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124.語られる真実

 ──それは、今でも忘れられない、ひとつの小さな命の消失。その場面。


「喰え!!! お前らも喰うんだ!!! 有り得ないくらい美味い味だ!!! この世にまたとない味だ!!! 幸いにもこのガキは黒髪、つまり禁忌!!! 喰っても誰も文句は言わないっ!!! 俺らは不老不死になり得るんだ!!!!」


 何度も何度も振り下ろされる凶器の先。息絶えた子供の体を切り開き貪る大人たちの、なんと醜いことか。


「ほら! ウェロも喰え! めちゃくちゃに美味いぞ!」


 渡された肉片を恐る恐る食めば、確かに、この世のどんなモノよりも甘美で蕩ける味が口いっぱいに広がった。


 欲しい、もっと。


 依存にも似た思いを何とか振り払い、ウェロは努めて冷静に駆けてきた子供の母親を攻撃。地に伏せさせる。


 その間にも喰らわれ続ける子供。悲鳴ひとつあげず死んでいったその姿に、なんとも言えぬ気持ちを抱いて、ウェロはそっと目を伏せる。


 はじまりは呆気なく。

 世界は残酷に回り始めた。




 ◇◇◇




「──十何年か前、俺と、とある村人たち数名は古代の森と呼ばれる場所に向かった。森の奥には魔女が住んでいると、そう噂があったからだ」


「魔女、って……」


「……理由はあった。同時期、シェレイザ家の次期当主とその護衛が度々家を空けて森に入っていくのを幾度か目撃した奴がいたんだ。ソイツはオツムが回らなかったんだろうな。俺なんかに相談を持ちかけてきやがった。『きっと、あの方々は魔女に誑かされているんだ』、と……」


「……」


「……こっからはリオルに聞け。そっちの方が詳しいだろ」


 吐き捨てたウェロにより、その場の視線はリオルの方へ。戸惑いガチに向けられるそれらに、彼は震える息を深く吐き出し口を開いた。


「……幼い頃、俺と睦月がリレイヌとまだ出会って間もない頃だ。古代の森の奥で静かに暮らしていたリレイヌたち家族が何者かに襲われる事件が起きた。リレイヌは生きたまま貪り喰われ、リレイヌの母親と父親は村に連行された。そこで虐げられていた彼女の父親は絶命。母親も瀕死の状態でリピト家、シェレイザ家の両家により救出された」


 ポツリ ポツリ


 語るリオル。

 その顔色は決して晴れやかなものではなく、寧ろ大きな絶望が彼自身を包み込んでいた。


「それはそれは酷いもんだったぜ。抵抗もできねえガキひとり囲んで食い荒らす村人たちの姿はよ。その後、村に戻ってチビの両親を虐げる老若男女の姿はよ。戦争なんてものよりも残酷な光景……思い出しただけでも震えちまうね」


「てっめぇ……ッ」


 バキリ、と机にヒビが入る。手に力を込めすぎたが為のその破損に、アジェラが「おち、落ち着いて!」と睦月を引っ張った。


「何が悪いんだよ。確かに父親の方は死んだかもしれねえが、チビもチビの母親も生きてんだ。結論それだろ? 別にキレることねえじゃねえの」


「何をいけしゃあしゃあとッ!! あの時リレイヌがどんな思いでいたと思ってるッ!!」


「は! んなの知るかよ。興味もねえし」


 片耳に小指を突っ込み、告げるウェロ。その所作に怒る睦月が尚も何かを言おうとした瞬間、「ちょ、ちょっと待ってよ……」とストップがかかる。柊だ。

 彼女は今の話を頭の中で噛み砕きながら、腕を組んで眉をひそめた。そして、言う。


「リレイヌが貪り喰われたって言うけど、そんなこと有り得るはずがない。だってこの子は今、こうして生きてるじゃない。話と矛盾が生じるわ」


「……セラフィーユの血族。聞いたことくらいあんだろ? 世界を創り、見守る神の中の神。世界最高神、創造主龍神。それが──そのチビの正体だよ」


「……」


 驚いたと言いたげにリレイヌを振り返る柊。軽く汗を滲ませる彼女を横、リンが「なぁるほどねぇ」と頷いた。


「どうりで古ーい古代魔法を弄れちゃうわけだ。なにかあるんだろうなぁとは思ってたけど、うん。納得いったよ」


「え、それだけ? もっと驚くことないの?」


「別にないかな」


 あっけらかんと告げたリンに、柊は黙った。

 ウェロがそれに対して「テメェはそういう奴だわな」とボヤいている。


「だってさぁ〜、事実は事実でそこにあるんだし、驚いたりしても無駄な労力じゃん? それに、リレイヌちゃんだってあんまり詮索されたくないだろうし、総司令だって別に端から端まで真実を言いたいわけではないでしょ?」


「……まあ、それは……」


「んじゃこの話はココでおーわり! リレイヌちゃん、ご飯食べに行こ〜」


「ほへ?」、と目を瞬くリレイヌの手を引き、リンはルンルンとスキップ混じりに退室。消えたふたりの背を見送った他の面々は、それぞれがそれぞれ、複雑な表情を浮かべてそこにいる。


「……なぜ神殺しの道を選んだ、ウェロ」


 問われる静かな疑問。


「……嫌いだったからな、何もかもが」


 吐き捨てたウェロは、そのまま逃げるように退室。睦月が悔しげに机を叩く姿を尻目、そっと開きっぱなしの扉を閉めた。

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