は僕の手を両手で握った。両手で握った手は震えていた。どうやら、覚悟は出来たらしいな。
「・・・もう後戻りできなくなるけど、覚悟の上だね!」
「当然よ、そのためだったら何だってするわ!」
学校では見たことがない顔と目をしてた。恐らく、これが彼女の本当の姿なんだろう。ならば、こうしてはいられない。
「いいだろう。ついてきてもいいけど、僕から離れないように」
「うん、分かったわ」
「それと・・・死ぬな」
「・・・うん?」
彼女はきょとんっとしていた。最後の言葉、それはまだ彼女は分かってないらしい。今はそれでいいかもしれない。だが、もしそういう現実を見てしまうと・・・。考えるのは今はやめよう。
「よし、行くぞ。そういえば、名前を聞いてなかったな」
僕は彼女の名前を知っているが、ここは知らないふりをしよう。
「私は白沢愛菜。よろしくね、色田 黒季くん!」
「ああ、よろし・・・んん?」
今、なんて言った。たしか色田黒季って・・・。どうして、名前を知ってるんだ⁉バレないように色々と隠したのに。そもそも一体どこで気づいたんだ?
「どうして知ってるかって?そんなのバレバレよ。不良に助けられた時があったじゃない?」
確かに思い出せば。あれが白沢と喋れるようになったきっかけがあの不良達だったな。そういえば、あの不良達は今もキゲンデのブンコー山の坑道で働いているしな。でも、まさかあの出来事だけで思い出すとは。
「それと何か雰囲気が似ていたからかな。それに手の感触も同じだったし」
どうやら細かい所まで見られた。流石に恥ずかしかった。
「ところで君はさっきノワールって名乗ってたけどあれってニックネームなの?」
うん、なんだか恥ずかしいな。名前知ってのそれはなんか複雑だ。まあ、それは置いといて。その後、フードを脱ぐと白いロングヘア―が出て来た。これが彼の異世界での姿だ。
「よ、よく見破ったな。そうだよ、同じ学校で同じクラス、隣の席の色田黒季だよ」
「やっぱり。ありがとう、あの時救ってくれて。それにしても髪が長いから女の子みたいだね」
「うるさい」
この世界で初めて笑った。抜け目のない女だが、なんか楽しい。僕もそういう過去があったな。しばらく干渉していると、遠くからドーンッと大きな音がした。
「もう始まったか」
「えっ?あ、そうか。ごめんね、長く付き合っちゃって」
「別に構わないよ。それよりも早く行こう」
「ええっ!!」
僕と彼女はミニストへ向かった。




