114.事を運ぶ
バルキア共和国。そこは、海に囲まれた巨大な国であった。
今現在、戦いの真っ只中であるためか軍の姿が多いそこを、睦月とリックは遠くから見つめて頷いた。その後ろ、柊が「ねえ、本当にやる気?」と不安そうな声を発している。
「さすがにあなた達みたいな若い子を囮にするなんて気が引けるわ」
「大丈夫です。囮はコイツだけなので」
「言い方うっぜ」
そう言い、顔を歪める睦月。
彼は羽織ったマントに付いたフードを深く被ると、数本のナイフを片手に建物の陰から敵陣を見つめる。
「……警備に十五。見張りは五。……マジで言ってる?」
「なんだ? 怖気付いたか?」
「んなわけ」
告げて、睦月は走り出す。
勢いよく建物の陰から出た睦月を、見張りのひとりが見つけた。そしてそれは口を開こうとして、突如現れた水に顔面を覆われパニックになる。
その間、睦月は素早く三人ほどの警備を倒し、次いで巡回中だったふたりを襲った。早い手捌きで上手く気絶させたそれらを眼下、「あと十」と呟く彼は背後より振るわれる短刀を華麗に避けると、そのまま敵の肩の上へ。戸惑い混乱するそれの頭をゴキリと捻り、ぴょんと地面に降り立った。ドサリと倒れた敵が、呆気なく撃沈する。
「? なんだ? 何かあったか?」
と、新たな敵が現れた。不思議そうな顔でやって来たそれにナイフを投げ、睦月はぐるりと回転。背後より迫ってきていた敵の攻撃を上手く躱すと、そのまま勢いつけて敵の顔面に蹴りを入れる。
「お、おい! 大丈夫かお前ら!?」
「敵襲! 敵襲だ! はやく増援を呼べ!!」
「相手はひとりだ! 畳かければいけるぞ!!」
騒がしい敵陣にニヤッと笑い、睦月は向けられる銃口に対抗するように片手を上へ。そうして魔法を展開しようとした直後、まだ残っている全ての敵が突如発生した水に覆われ、暫くした後に気絶した。
思わず真顔になる睦月に、物陰から出てきたリックが鼻を鳴らす。睦月はそんなリックを忌々しそうに睨みつけた。
「手出しすんなよ。こっからが良いとこだってのに」
「これ以上時間をかける気か? 目的は一刻も早い人質の解放だぞ」
「チッ、うるせえヤツ」
ふん、とそっぽを向く睦月を尻目、「行きましょう」とリックは柊を振り返る。柊は戸惑いながらも「え、ええ……」と頷くと、駆け出したふたりを軍を率いて追いかけた。その際、ちらりと倒れた敵軍を見て、思わず額に冷や汗を滲ませる。
「(この子達、一体何者……?)」
戸惑いを心の内に浮かべつつ、柊は口端をあげる。
たったふたり。しかしてその並々ならぬ実力に、背筋が震えるようだった。
◇
「──あちらの首尾は良好のようですね」
片耳を抑えてそう告げるのは、まだ幼さの残る顔立ちを有した美しい少女・リレイヌ。そんな彼女の言葉を聞き、軍を率いる隊長・リンは「へぇ、分かるんだ?」とにこやかに笑った。長身の銃を一丁その背にかるった彼は、隊服のズボンのポケットに手を突っ込みつつリレイヌの様子を伺っている。
「それ、魔法とかそういう類のやつ? それで連絡取り合ってるの?」
「はい。通信機器とは違い音がクリアに聞こえるのでたまに近くにいるのかと錯覚してしまいますが……」
「へぇ、おもしろ。良いなぁ〜、俺も魔法使いになれたらなぁ〜」
「……」
ふい、とリンから目を背け、リレイヌは傍らのアジェラを呼んだ。呼ばれたアジェラは手に持った鎖鎌の鎖部分をグルグル回すと、やがてパシリとそれを受け止め「大丈夫です」を口にした。
暗にいつでも行けると告げる彼に、リレイヌは頷き刀を引き抜く。
「私は右を」
「僕は左ですね。了解しました」
言って、駆け出す両者。
素早い動きで見張りらしき者を約三人ほど戦闘不能にした彼・彼女らにリンは堪らず汗をかく。
「リンちゃん隊長、お早く」
「あ、ああ、うん。りょーかいしましたぁ……」
自信なくすな、と後ろ頭をかいてから、リンは軍を率いて敵陣に突入。さっさと倒されていく敵軍を戸惑いガチに見つめながら、駆けるふたりを追いかける。
「よい、っせ!」
アジェラが倉庫前にいた見張りを倒し、リレイヌが倒されたそれを死体蹴りよろしく踏んで扉の前へ。そっとそこを開け放てば、そこには大量の武器や弾薬が積み重ねられていた。
アジェラが外から倉庫内を見回し、「武器庫のようですね」と一言告げる。
「どうします? 燃やしときますか?」
「そうだね。相手の持ち物が減るのは大変有難いし、そうするのもありかもしれない。──リンちゃん隊長、どうします?」
フラれたリンが「お任せします」と困ったように笑った。それに頷いたふたりは、あれやこれやと話し合ってから、今一度顔を見合せ頷き合う。
「では、ココから我々は陽動に移りますのでリンちゃん隊長たちは人質の方へ。出来るだけ敵陣営をこちらにかき集めますのでお早く救助をお願いします」
「りょーかい。無理しないでね、ふたりとも」
軽く敬礼し、そしてその場を離れるように走り出すリン。軍を連れたその後ろ姿を見送ったふたりは、ちらりと互いを見やってから軽く鼻から息を吐き出す。
「あの方で大丈夫なんでしょうか……」
不安そうなアジェラ。
「まあ、仮にも隊長だし大丈夫なのでは?」
さらりと告げて、リレイヌは開きっぱなしの倉庫を振り返り、アジェラを見た。アジェラはそれに呼応するよう頷くと、ブツブツと口の中で何かを唱え、それから魔導を発動させるべく片手をあげる。
「ボル」
ひとつ。声を発した直後だ。
紫色に染まる炎が火薬の上に現れた。そして、それらはアジェラが手を下に下ろすと同時、一切の迷いなく火薬に引火。ふたりがサッとその場から離れた直後に、大きな音をたてて倉庫は爆発。黒い煙を上げながら燃え上がる。
「……はじめるよ、アジェラ」
リレイヌが言う。集まってきた敵軍をちらりと見て。
「はい。共に舞いましょう」
アジェラは鎖鎌を構えつつ、冷戦なリレイヌに対しそう言った。そして、ふたりは共に地を蹴り走り出す。
「敵襲ー!! 敵襲だ!! 相手はふたり!! 怯まず行けぇええ!!」
敵の隊長各らしき者が叫ぶのを視界、ふたりは左右に別れて敵陣に突撃。たった三分余りで全ての敵をねじ伏せるのだった。




