66.おめかしと疑問と
艶やかな黒髪に、青色の羽の飾りをつけて。
青を基調とした綺麗な衣装に身を包んだリレイヌは、今自分の身に起こっていることに疑問符を浮かべながら目の前で満足そうに頷くリックに目を向けた。
悪夢の日から二日経った今日。リレイヌはシアナと共にリピト家へと招かれ、なぜかめかしこまれていた。
何がどうしてこうなっているのかさっぱり分からない彼女に、リックは何も言わない。どころか、なんの説明もなしにそのまま時を経過させると、めかしこんだリレイヌを一瞥。時計を確認してからうん、と頷く。
「いい頃合いだ。行こう」
「うん? どこに?」
「決まってる。リピト家主催のパーティにさ」
決まってるとはこれ如何様に。
何も分かっていないリレイヌが不思議そうにする中、リックは彼女の手を取るとその場にいるメイドたちに一言二言告げて部屋を出た。ガチャリと閉ざされた扉の奥から、「あの子、すんごい可愛かったー!」とキャピキャピした声が聞こえるのは気のせいだろうか……。
目を瞬きながら今し方出てきたばかりの扉を振り返るリレイヌを隣、リックは「シアナ様は先に会場にいるそうだ」と一言。キョトンとするリレイヌの手を引き歩き出す。
「パーティ会場はウチの屋敷の離れにあるダンスホールで行われる。もう開場は済んでいるはずだから、恐らく僕たちは最後の参加者になるだろう」
「……あの、リック」
「質問は後で。今は急ぐよ」
さっさと、しかしてきちんとリレイヌの歩幅に合わせて歩くリックに、彼女は内心疑問を抱きながらも何も言わずにその隣を歩いた。
広い屋敷の長い通路を進み、離れの屋敷に着いた時だ。「おーい!」とかけられた声にふたりの足は自然と止まる。
振り返れば、リオルたちがそこにいた。きちんとした正装に身を包み片手を上げてニコニコ笑う姿は、どこか怒っているようでもある。
リレイヌが明るく笑い、リックが不満げに舌打ちした。
それににこっと笑ったリオルは、ズカズカとリックの方へ。ごほんっ、とひとつ咳払いをしてから、恭しく頭を下げる。
「これはこれはリピト家現当主のリック様。今宵は我々シェレイザメンバーをリピト家主催のパーティにお招きいただきありがとうございます」
「……誘った覚えはないんだがな」
「あなた様のお父上殿から、わざわざ、召使いを使ってまでの丁寧な招待状を受け取りましたので」
「父上ぇ……ッ!」
恨みがましく告げるリック。リオルはそんな彼に表情を無にすると、「まあそれとこれとは別にさ」と一言。ポン、とリックの肩を叩く。
「君のやり方、僕きらいだなぁ?」
「……なんのことだか」
「とぼけるなよ。わざわざこんな大っぴらに発表の場を作って。外堀埋める気満々じゃないか」
「なんの、ことだかな」
素知らぬ顔でそっぽを向いたリックにあからさまに舌を打ったリオルは、すぐにリレイヌに顔を向けるとにこりと笑顔に。背後でソワソワするアジェラと何も言わぬ睦月を無視して彼女の整えられた髪に指を触れる。
「相変わらず、綺麗だね、君は」
「? ありがとう!」
「ふふ、素直でよろしい。……それよりリレイヌ、君、今回のこの件何も言わなくて良かったの? このままじゃリックの思い通りになっちゃうけど……」
「? どういうこと?」
不思議そうなリレイヌ。
リオルがそんな彼女を視界、もしやとリックを見れば、彼は何も言わずに顔を背けて沈黙。そのまま停止するその姿に、リオルは「まさか……」と目を見開く。
「言ってないのか!?」
「……言う必要がないからな」
「いやあるだろ! リレイヌのこれからの人生に大いに関係あることなんだぞ! 何お前、そん……ヘタレかよ!!」
「ヘタレじゃない!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐふたり。リレイヌはそっとアジェラに寄ると、こそりと「ふたりともどうしたの?」と問いかける。
アジェラはそれに「さあ?」を返すと、すぐに佇まいを直して頭を下げた。そしてすぐに顔を上げ、「おめでとうございます!」と一言。
「リレイヌ様の正式なるご婚約、僕、嬉しいです!」
「……うん?」
うん?、ともう一度。
疑問を発するリレイヌに、全てを察していた睦月は深々とため息を吐き出した。




