109.食堂にて
ガヤガヤとうるさい広い食堂。そこに連れられた四人は、リオルの案内の元適当な席へ。そっと腰かけ、出された水に礼を言うようにソレを運んできた人物に対し軽く頭を下げてみせる。
「さて、それで、お前らは今まで地下世界でどんな事をしてたんだ?」
そう言い笑顔を浮かべるリオルに、皆はそろりと視線を合わせると、ほぼ同時にこう言った。
「「「「盗み」」」」
「……盗み?」
キョトンと目を瞬くリオルに、率先して説明するようだ。睦月がすぐに口を開く。
「そ。俺ら地下世界ではほぼほぼ盗賊だったからさ。善良な地下住民からいろいろ盗んでは奪ってた」
「はー、そりゃまた…………なんで??」
「俺らの師匠である人からそう指示されたから」
「ほう」とリオル。頷く彼は、しかし納得はしていないようだ。難しい顔で、悩むように口元に手を当てている。
「その師匠……さんは、お前らに何を教えたんだ?」
「戦い方。あとは、そうだな……生き方、だろうな」
「生き方?」
「おう」
こくり。頷いた睦月。
リオルはそんな彼を視界、ゆっくりとその場にいる四人を見回した。あの頃と、何ら変わらぬ面子。幾年の月日を経て成長した事が伺えるその顔には、どこか並々ならぬ自信すら感じられる。
「(それほどまでに、いい師に巡り会ったのか……)」
小さく笑い、リオルはそっと瞳を伏せた。どこか安心したような顔の彼に、アジェラが片手を上げながら「リオル様はどうだったんですか?」と疑問を問うた。リオルはそれに小さく目線を移動させながら眉尻を下げる。
「俺の方は……大したことはなかった。強いて言うならウェロが説明したことがあったくらいだ」
「……じいさんの件だな」
「……ああ」
頷くリオル。その顔色はやはりというか、当然暗い。
睦月もアジェラも、よく知る者の死に対し眉を寄せて下を向いた。グッと拳を握る彼らふたりに、リックはちらりと目を向けなんとも言い難い気分で腕を組む。
「いよーっす! シェレイザの旦那!」
と、そこへ明るい声が落とされた。爽やかというよりはただただ底抜けに明るいそれに、顔を上げたリオルが「おお」とその顔に笑みを浮かべる。
「リンちゃん隊長。戻ってたのか」
かけられる声。
名を呼ばれた人物は、「今し方ね」と告げて朗らかに笑う。
薄い、紫色の髪を持つ男性だった。頭に濃い緑色のバンダナを巻いた彼は、その橙色の瞳を柔らかに細めながらこの場にいる者をゆるりと見回す。そして、にこりと笑顔に。なったかと思えば「なにこのかわいい子ー!!」とはしゃぐようにリレイヌに寄った。
「え、めっちゃかわいい!! お人形さんみたい!! こんなかわいい子引っ掛けて何してんすかシェレイザの旦那!!」
「言い方が良くないぞ、リンちゃん隊長。──彼女はリレイヌ。俺の古い友人で明日よりこの戦争に参加してもらうことになっている者だ」
「え、こんな子が戦争に……?」
ふと聞こえた新たな声。振り返れば、そこにはふわりとした長い茶髪を揺らす女性がひとり。髪と同じ瞳を不安に彩りながら、腕を組んで立っている。
「柊隊長もいたか。──そうだ。リレイヌだけじゃない。この場にいる他三人も戦争に参加してもらうことになっている」
「そんな……まだ若い子達じゃない。そんな子たちまで戦いに繰り出すなんて……」
「若くとも実力はあると思うぞ。なんせ、コイツらはあの地下世界を生き抜いた者たちだからな」
「地下世界……?」
柊と呼ばれた女性が目を見開く。驚いたと言いたげな彼女を尻目、リレイヌに絡んでいたリンたる男性が「へえ、すご」と声を漏らした。
「地下世界っていうと、近年その存在が確認された世界っしょ? いやぁ、そんな所からやって来たなんて……そりゃ驚きだねぇ」
ケラケラ笑い、リンは言った。そんなリンと、そして不満気な柊を交互に見る皆に、リオルは説明せんと口を開く。
「戸惑わせて悪いな。この二人はこの戦争で動かす軍の隊長を勤める者たちだ。──女性の方が柊優花。男性の方がリン・デルヘムという。言っておくが、このふたりはかなり強いぞ」
「へー」
頷く睦月。ちらりと紹介されたふたりを見る彼は、どうでも良さそうな顔で頭の後ろで腕を組む。
「……とりあえず、皆疲れてるだろ? 諸々の説明は明日するから、今はひとまず休むといい」
そっと告げたリオル。それに頷く面々は、案内を名乗り出たリンに率いられ静かに食堂を後にする。残ったリオルはそんな皆の後ろ姿を見送り、そっと、拳を握っていた。




