110.失くす者
「ココが男諸君の皆が寝泊まりする場所ね!」
言いながら開け放たれた扉の向こう。雑に並べられたゴザの上で眠る、軍の制服を身に纏う者らの姿が確認できた。リック、睦月、アジェラの顔が思わず「うわぁ……」という風に歪む中、リンは「リレイヌちゃんはこっち〜」と小さな彼女の肩に手を置き、そっとその体を押して移動させる。
リレイヌが案内されたのは小さな個室だった。然程広くもないその部屋には、簡素なベッドと最小限の家具がポツンポツンと置かれている。
「……一人部屋、ですか?」
思わずと問うたリレイヌ。
「かわいい女の子をムサい野郎共の巣窟には放り込めないからね」
言ってウインクしたリンは、後ろ手で部屋の扉を閉めると「それで?」と一言。不思議そうに振り返るリレイヌの目の前でしゃがみ込むと、「なんか辛いことでもあったの?」と柔く問うた。
「……いきなりなんですか」
不審そうに返すリレイヌ。リンは笑って「いんやぁ?」と紡ぐ。
「ただなんとなく、自分を押し殺してそうだなと思っただけ。何かをひた隠しでそうだなーって、ね」
「……そうですか」
「うん」
ニコニコ笑うリンに、リレイヌはそっと視線を横へ。そのまま逸らすように顔を背ける彼女に、リンはそっと笑みを深めて「似てるなぁ」とひとつ。ポツリと零した彼に、少女は訝しげな顔をする。
「……妹がいてね。生きてたらキミより少し上かな? くらいの子。あの子は……そうだな。なんでもかんでもこう、抑え込むタイプの子でさ。今思えば、もう少し気にかけてやってたら良かったのかもなぁって……」
後悔の色を映す橙色の瞳。悲しげに細められるそれを見て、リレイヌは思わず口を開け、それを閉ざす。
リンはその間にも「かわいい子なんだよ! キミみたいなほんっとに目に入れても痛くないくらいかわいい子!」と妹自慢をはじめた。両手を組み合わせ、「フリフリのワンピースとか着せたら似合っただろうなぁ!」と騒がしい彼に、リレイヌはぽつりと言う。
「……亡くなったんですか?」
「……五年くらい前にね」
そっと返したリンは、懐かしむように窓から見える空を見上げた。リレイヌはそんなリンをじっと見つめている。
「んまあ! そんなことは置いといてさ! 俺、リレイヌちゃんと仲良くしたいなぁ〜。手始めにリンちゃん、って呼んでみて!」
「……」
無言のリレイヌに、リンは攻めすぎたか……?、と心の中で汗をかいた。そんなリンの内心を知ってか知らずか、リレイヌはまっすぐに彼を見つめ、口を開く。
「リレイヌです。よろしくお願いします、リンちゃん隊長」
「隊長は取って欲しかったかな……!」
はは、と笑うリン。底抜けに明るい彼の笑顔は、見ていてとても輝かしいものだった。




