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81.普通の美味しさ

「……」


「……」


「……」


「……ぬぬぬぅ」


 簡素な机越し。まだまだ小さな少女──リレイヌを睨むリジマは、その隣、呑気に食事をとる睦月を見て「ちょっと説明!」と声を荒らげる。睦月はそれを鼻で笑うと、どこか警戒心を抱いているリレイヌの頭をポスポスと叩きながらニヤリと口端をあげて見せた。


「説明もなにも、わかんだろコイツ見たら。おたくのへーんな術が解けたってこったな。はいご苦労さん」


「腹立つガキねアンタはホントに……」


「そりゃどーも」と返す睦月に「褒めてない」と一言。

 リジマはじぃーっと己を見るリレイヌを視界に映すと、少し考え片手を差し出した。その動作に、リレイヌがビクリとびくつく。


「おい、怖がらせんなよ」


「怖がらせてないわよ。これは挨拶。イッツコミュニケーション」


「どうでもいいけど飯食う邪魔しないでくんね?」


「腹立つガキねホントにアンタは!!」


 怒鳴るリジマを無視し、睦月はリレイヌに「食わねーの?」と訊ねた。訊ねられたリレイヌはそっと目の前にある食事を見て、顔を上げ、リジマを見て、また視線を下げて食事をみる。そうしてグッと眉間にシワを寄せる彼女を、リジマは「変な子」と一言で称してみせた。睦月が「テメェも変だけどな」と吐き捨てている。


「アンタはホント!!」


「はいはい。……ってか、アジェラたちは? 今日なんか異様に遅くね?」


「あの二人なら魔導の研究の助力をしてもらってる所。そのうち来るでしょ」


「ふーん」


 頷き、食事を再開する睦月。リレイヌはそんな睦月を見て、そっと目を瞬き首を傾げた。


「……美味しい?」


「存外。リレイヌも食ってみろよ」


「私は……」


「──お前は悪くない」


 ピクリと反応したリレイヌに、睦月は告げる。

 酷く優しく、穏やかに。


「お前は悪くない。だから気負うな」


「……でも」


「いいからほれ、食えって。美味いもん食ったら食っただけ元気でるだろ?」


「……」


 恐る恐ると匙を掴んだリレイヌが、目の前の食事をスっと掬って口に運ぶ。そうして少し躊躇った後匙の上の食事を口に含んだ彼女は、ポロポロと幾多もの涙を流しながら、ごくりとそれを嚥下した。


「……」


 リジマはリレイヌの様子を見ながら、罪悪感が膨れる心をそのままに、そっと彼女から目を逸らした。そうして腕を組み、沈黙する彼女に、睦月は「これでわかったろ?」と告げる。


「リレイヌは、普通の女の子だ」


「……そうね」


 本当に、そう。


 告げて部屋を出ていくリジマ。残された2人は静かになった部屋の中、無言で食事を続けるのだった。

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