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107.国のために

「──取り乱してすまんかった。ひとまず、皆おかえり。よく戻ってきてくれた」


 赤い目元をそのままに、リオルは朗らかにそう言い、笑った。また皆に会えた嬉しさを存分に分からせてくれる彼の様子に苦笑を零し、皆は揃って「ただいま」を口にする。


「長い旅路だったな。あの時から今まで、お前らが何してたか聞かせてほしいもんだ」


「いくらでも聞かせてやるよ。けど、その前に……地上では争いが──ある人に、戦争が起きてるって聞いた。一体何があったんだ?」


 睦月の問いかけに、リオルは沈黙。苦々しげに眉を寄せると、「それは……」と言いづらそうに頭を搔く。


「その、なんだ……いろいろあって……」


「そのいろいろを聞きてえんだって。なに。そんな言いづれえことなわけ?」


「……まあ、その……」


 もごもごと口ごもるリオル。何かを言いかけ、やめる彼に皆無言になっていれば、ふとそこに響く「俺から話そう」という静かな声。


「お、旦那ぁ〜」


 まだこの場にいる魔導生物が、今しがたこの場にやって来た人物にゆるりと手を振った。それを無視して皆の方へと歩んできたひとりの人物は、口にくわえたタバコを吹かしながら「それにしても懐かしい顔ぶれだなおい」と睦月とアジェラを一瞥。ちらりと驚きに目を見開くリレイヌを見て、そっと目をそらす。


「ウェロ!」


 リオルが彼を呼んだ。

 呼ばれた彼は、そっとリオルの肩に手を置くと、静かに己より背の低い皆を見下げてみせる。


「はじめましての奴もいるから一応名乗らせてもらおう。俺はウェロ。今回の戦争で総司令を勤めている者だ」


「総司令ぃ?」


 器用に片眉を上げた睦月を尻目、ウェロたる男は話し始める。


「今より一年ほど前のことだ。俺らの住むココより南東に位置する国で、ひとつの争いが勃発した。争いは徐々にその範囲を広げ、やがて国同士が戦い始めた。──当時シェレイザ家当主であった俺らの叔父は、名高い権力者に頼まれその争いを止めるべく遠路はるばる海を渡った。そして、渡った先で殺された」


 ワントーン落ちた男の声。

 それに皆が言葉を飲み込み、静かに語る彼を見る。


「殺されたジジイの亡骸は海に捨てられ、長い時間をかけて海洋を漂い──魔導生物……ココにいるコイツに拾われた。この魔導生物の手によりシェレイザ家に運び込まれたジジイはそれはそれはひでえ有様で、目も当てられねえくらいの損傷だった。きっと、苦しみ抜いて死んだのは間違いない。……俺らは抗議するように依頼をしてきた権力者に訴えかけた。だが、それは武の圧力により封じられた」


「……そんな」


「……当時魔法を学んでいたリオルがいなきゃ、きっと誰も生き残りはいなかったにちがいない……それほどまでに、敵国のやり方は非道だった。……俺らは武器をとった。そして、復讐にそれを振るった。ジジイの仇を殺すまで、あの鼻の長い権力者を殺すまで、この争いを続けるつもりでな」


 誰も何も言わなかった。いや、言えなかったが正しいだろう。

 あの優しいシェレイザ家当主が、まさか殺されていたなんてと……。困惑する皆に、男は続ける。


「国同士の諍いだ。当然民も巻き込まれる。だが、民は皆俺たちの味方だった。誰もがシェレイザの復讐の為に立ち上がった。それほど、ジジイは偉大な人物だったんだ」


「……だからって、良いのかよ……戦争なんて……」


「そ、そうですよ! 当主様はそんなこと、望んでないかもしれないじゃないですか! それに、その……そ、そうだ! シアナ様! シアナ様は一体なんと──」


「シアナ・セラフィーユか? アイツは残念なことに行方不明だ」


「え」とアジェラが声を漏らす。そうしてちらりと静かなリレイヌを見る彼に、ウェロは言った。


「あらゆるツテを使いシアナ・セラフィーユに話をしようとした。しかし、アイツは何処をどう探してもいなかった。いると思われていた龍の墓場にすら、その姿はなかったんだ」


「そん……い、一体なぜ……」


「知るかよ。そんなのこっちが聞きてえくれえだ」


 吐き捨てたウェロは口にくわえたタバコを軽く揺らすと、「んで、こっから本題」と戸惑っている皆を見回す。


「地下世界-アンダーグラウンド-から無事に生還したお前ら四人に、この戦争に協力してもらう」


「は、はぁ? 戦争にって、俺らがなんで……」


「言っとくが拒否権はないぞ。そもそも、その為にわざわざ魔導生物と契約してまで俺らはお前らを連れ戻したんだしな」


 驚く睦月がリオルを見る。その視線を受けたリオルは、苦々しい表情で下を向いた。この反応を見るに、どうやらウェロの言い分は本当のことらしい。


 広がる沈黙。痛いくらいのそれを気にも留めず、男は言う。


「お前ら四人には、国のために死んでもらう」


 冷たく吐き捨てたその男。

 そんな彼を憎々しげに見つめるリレイヌは、すぐに表情を消して拳を握った。爪が皮膚を裂くほど、強く、強く……。

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