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96.ひょろ長ピエロ

「……なぁんだよ、結局仲直りとか……」


「全く、心配をかけるヤツらだ」


 リレイヌとアジェラ、ふたりの様子を遠目から確認しながら、睦月とリックは言った。お互いに頭の後ろで腕を組んだり、胸の前で腕を組んだりしている。

 そんな彼らの足下には、3人ほどの男たちが転がっていた。いずれも屈強そうな見た目のそれらは、グルグルと目を回して気絶している様子だ。


「しっかし、思ったより人間って雑魚が多いんだな」


 ふと睦月が言った。ぼんやりと上を見ていた彼の目線は、そっと隣のリックへと向けられ、やがて愉快そうに細められる。


「お前も雑魚だしよ」


「殺されたいのか貴様」


「おーおーやるってか? 底辺雑魚のお前に俺がやられるとでも?」


「貴様……!」


 怒れるリックが何かを言おうとしたその時だ。ふと、ふたりの顔に影がかかった。ハッとして振り返る彼らの視界に、ピエロのような化粧と服装をした、ひょろりとした大きな男が映り込む。


 ふたりは思わず硬直。その不気味な様相にだらりと冷や汗を流しながら、そっと一歩後ずさる。


「あのぉ、キミたち。すこぉしお聞きしたいことがあるのですが〜」


 ピエロ男が言う。にっこりと笑いながら。

 それを受けたふたりは勢いよく逃げ出そうとして、駆け出した。ピエロはゆっくりと、そんなふたりを見つめている。


「なんっだよアイツ!? お前の親戚!?」


「ンなわけあるか!! 寧ろ貴様の血筋の奴だと疑いたくなるが!?」


「あんなバケモンいてたまるかよ!! 大体!! 俺はれっきとした人狼家系であってだな!!」


 叫んでいる途中でグイッと後方に体が引かれた。何事かと振り返れば、ピエロの腕が長く、ながぁく伸びてふたりの足首を掴んでいる。

 サッと青ざめる両者。そんな彼らに、ピエロはゆっくりと近づいていく。


「ひッ!?」


「どどどど、どうすんだこれ!? どうすればいいわけこれ!?」


「知るか僕に聞くな!!」


「お前頭いいんだろーがよ!! その大して役に立たねえ脳みそフル回転させて考えろや!!」


「……なにしてるの?」と声。ハッと顔を上げたふたりが、不思議そうに佇んでいるリレイヌを見て慌てて叫ぶ。


「「来るなリレイヌ!!」」


「え?」


 キョトンと、リレイヌが目を瞬いた時だ。

 ピエロがぐるりと小さな彼女を見て、ぶるりと震えた。かと思えば、ゆったり、ゆったりと足を前に出して戸惑う彼女に近づいていく。


「ッ!! アジェラ!! いるんだろ!! リレイヌ連れてはやく逃げろ!!」


「え!? はい!? 睦月、なにし……えええ!!?? なんですかアレこわっ!!??」


 呼ばれて慌てて駆けてきたアジェラが、近づいてくるピエロを見てはわわと震える。そんなアジェラを気にも留めず、ピエロは長い腕を振るって騒ぐ睦月とリックを後方へ。投げ捨てられた彼らが立ち上がる前に、素早いはやさでリレイヌの目の前に移動する。


「リレ──!!」


 リックが叫びかけた、その時だ。


 ピエロはゆっくりと膝を折り、静かに己を見つめる彼女の前で頭を垂れた。そうして「うぅ……うぅ……」と唸り出したかと思えば、ポロポロと涙を流し始める。


「……キミ、もしかして──トランプのジョーカー?」


「「「え?」」」


 3人の声が揃う。と共に、ピエロは音をたててトランプの姿へ。黒い手足の生えた小さなそれは、ひらひらと舞ってから差し出されたリレイヌの手の中にちょこんと収まる。


「……探しに来てくれたの?」


 リレイヌが問う。


「うぅ……うぅ……っ」


 トランプはグズグズと泣きながら、その上体をほんの少し折り曲げた。


「お嬢様がご無事であるのは、母君であるシアナ様より聞き及んでおりました……ですが、ですがどうしてもお嬢様の元気な姿を一目見たくて……っ」


「そう……他のみんなは……」


「みな、殺されてしまいました。だれも、だれも生き残ったものはおりません……」


「……そう」


 悲しげに頷くリレイヌ。そんな彼女にトランプは言う。「助けられず、すみませんでした……」、と。


「お嬢様が、お嬢様が殺されるところを、喰われるところを、貪られるところを、見ていることしかできませんでした……シアナ様たちが、捕まって、連れて行かれるのを、ただ見ていることしかできませんでした……っ。私たちはお嬢様をお守りする役目を担っていたというのに、その役目すら果たせませんでした……っ」


「……そんなことない」


「いいえ……いいえ……っ! お嬢様! そもそも私たちがもっと警戒していればあんなことにはならなかったのです! 不用意にあの扉をあけなければ、あんなことにはッ!!」


 つん、とリレイヌの指先がトランプをつついた。それによりころりと転がったトランプを見つめ、彼女はただ、綺麗に笑う。


「誰のせいでもない。そうでしょう?」


「……っ、お嬢様……」


「……私、誰のせいにもしたくないから、この話は終わりにしよう。ね?」


「……っ、……」


 グズりと無いはずの鼻を啜ったトランプが、上体を一度、二度折り曲げる。それを肯定ととったのだろう。リレイヌは「師匠の所に戻ろっか」と朗らかに笑った。話についていけぬ面々が、そっと顔を見合せゆっくりと頷く。


「ジョーカーくんも、それでいい?」


「はいっ。お嬢様のお心のままに……っ」


「ありがとう」


「ありがとうね」と、もう一度零すリレイヌは、とても悲しげに微笑んだ。

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