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89.生を拒む

「……うっ」


 小さなうめき声が口から零れる。

 それを耳に痛む体を無視して上体を起こせば、周りにゴミ山が形成されているのが確認できた。上を見れば、高い位置に巨大な目があり、その目は時折瞬きをしている様子だ。恐らくアソコからココへと落っこちたのだろうが……。


「……何処だろ、ココ」


 ぼんやり零して立ち上がろうとすれば、よろけて思わず倒れ込む。なんだか足が妙だとそちらを見れば、片足が変な方向に曲がっているのが見て取れた。どうやら落下した際に折れたようだ。リレイヌは無言で折れた足を見つめ、それから這いずるように近くのゴミ山へ。それに手を付きやや無理やりに体を起立させた彼女は、そのまま覚束無い足取りで前へ前へと進んでいく。


 少し進むと、ゴミ山の影にヒトの姿を発見した。「あの……」と声をかけつつその人物に近づいたリレイヌは、そこで思わず動きを止める。


 死体、だった。腐敗した死体。

 若干皮膚が溶け骨が見えているソレは、死後何年経っているのだろうか……。


 リレイヌはゆっくりとその場に座り込んだ。そして、己の纏う衣服のスカートをギュッと握りしめると、そのままひとり涙を流す。


 沢山の思いが、沢山の苦しみが、沢山の恐怖が、心の中に渦巻いていた。どう晴らせばいいかも分からぬそれを胸にグシグシと涙を拭えば、震える口からは自然と息が溢れ出す。


「……死んじゃえ」


 吐き捨てるように一言。


「死んじゃえ……」


 溢れる涙をそのままに、ギュッと衣服の胸元を握る。


「死んじゃえ……!」


 大きく頭を振り、声を吐く。


「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ……! 私なんて、死んじゃえば……死んじゃえばいいんだ…っ…!」


 そうすれば誰も傷つかなかった。

 そうすれば彼らは巻き込まれなかった。

 そうすればきっと、父も死なずに、母も苦しまずにすんだ。


「なんでっ、何のために生きてるのさっ! 何のために産まれてきたのさっ! 何のために、どうして、私は……っ!!」


 ボロボロと涙を流しながら、頭を掻きむしり縮こまる。そのままグズグズと嘆く彼女は、あまりにも小さな、小さな子だった。

 たったひとりの少女が背負うには、あまりにも大きすぎる業はきっと、彼女のちっぽけな背中にのしかかっている事だろう。


「もうやだ……っ、いやっ、いきてたくないっ、いきたくないよぉっ……」


 哀れにも生を拒み、嘆く彼女。そんな彼女の背後から、ひとつの足音が聞こえてくる。


「生きていたくない。確かに、そう思っても仕方がないことなのかもしれないね」


 穏やかな口調で告げたそれに、リレイヌは蹲ったまま肩を揺らした。そんな彼女に、声は静かに言葉を続ける。


「けれど、嘆くにはまだはやい。そうするには君はまだ、知らないことが多すぎる」


 声はそこでひとつ息を吐くと、にこやかな笑みを携え振り返る彼女を見た。穏やかに細められる青色の瞳に、涙する彼女はそっと目を見開いていく。


「さあ、立つんだリレイヌ。そうして進もう」


 大丈夫、きっと未来は明るいよ。


 告げたソレに、リレイヌははらはらと涙を流しながら手を伸ばす。伸ばされたその手を、その大いなる存在は、ゆっくりと握りしめた。

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