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響かなくても  作者: 蒼井音也
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1.心音メトロピアノーム

1.心音メトロピアノーム


それは夕焼けが教室を焦がす夏の日だった。

赤い日を深い青に沈めそうな、切ないピアノの音が音楽準備室の壁に当たる。一定のリズムを、ただ刻み続けるメトロノーム。一定の鼓動を、ただ繰り返す。

響く僕の心臓。刻む。


チャイムの音が鳴った。

「昨日の文化祭、最後の吹奏楽部の演奏良かったよ!」

「ありがとう。でも吹部大変だよォ、また明後日から練習」

「マジー?!頑張って」

鬱陶しく話すクラスメイトの隣を、少し足早に通り過ぎる。皆帰路に着くため階段を下っていく中、僕は登っていく。

なぜか。

ただなんとなく、帰ろうと思えなかったから。

ただなんとなく、高い所へ行きたかったから。

ただ、それだけ。

4階までゆっくり階段を登ったところで、どこからか、かち、かち、とテンポよく鳴る音が聞こえた。4階にあまり人もいないため、意外にもハッキリと聞こえてくる。

音が聞こえる方へ歩みを進めると、どうやら音楽準備室の中からなっているらしい。準備室の扉の前で、耳を澄ませる。

かち、かち、かち、かち。

「…メトロノーム?」

音楽準備室から鳴る一定のリズムと言ったら、きっとメトロノームだろう。吹奏楽部だろうか。

邪魔しない方がいいだろうと、引き返そうとすると、ふと、ピアノの音が聞こえた。

そっと池の上に水滴を落とすような、優しい音が聞こえる。波紋が広がった。

続けざまに、今度はメロディーを刻み始めた。池に小雨が降り出す。

僕はそのメトロノームとピアノの音につられるように、扉を開けた。

心臓が少し、強く脈打った気がした。

「あ…」

呟いたのは僕だ。見覚えのある女子生徒が、ピアノ椅子に座って鍵盤を叩いていた。

演奏を続けながら彼女は、自分の右側に立つ僕にちらと視線を投げて、直ぐに手元に目を落とした。

窓から差し込む赤が、彼女の頬を染める。

「こんにちは」

言いながら、開け放した扉から1歩だけ、彼女の方へ踏み出した。メトロノームと心臓が共鳴するように、響いた。

「こんにちは」

「なんの曲、ひいてるの」

彼女はよほど止めたくないのか、まだ演奏を続けながら、僕の方へ顔を向けた。陽の光が、彼女の瞳を輝かせる。

無意識に胸に手を置いた。

刻む僕の心臓。刻む。

「…心音メトロピアノーム」

メトロノームが響いた。

読んでくださり、ありがとうございました。

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