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108.重荷を背負う

「やーなこった」


 静寂と困惑、ほんの少しの恐怖が広がるその場で、睦月は後ろ頭に手を当てながらのんびりとそう言った。まるでそんなこと知りませんよと言いたげな彼に、「拒否権はねえっつったろ」とウェロは言う。


 しかし、睦月は依然拒否の姿勢を示したまま、んべ、と赤い舌を出して見せた。そして、彼は言うのだ。


「俺は国なんかのために死ぬなんて真っ平御免だね。どうせ死ぬなら──ダチのために死にてえんでな」


「!」


 ハッと顔を上げたリオルをチラリと見て、睦月は鼻を鳴らした。その余裕溢れる姿に、昔と何ら変わらぬ彼の様子に、リオルは咄嗟に、再び溢れそうになる涙をさっと拭う。


「ダチのために死にたい」


 そんなこと言うのお前だけだよと、心の中で笑った。


「……ま、協力するならなんでもいいけどよ」


 ウェロは突如見せつけられた男同士の友情に、すさまじく嫌そうな顔をしながら言った。睦月が「んだよその顔」と文句を言っている。


「……テメェらも文句はねえな?」


 ひとまず睦月のことは無視して、ウェロは残り三人を見回し一言告げた。拒否を許さぬその問いかけに、彼・彼女らからの答えは返されない。

 しかし、それでも良かったようだ。彼は「んじゃ決まりってことで」と踵を返すと、そのまま外へ。出ていく彼と、それを追うように消えていった魔導生物を見送った皆は、少し沈黙した後、自然とリオルに視線を集めた。リオルはその視線を一身に受けながら「悪い」と一言。申し訳なさそうに謝罪する。


「……戦況はそんなに悪いのか?」


 リックが問う。リオルはそれに眉を寄せると、ただ一言。「ああ」を返した。


「敵国は俺らを徹底的に潰したいらしい。各国手を取りあって総攻撃を仕掛けられたのがこの前の話。魔導生物を駆り出してなんとか凌いだけど、正直絶望的な状況だよ」


「そんなにか……」


「……藁にもすがる思いだったんだ。お前らが居てくれたら、きっとこの戦争を生き抜くことが出来ると思ったから、だから俺たちは賭けに出た。実在するという地下世界-アンダーグラウンド-。そこに通ずるであろう扉を開き、契約済みの魔導生物を送り込んだわけだ」


 適当な椅子に座ったリオルは、そこで顔を覆った。「もうどうすりゃいいのか分かんねえのよ」と告げる彼は、相当追い込まれているようだ。疲れたように息を吐き、「俺には知識も知恵も足りない」と嘆くように言葉を吐く。


「勝利しないと皆死ぬ。けど、どう導けばいいか分からない。敵国は着実に力をつけてるし、たくさんの命が肩の上に乗っかってる。その重荷を一人で背負うのは……ちと辛いもんでな」


「ウェロがいんのに?」


「ああ、言ってなかったな。この戦争に関する責任は、シェレイザ家現当主の俺が負うことになっててな。魔法を使える貴重な人材、ってこともあって、なんか選ばれた」


「……お疲れ」、と睦月。ちょっと哀れむような彼の視線にへら、と笑い、リオルはよいしょと立ち上がる。


「まあ、立ち話もなんだ。どっかで座って話そうぜ。お前らにはたーんと聞きたいことがあるしな!」


 そう言い二カッと笑うリオルは、疲れなどを吹っ飛ばすように片手を上げた。そうして「しゅっぱーつ!」と歩き出す彼を、皆は困り顔で追いかける。


 見てわかるほどの空元気。

 一体自分たちが居ない間に何があったのかと、それを聞くのは少しだけ怖かった……。

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