82.注射は凶器
「ひ、酷い目にあった……」
げんなりと告げたのは、落ち込むように肩を落としたアジェラだ。彼は隣で不機嫌顔になっているリックをチラリと見てから、食事をとり終え暇を持て余していた睦月とリレイヌにてこてこ近づく。
「おふたりとも、おはようございます」
使用人らしく、きちんと頭を下げた彼に「おう」と睦月が頷けば、その隣、リレイヌが「おはよう、アジェラ」と小さいながらもはにかんだ。
アジェラはそろりと下げた頭を上げ、不思議そうに目を瞬く。
「リレイヌ様、今日はぼーっとしてないんですか?」
「ん?」
「あ、いえ……ここに来てからいつもほら、様子が変といえば変だったので……」
「ああ、うん、そだね……」
困ったように笑うリレイヌにアジェラはこくり。一度頷いてから、「リレイヌ様はやはり今の方がいいですね」とにこやかに笑った。睦月が「そらそうだろな」と深く頷く。
「……どうでもいいが、ふたりは何をしていたんだ?」
そこに口を挟んだリック。
彼は不機嫌をそのままに、睨むように睦月を見ている。まるでその存在を良しとしない様な鋭い視線に、睦月は沈黙。すぐに鼻を鳴らして「飯食ってただけ」と一言。リックを見ないように顔を背ける。
「リレイヌも食べたのかい?」
「え? あ、うん……だめ、だった……?」
「あ、いや……そういうわけではないんだ。決して。勘違いしないでくれ……」
慌ててそう告げ、リックはリレイヌの方へ。不安げな彼女に笑うと、「元に戻って良かった」と一言。ふんわりと微笑んだ。リレイヌは曖昧に笑う。
「……ってか、お前らは何してたんだよ。なんかリジマのババアが魔導がうんたら言ってたけど……」
「一言でいえば健康診断を受けていた感じだな」
「は?健康診断?」
目を瞬く睦月に、助け舟を出さんとアジェラが口を挟む。
「本当に、そんな感じでした。身長とか体重とかはかられて……しかも血とかもめちゃくちゃ採られてしまって……うう……僕注射苦手なのに……」
ああなるほど。だから酷い目にあった、か。
納得したように頷く睦月は、「そりゃご苦労さんでした」と一言。落ち込むアジェラの肩をポンポンと叩くと「んで?」とニヤつきながらリックを見た。
「お前は情けなく注射嫌がったりしねーの?」
「するわけないだろうバカが。貴様らと一緒にするな」
吐き捨てるリック。不服だと言わんばかりの彼に、睦月は面白くないと言いたげに舌を出す。
「……注射ってなに?」
リレイヌがこそりとアジェラに問う。
「知らなくていい凶器のことです……」
アジェラは片腕を擦りながら、眉尻をこれでもかと下げて返事した。




