94.彼らの気持ち
「睦月! そっち行った!」
「おっし任せろ!!」
ズドン!、の音と共に、六本足の奇怪な生き物が奇声を上げて倒れ込んだ。その上、刀を手に「よっしゃー!」と笑う睦月にリレイヌが「おー」と手を叩いている。
「これで四体目! なかなかいい感じだな! リレイヌも結構やった感じだろ?」
「うん! 私さっきので六体倒した!」
「……負けてんのかよ俺」
さり気なく落ち込む睦月を、リレイヌが不思議そうに見つめる。
「うん。リレイヌと睦月は筋がいいね」
こくりと頷き、アガラは視線を別の方向へ。そこで、これまた謎の、巨大な芋虫型の生き物に追われるアジェラとリックを見て、思わずと苦笑する。
「魔導を使わず剣技だけなんて無理な話だろこんなの!!」
リックが叫んだ。焦り顔の彼に、その一歩後ろを走るアジェラが叫ぶ。
「わわ!! リック様!! 前方からも変なのが!!」
「はぁ!!??」
スゴン、とふたりがイノシシ型の魔物に突き飛ばされた。哀れなその姿を、睦月が「だはは!!」と笑っている。
「リックとアジェラはまだまだかな」
地に倒れ伏したふたりの子供を見下ろし、アガラはカラリと笑った。さり気なく回復魔法をかける彼女により復活したふたりは、「こんなのできるわけない!!」と吠えたてる。
「おや、できるわけない? ならきちんとできているリレイヌと睦月はどうなるのかなぁ?」
「「ぐ、ぐぬぬ……っ」」
震える彼ら。悔しげな顔をするふたりに、睦月がカラカラ笑っている。
「……ふたりとも大丈夫?」
思わずと問いかけるリレイヌを尻目、ふたりは沈黙。地に伏したまま眉根を寄せると、そこでゆっくりと立ち上がってみせる。
「……リレイヌ」
そんなふたりを視界、アガラが少女を呼んだ。小柄な彼女は、不思議そうにアガラのことを見上げている。
「アジェラと一緒に町まで行ってきてくれるかい? 今討伐した魔物の討伐代を貰ってきてくれると助かる」
「はい、師匠。行こ、アジェラ」
リレイヌが声をかければ、アジェラは戸惑いガチに頷き彼女と共に町の方へ。残されたリックと睦月は、お互いがお互いを嫌悪するように睨み合いながら、んべ!、と舌を出している。
「……キミらは少しくらい仲良くしたらどうだい?」
「はっ! 無理に決まってらぁ! こんな奴と仲良くするなら死んだ方がマシってな!」
「それはこっちのセリフだ! 誰がお前みたいな奴と──!」
「はいはいそこまで。はぁー、ったく、少しくらいリレイヌを見習って欲しいくらいなんだけどなぁ……」
「あの子はみんなと仲良くしてるぞ」、と告げられ、ふたりは思わず「それはリレイヌだから」と返す。その息のあった言動にふたりがまた睨み合えば、アガラはそれを視界に腕を組んで嘆息。やれやれと首を振った。
「……てかさ、リレイヌは、アイツは大丈夫なのかよ」
リックを睨みつけるのを辞め、睦月は呆れ顔のアガラに問うた。問われたそれに、彼女は少し沈黙し、小さく返す。
「大丈夫とは?」
「オタクが睡眠薬盛ってきやがった日の夜……リレイヌと話してたろ」
「はは! 盗み聞きしたわけかい? ったく、これだから男の子はいけないなぁ」
「誤魔化すなよ」
静かな、それでいて怒りを押し殺すような一言。
アガラはそれに微笑むと、小さく目を伏せこう言った。
「きっと、大丈夫、ではないだろうね」
「……」
「いろいろあったし、いろいろ考えたい時期だと思う。あの子は賢いから、特にね」
アジェラとリレイヌ。ふたりが去っていった方向を見つめ、アガラはそっと、優しく告げた。
ひどく慈悲深いソレに、睦月もリックも黙っている。
「……キミたちは、こうなってしまったのは、あの子のせいだと思うかい?」
「は? んなわけ……」
「……キミはそうかもね。でも、リック。それにアジェラ。ふたりは違うかもしれない」
無言のリックを、睦月は睨んだ。「テメェ……」と低く唸る彼に、リックはチラリと視線を向け、顔を上げる。
「確かに、こうなった原因の一因は、正直彼女にあると思ってる。だが、僕は別に、だからといって彼女を攻めたてるつもりはない。というか、できない。したくもないがな」
「……」
無言の睦月。彼は何かを言おうと口を開きかけ、やがてそっとそれを閉ざした。そして、ハッとしたように町の方へ目を向ける。
「おっと、気づいたかい?」
アガラが笑う。優美に、美しく。
そんなアガラに大きく舌を打ち鳴らし、睦月は狼の姿へ。そのまま飛ぶような速さで駆けていく。
「は? なんだアイツ? いきなりどうし──」
はた、とリックが言葉を止めて、彼もまたアガラを見やった。美しく笑い続ける彼女に、彼はゾッとしながら踵を返し、消えた睦月を追うように走り出す。
「……キミらはそうかもね」
アガラは言った。
「でも、彼はそうは思ってないかもね」
優しく笑う彼女は、「さて、飯の支度でもするかな」と住処の方へ。腕を伸ばしながら帰っていくその姿を、地下の空の上にある目玉だけが、静かに見つめていた……。




