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116.多大なる愛

「嘘でしょ……」


 空に咲く、赤色の光。

 大きく輝くそれを視界、アジェラは敵の首を鎖で締め上げながら「やっぱり僕らがあっちにいた方が良かったのでは……」とポツリと零した。

 そんなアジェラをよそ、倒した最後の敵を踏んずけたリレイヌは、「多分、人質になんらかの問題があったんじゃないかな」と一言。アジェラが不思議そうに目を瞬く。


「問題、といいますと……?」


「そこまでは見てみないことには分からないかな……とりあえず、あの人たちと合流しよう。ココで暴れてても現状変わらないしね」


「そうですね」


 ポイ、と敵を放ったアジェラと共に、リレイヌは走り出す。向かうは合図が上がったその場所。人質がいるエリアだ。


「……しかし、妙だとは思わないかい?」


「? 妙、とは?」


「敵軍の数さ。異様に少ない気がする。まるで誘い込まれてるような気分になるくらいにはね」


「あー、確かに。言われてみれば少ないような……」


 ちらりと背後を振り返りながらアジェラは言った。その間、すれ違う者は誰もいない。それに一抹の不安を抱く彼を横、リレイヌは周囲を気にするように目線を横へ。軽く眉間に皺を寄せ、見えてきた味方軍を前方、走る速度を落としていく。


「リンちゃん隊長」


「お、早いね。そっち大丈夫だった?」


「はい。問題ありません。そちらは……」


「うん。問題大ありかな」


 困ったように笑うリンに言葉を止め、リレイヌは視線を人質が捕まる建物の中へ。そっと扉を開いて中を確認すれば、そこには何十という人々の姿が確認できた。皆怪我は無さそうだが、顔色がとても悪い。

 リレイヌはパチリと目を瞬き屋内へ。アジェラが着いてくるのをその背に感じながら、無言で涙する人質たちを見つめる。


「……なるほど」


 ぐるりとその場を見回して、リレイヌはこくりと頷いた。視界に映る、人体にかけられたであろう複合魔法。その痕跡を見て、思わずと顔を歪めた。


「人質は、彼らの証言によれば現在爆弾化している様子。このまま国に連れ帰れば大きな損害が出るだろう」


 告げた黒髪の男に、アジェラがぽつりと「爆弾化……」と零した。不安そうに眉尻を下げる彼を傍、リレイヌはちらりと男を見て目を逸らす。


「……リンちゃん隊長」


「ん、なに?」


「……十五分、時間をください」


 言ったリレイヌに、リンは訝しげな顔に。なったかと思えば、外から聞こえてくる複数の足音を耳に「わかった」と一言。頷いた。

軍を率いて外へと出ていく彼を見送り、リレイヌはどうしようかと悩むアジェラに声をかける。アジェラはそんなリレイヌにゆるりと視線を向けた。


「アジェラ。出入口を見張っててくれるかい?」


「は、はい。構いませんが……何するつもりです?」


「複合魔法の解除」


 言って片手を上げるリレイヌ。その手の先から漏れる淡い光に呼応するように、人質たちの体を優しい色合の光が包み込む。

 人々は驚きつつも、目の前で佇むリレイヌを見つめた。涙で濡れた複数の瞳が、期待を孕んで、小さくも可憐な彼女をしっかりと映し込んでいる。


 それから十分程度が経過した頃だろうか。リレイヌはそっと手を下ろし、それに呼応するように人質たちを包む光が消えた。共に、バキンッという破壊音が建物内に大きく響く。いくつもいくつも鳴るソレは、どうやら人質たちの胸元から聞こえてきているようだ。


「あ……まさか……!」


 男のひとりが衣服の中を覗き込んだ。そして、そこにあるはずの──魔法陣のような模様が消えていることに気がつく。

 男は堪らず立ち上がり、「模様が消えてる!!」と叫んだ。それに触発されるように、他の人質たちも胸元を確認。消えたソレに弾けるように喜び出す。


「……成功、ですかね?」


 アジェラが問う。


「一応ね」


 告げたリレイヌは、腰元の鞘から刀を引き抜くと、素早くその刃で“飛んできた何か”を斬った。瞬間、彼女の目の前で、切った何かが光り出す。


「っ!!」


 咄嗟に防護魔法を展開した彼女の前、人質たちの中より、小さな男の子が立ち上がった。その男の子はふらりふらりと足を動かし、慌てて道を開ける人質たちの中を通り前方へ。構えたリレイヌとアジェラを見て、忌々しげに顔を歪めた。


「なんだいなんだい。何者なんだい。ボクの、ボクのせっかくの愛を打ち砕くなんて。許されない。許されないなァ……!」


 告げる男の子の顔がボコボコと歪み、変形。やがてそれが終わると、そこに立つのはひとりの小柄な少年となる。


 水の色を宿した長い髪をそのままに、アメジスト色の瞳でリレイヌたちを睨みつける少年。丈と袖の長い衣服を身にまとった彼の腰元からはサメのような尾が生えている。


「何者ですか」


 アジェラが問う。それに、少年は「べパル」と一言。ダンッ!!、と強く床を蹴った。


「ッ!?」


 咄嗟に動き、持っていた刀で少年・べパルの攻撃を防いだリレイヌ。小柄な割に強力すぎる蹴りを放った彼から一度距離を取り、リレイヌは安否を問うてくるアジェラに片手をあげ、握った刀を構え直す。


「何止めてんだよ。受け入れろよ。ボクの愛を。ボクの想いを。ボクは全人類をこんなにも愛してるんだぞ。止めるなよ。止めるんじゃないよ。ボクを否定するなよなァ!!」


 ドンッ、と音がしたかと思えば、べパルの頭上に複数の魔法陣が展開される。と共に、リレイヌとアジェラの頭上にも、それとよく似た魔法陣が展開された。

 アジェラがすかさず魔導を発動させ、魔法陣たちを相殺。消し去っていく。


「! その力……」


 驚いたように目を見開いたべパルは、次の瞬間、狂気に顔を歪ませる。楽しげに笑んだその歪な姿に、リレイヌは思わずと眉を寄せた。


「お前! そこの男! お前、イフリート様のお力を貰ったな! いいぞいいぞ! そういう事ならボクの愛も伝えやすいということだ! 受け入れろ! 受け入れろ! ボクの多大な愛を受け入れるんだ!!」


「……何言ってんですかこの子供」


「知らん。私に聞くな」


 やや興奮した様子の敵に思わずと呟いたアジェラにピシャリと返し、リレイヌは人質たちの前に防護魔法を張った。その隙に、アジェラが鎖鎌を敵に放つ。


「ああ! いいねいいね! 愛だね! 愛を感じるよ! とてつもなく深い愛情を感じるよ!!」


 鎌を避けたべパルは、そのままくるりと宙で回転。ストンと屋内の柱に着地すると、絶対におかしい角度からアジェラたちのことを見下ろし、笑う。


「愛をもっと、ちょうだいなァ〜!!」


 叫ぶソレに、アジェラとリレイヌは構えをとった。

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