123.関係性の有無
作戦本部 会議室
柊たちの案内の元、リレイヌたちが連れてこられたのは大きな円形の机が存在する広い一室だった。机の周りには数脚程の椅子が囲むように置かれており、それらと似通った椅子のストックが部屋の隅にちょこんちょこんと並べられている。
「ココが……?」
「会議室よ。あなた達は来るのはじめてよね?」
話す柊を先頭にリン、リック、アジェラ、睦月、リオルが続き、最後にリレイヌがその部屋に入った。そうして後ろ手に扉を閉めた時だ。「やっと来たか」と声が響く。
リレイヌの顔が微かに強ばり、そんな彼女にリオルが目敏く目を向けた。
「あら総司令。もう来てたの?」
「当然だろ。お前ら呼んだのは他でもない俺だ。呼びつけた張本人が不在は笑えねえ」
「それはそうね」
言って、柊は皆を代表するように前へ。何故ここに自分たちを呼んだのか、改めてと問いかける。
不思議そうなその質問を受け、総司令ことウェロはごほんと咳払いをひとつ。「とりあえず座れ」と椅子を示し、皆が着席するのを待ってから口を開いた。
「お前らを呼んだのは他でもない、そこのイケメン、アジェラ、睦月、それからチビ助の今後について話すために呼ばせてもらった。わざわざ足を運ばせて悪いな」
「睦月たちの今後って? どうすんだよ。俺なんも聞いてないけど?」
「それを今から話し合うんだ」
疲れたようにため息を吐き出し、ウェロは机に手を付きながら言葉を続ける。
「まず俺の提案だ。柊隊に睦月とアジェラ。デルヘム隊にイケメンとチビ助を編成したいと考えている。各自の力量、力配分を考えるとそう分けるのが妥当だろう」
「正気? ウチの隊は特攻隊よ? それにリンの隊だって同じようなもの……杏やドンの隊に編成した方が良いんじゃないの?」
「言ったろ。各自の力量と力配分を考えるとそう分けるのが妥当だ、と。柊隊長はこの軍内で一、二を争うほど腕のたつ槍使い。一方デルヘム隊長は現在負け無しの銃使いだ。お前ら以外にコイツらの面倒見れる輩はいねえだろ」
「そう……は言っても……」
困ったように、不安そうに目線を横へと向ける柊。悩ましげな彼女の様子を隣、リンが陽気に「俺は別にいいよ〜」とのんびり告げた。「ちょっとリン!」、と柊が勢い余って立ち上がっている。
「別に良くない? 隊の人数がひとりふたり増えたところでそんな変わらないし、それに俺は麗しのリレイヌちゃんともっと居たいしぃ〜?」
「……アンタほんっとに可愛いものに目がないわね」
「だぁって可愛いんだもの!!」
キャイキャイと騒ぐリンを冷めた目で見つめ、ウェロは再び咳払いをひとつ。喧嘩するように言い合う隊長たちを無視して、チラリとリレイヌを見てすぐ目を逸した。リオルがその所作に眉をひそめて片手をあげる。
「四人を各隊に編成するのは俺も賛成だ。編成する隊に関しても反対はしない。この二人なら十分に睦月たちの実力を発揮させてくれると思うしな」
「そりゃ良かった」
「ああ。……ただ、ちいとばかし疑問なんだけどよ。──ウェロ。お前、一体リレイヌになにした?」
まるで、鋭い刃物を喉元に押し付けるように、リオルは問うた。冷たいその声色に、騒いでいた隊長ふたりも、睦月たちも、不思議そうな顔で表情を消したリオルを見やる。
「……別に何も?」
ウェロはただ一言、そう言った。気怠く細められた漆黒の瞳が、まるでこの現状をヨシとしないように細められている。
「何も? 何もしてないって? 本当にそう言い切れるのか、ウェロ」
「……なんだよリオル。なにかそのチビ助に吹き込まれでもしたか? それとも、確証も何も無くただ言ってるだけか?」
「……俺は人を見る目がいいんでな。ふたりの様子を見て何らかの関係性があると踏んだ。それだけだ」
「ほぉ、そりゃご苦労なこって──おいチビ」
ビクリと、リレイヌの肩が跳ね上がる。そんなリレイヌを見下すように見つめ、ウェロは言った。
「お前からもなんか言ってやれよ。『私と総司令は初対面です。なんの関係もありません』。そう言やコイツも納得すんだろ」
「……そ、れは……」
「なんだ? 言えねえのか? おいおい冗談止めてくれよな。こんな簡単な“嘘”もつけねえなんて──ほとほと禁忌は面倒で困る」
リオルと睦月が弾かれたように立ち上がり、睨むようにウェロを見た。アジェラとリックが互いに顔を見合わせるのを横、「禁忌?」と柊とリンが声を揃えて首を傾げる。
「ウェロ、テメェ……リレイヌに何しやがったッ!!」
「さてな。昔のことなんて覚えてねえよ。それに、万が一にも俺がソイツに手え出してたとして、お前らに何ができる? たったひとりの、声も出せねえガキひとり、守れなかったお前らによ」
「……ウェロ、お前まさか……」
リオルがサッと青ざめ、睦月の睨みが増した。ウェロはそんなふたりを視界、「傑作だったぜ?」とケラケラ笑う。
「無抵抗のガキを捕まえて、生きたまま貪り喰らう村人たちの姿は最高だった。その後現れたコイツの母親の土下座も面白いもんだったよ」
「……あの家に、村人たちを手引きしたのはお前だったのか……? リレイヌたちが傷ついたのは、全部お前の……?」
「なんだ? まさか考えもしなかったのか? シェレイザの血縁が、てめぇの身内が神殺しの大罪に加担したなんて、想像も出来なかったか? これだから平和ボケしたポンコツはいけねえよ。ま、お陰で俺はなんのお咎めもなく過ごせてたんだがよ」
青ざめたリオルが頭を抱える。今にもウェロ相手に食ってかからんような睦月を止めながら、アジェラが「ど、どういうことですか……?」と俯くリオルを見た。
リオルは何も言わない。何も言わずに、ただ俯かせた瞳を震わせている。
「……話が逸れてますよ」
皆が困惑に塗れる中、ふと響いたソプラノ。耳心地の良いその音を発した張本人であるリレイヌは、まるでこの話題をはやく終わらせたいと、そう言いたげに言葉を紡ぐ。
「今は私たちの今後を決める話し合いの最中ですよね? 無駄話はこの辺にして、そろそろ話をまとめませんか?」
「……それもそうだな」
ウェロはリレイヌに向けていた視線を背けると、柊、それからリンを見た。
「ひとまず、コイツらのことはお前らに任せる。鍛えるなりなんなり好きにしろ。ってことで解散していいぞ」
「それは良いん、だけど……」
「少なくとも、なにか訳ありの子任されるんだったら俺、今の話でもなんでも詳しく聞きたいけどね」
「んなら聞きてえやつだけ残れ。最も、今からの話は虫酸が走るような内容しかないけどな」
吐き捨てたウェロが椅子に座る。そんな彼を見つめる皆の視線は、不安と心配、それから並々ならぬ興味に彩られており、ウェロはそれが不快だと言いたげにため息をひとつ。向けられる視線を一身に受けながら、口を開いた。




