127.美しいその姿
嗚呼。なんて、なんて嘆かわしいのかしら……。
この世はとても残酷で、苦しみがたくさん蔓延っている……。
いけない……いけないわ……誰かが終わらせないといけないわ……。
そうでなければ、“あの人”はきっと、ずっと笑えない……。
嗚呼。どうか、どうかお願い……。
どうか、この悲しい世界を、滅ぼさせて……。
どうか、“あの人”を救わせて……。
もう二度と、傷つくことがないように……。
たくさん、たくさん……。
殺させて……。
◇◇◇
「おー、まじで繭じゃん」
睦月が言う。感心するように。
キラキラと星屑が舞うように。小さな煌めきが降り注ぐ中、ソレはそこに存在した。
眩く輝く白い糸が幾重にも折り重なったソレは、睦月の言う通り繭だった。
目にいたいほどの明るさを放ちながら堂々たる姿で存在する繭。人の倍、いやそれ以上に大きなソレは、ドクンドクンと脈打ち、まるで鼓動しているようである。
「敵は、何故こんなものを落としたのでしょうね……」
アジェラが言う。不思議そうに。
それに「さてな」と答えたリックは、ちらりと傍らのリレイヌを見て目を瞬いた。無言で眉を顰める彼女は、まるで軽い痛みを耐えるかのように頭に片手を当てている。
「……どうした?」
問いかけるリック。
「……声が、して……」
告げる彼女に、「声?」と睦月が目を向けた。
「どんな声だ?」
「うん……嘆かわしい、とか……救わせて、とか……いろいろ……たぶん、あの繭の中から……」
「……」
黙り込んだ面々。そろりと繭を振り返る彼らは、不審そうに顔を歪める。
「……中に何かいるんだろうなとは思ってたけど……なに? いるのは知能ある系のヤツ? もしかしなくても……」
「だとしたら厄介だな。知能系の敵は無駄に頭が回る。こちらの弱点をついてくる可能性があるぞ」
「お前の弱点とかな」
「黙れ殺すぞ」
静かな殺意を睦月に向けるリックを、アジェラがどうどう、と宥めた時だ。
まるでガラスにヒビが入るような、甲高い音が周囲に響いた。同時に輝く繭に割れ目が出来る。
一斉に構える軍の面々。それを眺める睦月たち一行。
リレイヌはその中でひとり、ハッと目を見開き、くるりと周囲を見回した。そうして小さく息を吐き出すと、即座にその場から走り出す。
「うお!? リレイヌ!?」
驚く睦月の声をよそ、彼女は真っ直ぐにリンの元へ。そうして手を伸ばして彼を突き飛ばした瞬間、けたたましい音を響かせ空気が揺れた。驚きに悲鳴が上がる中、今までリンのいた場所を見れば何者かがそこに居るのがわかる。
「な、何者だッ!!」
叫ぶ軍の者。武器を構えるその人物をゆるりと見たその存在は、液が溶けるように崩壊した顔面に笑みを貼りつけ、にこりと笑った。
「『殺させて』」
直接頭に響くように、美しい女の声が周囲に響き渡る。それに反応するよりも先に、ブクブクと膨張した何者かの腕が、武器を構えていた者の顔面を貫いた。
「せ、セルドッ!!」
誰かが叫び、セルドと呼ばれた人物が、顔面を貫かれたままハクハクと口を動かす。そうして小さく「たすけて」を口にした彼を投げ捨てたソレは、ゆっくりとリレイヌを支えるように座り込むリンに目を向けた。
「『殺させて』」
美しいソレの口元から漏れる音。
全員が全員、一斉に構える中、ソレはゆっくりとリンの元へと向かい歩く。
一歩、一歩。近づくソレに彼が構えようとしたその時だ。
ボトリと、ソレの腕から何かが落ちた。思わず目を向けた先にあるのは、小さな装飾を施されたひとつの腕飾り。
リンが目を見開き、動きを止めた。思わずと口元を抑えた彼は、その現実を目の当たりにすることを拒むように、震えながら近づいてくるソレを見る。
「『殺させて──にいさん』」
ソレが笑う。
口元だけであるにも関わらず、美しいと思える笑みを見て、リンは脱力するように腕を下ろした。




