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119.肩に乗るモノ

「わぁ、容赦なぁ〜い」


 きゃらきゃらと笑う敵。楽しげなそれを悔しげに睨むリレイヌの傍、立ち上がったアジェラが「大丈夫ですか」と声をかける。リレイヌはそれに頷くと、刀を手中で回し、再び構えた。リンがその姿を横目、すぐに視線を敵へと向けてこう告げる。


「アジェラくん。俺が敵を誘き寄せる。その間にキミは特大の魔導を。俺諸共焼いてもいいからぶっ放してくれる?」


「えっ、で、でも……」


「いいから。リレイヌちゃんはアジェラくんの援護ね。魔導発動までには多少の時間がかかると思うから、邪魔されないよう守ってあげて」


「は、はい……」


 頷くリレイヌににこりと笑い、リンはそのまま銃を構えた。そして、素早く二発の弾丸を発砲。敵が避けたのを見計らい、その場から迷いなく走り出す。


「おおっと! 銃使いが突っ込んでくるなんて! キミは死にたがりなんだねぇ!」


 べパルは笑い、リンに対し挑発気味にそう言った。かと思えば、彼は突っ込んでくるリンに対し大きく跳ぶと、そのまま片足を上げてみせる。


「おらよっ!!」


 勢いよく振り下ろされたべパルの足。それがリンの頭部に直撃する――直前だった。

 リンは勢いよく回転すると、横に転がるように攻撃を避け、そのまま敵の懐へ。驚くように目を見開いたべパルの顎下に小型の拳銃を突きつけると、容赦なく発砲した。

 べパルは痛みに呻き、軽くふらつきながら後ずさる。


 それを許さぬように追撃するリンは、べパルの片腕を掴み、それを思い切り自分の方へ。引き寄せるように引っ張ると、倒れかかった敵の懐に新たに三発、銃弾をお見舞いした。

 至近距離の発砲、そして感じる痛みに、べパルはぐるりと目を回す。


「ほい、これで最後」


 言って倒れた敵の頭に容赦なく数発の弾丸を落としたリンは、驚くリレイヌとアジェラを振り返りにこっと笑う。


「ごめん、魔導いらなかったわ」


「「……」」


 無言の二人。リンは「え、なになに? どうしたの?」と不思議そうに目を瞬いている。


「……つよ」


 シンと広がる静寂を裂くように、リレイヌが言った。それに同意よろしく頷くアジェラは、思わず震えながら展開しようとしていた魔導を解除。「隊長ってすごいんですね……」と感心したように呟いた。


「え~? なになに? もしかして惚れた? リンちゃんかっこいい~! とか思っちゃった?」


「……まあそれはさておき、人質たちはどうしましょう」


「あ、さておくのね……はい……」


 ちょっぴり寂し気に、告げたリンは震える人質たちを振り返ると、「まあ、大本倒したから大丈夫とは思うけど……」と一言。さめざめと涙を流す彼・彼女らを見て困ったような顔をする。


「まだ何かされてる可能性がある以上、この人たちをなんの検査もなしに連れ帰るのは無理だろうね」


「検査すれば問題はないんですか?」


「一応ね。そういうのに特化した専門医がウチにはいるから、ソイツに言って調べてもらうのが得策だけど……」


「……なるほど」


 頷くリレイヌ。感心混じりの彼女をじっと見て、リンは「あとこれは疑問なんだけどさ」と、小柄な彼女に対しこう言った。


「リレイヌちゃん、なんかトラウマでもあるわけ? 敵を斬る直前、ほんの少しだけど躊躇いが見えるよ」


「え……」


 驚いたように目を見開くリレイヌに、リンは無言の視線を向ける。探るような、問い詰めるようなそれに、彼女は思わず目を逸らして下を向いた。わずかに滲む冷や汗が、彼の疑問に正解を唱えている。


「戦いに私情を持ち込むと碌でもない目に遭うのはわかるよね? キミのその戸惑い、躊躇が敵に小さな余裕を浮かばせた。褒められることじゃないよ」


「……すみません」


 零される謝罪。小さく震える少女の両手。

 リンは静かにその場で膝を折ると、「何があったの?」と優しく問いかけた。その、ひどく心地の良い声色に、リレイヌは瞳を震わせながらぽつりと零す。


「……尊敬する人を、殺しました」


「優しいあの人を、私が終わらせました……」


「私が……私があの人を――皆の師を、殺したんです……」


 それは、地下世界での後悔。小さな肩に乗るには、あまりにも大きすぎる罪。


 アジェラが思わず言葉を発しようとしたのを止め、リンは静かに俯くリレイヌを見つめる。

 リレイヌはその視線を受けながら、震える声で続きを紡いだ。


「はじめて、ヒトの体を斬った感覚が、まだ抜けないんです……師匠の笑った顔が、眠るように死んでいった姿が、頭から離れなくて……その敵を斬る直前、思い出した感覚に、思わず、わたし、わたしは――」


「……」


「――ココで……死んでしまえたらなと、思いました……」


 だから、アジェラが気付かない程度に、力を抜いた。敵を斬る直前、刀を少し引いた。

 操られた子供に捕まった時でさえ、どうとでも出来たのに指示があるまで何もしなかった。


 ぽつりぽつりと零される事実に、アジェラは震えた。知らなかったでは済まされない、そんな事実に、彼は思わずその瞳に涙を滲ませる。


 わかってたはずだ。知ってたはずだ。

 彼女が誰よりも優しいことを。誰よりも無理をすることを。

 そして、その無理を、ひた隠すことを……。


 無言で拳を握るアジェラを背に、リンは黙ってリレイヌに手を伸ばした。そして、ぱちんと、軽い音をたててその柔らかな頬を軽く叩く。


「ココは戦場。私情は持ち込むべきじゃない。でないと、他の奴らも巻き込まれる。救えるはずのものも、取り零すことになる」


「……はい、すみません」


「……まあでも、キミの抱えたモノに気付かなかったのは、隊長である俺の責任だ」


 言って膝を伸ばしたリンは、ぽんと、俯くリレイヌの頭に手を置いた。そして、困ったように笑い、言う。


「お咎めは帰ってから。二人で怒られよっか」


 告げたリンは、騒がしくなる外に目を向け、「もうちょっと頑張れる?」と二人に問うた。アジェラもリレイヌも、そんなリンの疑問にすぐさま首肯。無言の「大丈夫」を返す。

 リンはそれに笑うと、武器を手に外へ。その背を見送ったアジェラは、未だ俯く彼女に、戸惑いがちに声をかけた。


「……あの、リレイヌ」


「……ごめん。巻き込もうとして」


「そ、そんなことは良いんです! 結果死んだりしてませんし! ただその……僕も、リレイヌの気持ちに、気づいてあげられなくて……すみませんでした……」


「……」


「……行きましょう」


 そっと差し出される片手。たくさんの想いが乗せられたそれを静かに掴み、リレイヌは建物の外へ。人質を見張るよう伝令を受けた兵と入れ替わり、外へと踏み出す。


「……おもたい」


 肩に乗る、たくさんの荷が、自身を押しつぶしているようだった……。

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