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死にたがりの神様へ  作者: ヤヤ
第七章 地下世界
98/100

97.泣いてもいいから

 



「なぁるほど、あの子の魔法で作られたトランプ兵か」


 アガラはそう言い、腕を組んだ。そんな彼女を前、トランプ兵は「お初にお目にかかりますぅー!!」と必死に頭を下げている。

 そりゃあ己を生み出した者の母親が登場したらこうなるのは仕方がないのかもしれない。


 大変そうだ。


 思いながら、リレイヌはトランプ兵を手に乗せたまま、「師匠」とアガラを呼んだ。アガラは「ん?」と口元に笑みを浮かべたまま小さな彼女を振り返る。


「……トランプたちは、もう元には戻らないですよね」


「ん? んー、そうだね。例え新たなトランプに新たな命を与えたとしても、ソレはもうキミの知る子達ではないと思うよ」


「そう、ですか……」


 しょもんと、心做しか落ち込んだリレイヌに、アガラは微笑んだ。微笑んで、彼女は語るように言葉を紡ぐ。


「リレイヌ。命あるものはやがてその命尽きる運命がある。ソレはきっと、変えてはいけない事柄だ」


「……でも師匠」


「……その子も随分と無理をしているからね。そろそろ、解放してあげないと可哀想だと思うよ」


「……」


 リレイヌはトランプ兵を見て、そっとアガラを見て、またトランプ兵へと目を向ける。

 トランプ兵はそんなリレイヌをじっと振り返っており、それがどうしようもなく悲しくなって、彼女は静かに目を伏せた。事の成り行きを見守る面々が、不思議そうに顔を見合せ小首を傾げる。


「……わかりました」


 暫くの沈黙の後、リレイヌが一言。


「うん。いい子だ」


 笑うアガラが片手を振ると同時、トランプ兵はリレイヌの手の中でボッ!!、と音をたてて燃えだした。突然のソレに慌てて彼女の名を呼ぼうとした皆は、そこで、はたと動きを止める。


 泣いていた。

 小さな彼女が、静かに涙を零していた。

 その涙を拭い取るように、トランプ兵は燃える炎の中から手を伸ばし、そっと彼女の涙を掬い取る。そして、トランプ兵は言うのだ。「笑ってください」と。


「お嬢様が笑っているところを見るのが、私は、私たちは大好きなのです。だから、笑ってください。これから先も、ずっと、ずっと……幸せに生きてください。私たちの大好きな、リレイヌお嬢様」


「……うん、ありがとう」


 へにゃりと、下手くそな笑みを零した彼女は、されど耐えられなかったようだ。震える口元を引き結び、深く下を向いて燃え盛る炎から目を背ける。

 トランプ兵はそんなリレイヌの手の上で、困ったように手を合わせながら、その視線を戸惑うリックたちへ。「お嬢様のことを頼みます」と告げるトランプ兵に、彼らは自ずと頷いてみせる。


「……ありがとう。お嬢様の大切な──大切に思われている皆様」


 あの時駆け付けてくれて、あの部屋からお嬢様を連れ出してくれて、本当に、本当にありがとう。


 告げるトランプ兵は、にこりとジョーカーの絵柄を笑顔にすると、そのままゴオッと燃え尽きた。小さな灰すらなく消え失せたトランプ兵の姿に、アガラはそっと目を伏せ、それから「睦月。アジェラ」とふたりの少年の名を口にする。


「薪を取りに行くから手伝ってくれ。あと水の補充もしないとだからそれも。リックはリレイヌとお留守番をお願いするね」


「え、あ……はい……」


「よし、じゃあ行くぞ二人とも」


 そう言いズルズルと連れて行かれる睦月とアジェラ。

 三人が消え去ったそこで、リックはそっと、俯くリレイヌに目を向けた。

 泣いているのだろう。ポタポタと透明な雫が彼女の衣服を握る手に落ちているのが見え、リックは即座に視線を他所へ。向けてから、あーだこーだ悩んだ末に、そっと、小さく震える彼女に近づいた。


「あ、の……リレイヌ……?」


「大丈夫?」、と問うたそれ。慌てて口を塞ぎ、大丈夫なわけないだろ!!、と内心で吠えた彼を知ってか知らずか、リレイヌはそっと顔を上げてリックを見やる。そして、未だ多量の涙を溢れさせながら、彼女はひどく綺麗に笑って見せた。


「……だいじょうぶ」


「私はだいじょうぶだよ」、と告げられた言葉に、リックは思わず目を見開いた。そして、震えながら、彼はそのだいじょうぶを否定する。


「……だいじょうぶなわけないだろ……嘘つくなよ……」


「うそじゃないよ。私はほんとにだいじょうぶだから……」


「……だいじょうぶな奴は、そんなに泣かない」


「これは……なんでだろうね。なんか、止まらなくて……」


 グシグシと、目元を拭う彼女の手を、リックは無言で捕まえた。それに不思議そうに顔を上げた彼女に手を伸ばし、彼は涙する彼女を抱き締める。


「……無理はしないでいい。ここに居るのは僕とキミだけだ。だから──」


「……だから、泣いてもいい」。告げたリックの言葉により、堰を切ったように溢れ出す涙。それを止めるすべを知らない彼女は、縋るように彼の胸元に顔を寄せ、口を噤む。


「リック……」


「うん」


「りっく……っ」


「……うん」


「こわい」と一言。そんな彼女を抱きしめるリックは、「そうだね」を一言。泣きじゃくるリレイヌの頭を、そっと、優しく撫でやった。

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